被災の教訓を備えに活かす「災害時の決断力」都内大学で公開講座

2022年2月、都内大学さん主催で、在学生及び一般の方々を対象としたハイブリッド型(会場+オンライン)の防災講座を担当しました。テーマは「災害時の決断力」で、命や暮らしを守る備えにつなげることを目的に、座学や演習を行いました。

本稿では当日の内容に準じてチェックポイントをいくつかご紹介します。

目次

講座の内容

講座の内容は次のとおりで、時間は90分(間に換気のために5分休憩)で行いました。後半やや駆け足になってしまいました。

● 被災地支援活動の教訓と求められる決断
● 災害時の決断のポイント
● 首都直下地震被害想定の解説
● 災害から命と暮らしを守るための備え
● 防災・災害時の決断ケースワーク
● まとめ

各内容のチェックポイント

それぞれの内容のうち、チェックポイントをご紹介します。

被災地支援活動の教訓と求められる決断

冒頭では筆者の被災地支援活動を通じて学んだ「被災の教訓」を具体的な場面で示し、実際にその場面で参加者の皆さんだったらどうしますか、という問いかけから行いました。具体例についてここでの明示は避けますが、いずれの決断に非常に悩む場面です。しかし、被災された方々は実際にそのいずれかを選択しなければなりませんでした。

たとえどんなにつらくても、悲しくても生き続けていくということ。そして生きるための支えとなるような「大切な何か」をしっかりと守れるように備えなければならないこと。その点を少しでもイメージしていただけるようにしました。

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写真は釜石鵜住居復興グラウンドの石碑です。「あなたも逃げて」と一言だけ力強く刻まれています。この言葉の意味をよく考えてください、というのが最初のメッセージです。

災害時の決断のポイント

実際に被災された方々が直面した様々な決断、また筆者自身の経験も踏まえて「災害時の決断」のポイントについて整理しました。

情報受発信量と被害の程度

 

こちらの図は被害の程度と情報受発信量の関係を図式化したものです。被害の程度が大きくなればなるほど、詳細な情報を把握することが難しくなります。正確には「たくさん情報があっても、それを伝えたり受け取ったりする人やモノが不足する」という表現になります。

情報が足りなければ判断を誤るかもしれません。判断に必要な情報が集まるまで待っていれば対応が遅れてしまいます。また、そもそも情報の持つ意味や取るべき行動が理解できていない(勘違いや思い込みを含む)ならば、情報があっても適切な決断はできません。

それでも、目の前に例えば津波や火災が迫っているのであれば、何らかの決断を迅速かつ適切にしなければならないという場面に、私達は直面する可能性があるのです。

分からなくても決めなければいけない

 

では、どうしたら良いのでしょうか。

例えば消防士さんや自衛隊の方々を想像してください。彼らはどんな大規模災害時にも迅速かつ適切に行動します。それができるのは「日頃から教育訓練を重ねている」、そして「指示命令系統がはっきりしている」からと考えられます。つまり限られた情報でも事態を推測して現場で判断できるだけの知識と技術を身に付け、かつ指示により行動の優先順位も明確になるため「自分が今、何をしなければならないか」がはっきりしています。

私たちは消防士でも自衛官でもない、普通の市民です。日頃から高度な訓練を受けることも、全体を把握した指揮所から指示を受けることもできません。

ですが、市民なりにできることもあります。「何が起きるかを想像して、やるべきこと・優先すべきことを考えておく」ことです。その方法とポイントを考えてみましょう。

首都直下地震被害想定の解説

まずイメージしやすいところで首都直下地震の例を紹介し、被害想定について解説しました。詳しくは 内閣府の首都直下地震被害想定(内閣府 防災情報のページ) 等をご覧ください。

また昨今では新型コロナウイルス感染症の影響も視野に入れなければなりません。避難所での三密回避は困難な状況ですから、在宅避難や分散避難も検討しておく必要があります。また、地震による一時的な経済被害は新型コロナウイルス感染症による経済被害を大きく上回ります。

従って「命(生命)を守る」「暮らし(生活)を守る」だけでなく、仕事や預貯金・財産資産といった「人生」に関わる備えも想定しておく必要があります。

災害から命と暮らしを守る備え

では具体的にどんな備えをしておくことが、いざというときの決断へとつながるのかという点についても触れていきます。本稿では「3つの生」について触れます。これまでにも何度かご紹介している図式ではありますが、改めて。

守るべき3つの生

 

災害時に求められる決断は、様々な時間帯や場面で生まれます。商業施設にいるときに火事が起きたら?海の近くで地震があったら?山や川の近くに住んでいて大型台風が近づいてきたら?

まず考える、優先すべき決断は「生命を守る決断」です。つまり死なないためにやらなければならいことは何か、に集中することです。施設内火災ならとにかく煙を避けながら安全な場所へ。津波から逃げるために高台へ。洪水等に備えて高台へ。

生活、人生について考えるべきことはありますが、まず生命を守るための決断を。この点については特に風水害避難についての部分で「生存避難(Evacuation)」と「生活避難(Sheltering)」という表現でも説明しています。

また、災害時の決断に必要な情報を少しでも早く、また多く集め、適切に伝達していくために役立つスマートフォンアプリなども紹介しました。

いざというときに役立つスマホアプリ例

防災・災害時の決断ケースワーク

ケースワークでは 防災カードゲーム「クロスロード」(内閣府 防災情報のページ) 市民編を例に問題を出し、会場の方はYES/NOのフリップを、オンラインの方は「手を挙げる」ボタンを使って意思表示していただきました。

日常生活での場面から、避難行動、避難所での対応、ペットのこと、災害情報…それぞれの問題についてどちらにしたかと、理由をお聞きした後にポイントを解説する、という流れで進めました。

会場には大学生、オンラインには全国各地から様々な年代の方がお申し込みいただいたので、各設問ごとにそれぞれからご意見を聞くことで世代や地域を超えた意見交換の機会ともなりました。

講座のまとめ

まとめの部分では改めて防災教育・訓練の大切さをお伝えし、3つの教材やプログラムをご紹介しました。

○ そなえる防災|NHK

○ ちょボットの防災ランド|Yahoo!きっず

○ 全国一斉シェイクアウト訓練2022|YouTube

特に地震はいつ、どこで起きてもおかしくありませんので「その瞬間にどうする!?」というイメージを持っておくことは重要です。どんな知識や経験も、最初の揺れでケガをしてしまっては役立つことはありませんので、適切な判断・行動をするためにもまず安全行動をしっかりと!

日常生活もまた決断の連続、後悔のないように

以上が講座当日の大まかな流れとポイントでした。

私たちの日常生活もまた、決断の連続です。ごはんは何を食べるか?今日はどこへ行くか?買い物をするか?進路はどうする?…違いは「時間やその他に一定のゆとりがある」ということです。今すぐこの瞬間に決めなければ、というものは限られます。

ただし、ゆとりがあれば正しい決断ができるとは限りません。必要な情報や環境、判断に関する知識や経験が重要な点では同じです。

災害時のように「ゆとり」がない場面でも、そして日常生活での決断においても、慌てて失敗したり後悔したりすることのないよう、心がけておくことが大切なのだと思います。

【参考】大学関係の記事一覧はこちら

鵜住居復興グラウンドの石碑写真

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