そもそも「防災(ぼうさい)」ってなんだろう?
「防災」には大きく3つの考え方があります。まず、できるだけ自然災害による被害を出さないようにするという「災害予防」の考え方です。身近な例で言えば、耐震補強や様々な防災教育・訓練などです。
次に、自然災害が起きてしまった、もしくは起きそうな場合に、その被害をなるべく小さくするという「応急対策」の考え方です。応急手当や初期消火、大雨の時などの各種警報や避難誘導、避難所運営などがその一例です。
そして、災害による被害から立ち直るという「災害復旧」の考え方です。被害を受けてしまった家や建物を直したり、被災された方々が新しい生活へと踏み出したりしていくための様々な手続きや支援などです。
これらの考え方は「災害対策基本法」という、日本の防災対策全般に関わる法律で示されている、基本的な”概念”といえます。
防災とは「守りたい何かのためにとる、あらゆる行動」のこと
上記はあくまで法律・制度上の概念です。「正しい」のですが「分かりにくい」とも言えます。僕はもっとシンプルに考えていて、「防災とは自分が”自然災害等から守りたい何か”のためにとる、あらゆる行動のこと」だと考えています。
防災の「概念」や「考え方」は、法律や政策・条例、組織や団体のミッションとしては必要です。でも私たち個人に関して言えば「具体的な行動」である必要があります。その行動がすごいとか評価されているとか、そんなことは関係ありません。
あまり難しく考えずに「防災グッズを用意することも、家族で話をすることも、防災訓練に参加することも、とにかく自分のため、何かのため、災害に備える行動」、それは全て”防災”と考えてみてはどうでしょうか。
「”防災”なんて無理だ、”減災”が正しい」というご意見もありますが、僕はこう考えます。例えば本記事をご覧いただいている方にとって重要なのはたったひとつ、自然災害から「守りたい何かをを守れるかどうか」です。
「何か」が何なのかは僕には分かりませんが、それが守れれば残念ながら地域で被害が出ても、その人にとっての「防災」はその目的をある程度達成したと言えるでしょうし、もし守れなければ、例え世界中や日本中が無事だとしても「防災」が目的を果たせたとは、とても思えないでしょう。
防災に役立つ練習問題「あなたが守りたいもの」
僕なりに定義する「防災」において重要なのは、その人自身が自然災害で失いたくないもの、守りたいものに気付いているかどうか、ということです。よく講演会や研修などで行う練習問題(エクササイズ)があります。自分が自然災害から守りたいもの、これだけは失いたくない、という何かを想像してみてください。
考えられましたか。もしそうした「何か」を災害で失ったら、どんな気持ちになりますか。そんなことにならないように、あなたは今、何をすべきだと思いますか。その答えがすべて「防災」だと、僕は考えています。
なんで「防災」が必要なんだろう?どんな備えをすればいいんだろう?
私たちが住む日本は、地震だけでなく、風水害や噴火など様々な自然災害を経験してきました。世界的に見ても、これほど頻繁に大きな災害に見舞われる国は珍しいと言ってもいいくらいです。ですが、それだけ厳しい自然環境にある、ということは自然との距離が近く、恵みも多いということです。私たちの国には、色彩豊かな四季があり、豊富な水、そして海や山の幸があります。
自助・共助・公助は、事前と共に暮らす日本の知恵
『自助・共助・公助』という言葉を聞いたことがあるかもしれません。まず自分の身は自分で守り、次に地域や隣近所の人と助け合い、そして消防等による救助や行政による支援がある、という考え方です。
社会が便利になるにつれて自然を「楽しいレジャーの対象」としてだけ考えがちです。ですが、私たちはただ自然から何かを受け取るだけではなく、自然と共に生きていること、そして自然には様々な表情があります。
どんな備えをしておけばいいんだろう?
他の記事でもご紹介していますが、僕は『3つの生』という考え方と、それぞれの備えをご紹介しています。
命を守ること以外に「絶対に欠かせない」備えはなんですか、と聞かれたら
上記の「生命」に書かれているような、安全行動や避難誘導、耐震化などは命を守る基本的な備えです。
それ以外に、絶対に欠かせない備えは何かと聞かれたら「例え災害が起きても、それがないと困ること」だと答えます。そして、それは人によって様々ですから一概には言えないのですが、あえていえばトイレ、食事・水分、休憩・睡眠(プライバシー)の確保です。これらはあらゆる生活環境、年齢性別の方に必要だからです。
防災について考える機会とヒント
家庭・学校・地域で防災を考えるヒントについてご紹介したいと思います。自分(たち)に合った”防災”を探してみましょう!防災について考える場面はそれぞれのテーマに関連する質問を中心にご紹介します。
『学校』で防災について考える
学校での防災は、児童生徒への防災教育と学校・教職員としての備えである「防災管理」に分けることができます。防災教育は重要ですが、まずは学校としての備えがきちんとできていることが重要です。
これらは、実際の災害対応に重要な部分であると同時に、平時の防災対策では十分に行き届いていないことが多いポイントです。限られた時間や労力、予算の中での対策です。重点をしっかり押さえて対策を講じていくことが必要です。
災害発生後も含めた備え等については、下記の記事なども参考にしてください。まずは学校の防災マニュアル等で、上記を踏まえた対策を講じてください。
短時間でできる教材、宿題でも使える教材やプログラムが紹介されています。ぜひ参考にしてみてください。防災教育50選の内容を整理したまとめ記事(EDUPEDIA) を作成していますので、ご覧いただければ幸いです。また、下記の防災ゲームや教材もぜひご活用ください。
『家庭』で防災について考える
家庭での防災は「家族ひとりひとりが備える」ことがポイントです。特に非常持ち出し袋、防災備蓄の中身などは、家族ひとりひとりで必要なものが異なるはずです。「なんとなく」リュックに詰めて置いている方も多いと思いますが、年に1~2回は非常持出袋や防災グッズの中身を整理しながら、家族と話し合う時間を持ってみましょう。
重要なキーワードである「在宅避難」については別記事を作成しましたので、こちらを併せてご覧ください。
防災(教育)で難しいのは「誰もが詳しい訳ではない」ということです。特に、家庭で家族、子どもたちと一緒に考えようと思っても、何から、どうはじめたらいいか分からない、ということも多いと思います。そこで、ムリに「自分が教えるのだ」、「何か答えを出さなくちゃ」という気持ちにならず「いっしょに考える」ことからはじめてみましょう。
例えば地震についてなら次の6つがポイントです。
- 自宅の耐震化は大丈夫ですか。また地震安全行動「まず低く・頭を守り・動かない」を練習していますか。
- 地域のハザードマップや、各種の警報や避難情報について、正しく理解していますか。
- 地震でたおれそうな家具家財はありますか。あるとしたら、対策をしていますか。
- 家族が離ればなれになったときに、どうやって連絡をとるか、再会するかを決めていますか。
- 水(トイレ)、電気、ガスが一週間使えなくても家族が生活できるよう、備えていますか。
- 妊産婦・乳幼児、高齢、障がい、LGBTなど自分や家族の特徴に合わせた備えをしていますか。
今後、このブログでも家族で防災を考えられる教材、プリントなどを紹介していきたいと思いますが、それぞれインターネットや書籍を調べてみても良いでしょう。子どもの夏休みの自由研究としても有効です。なお、防災グッズの確認なら 減災グッズチェックリスト(人と防災未来センター) がオススメです。多言語化されていますので、外国人の方など、日本語が得意でない方に手にとっていただきやすいチェックリストです。
何よりも大切なのは「パートナーとしっかり話し合うこと」です。どちらか一方だけが一生懸命に取り組んでも、相手が理解してくれていないと、家族として適切な対応・備えは難しくなってしまいます。
『地域』で防災について考える
地域での防災は「それぞれの地域特性や住民特性を踏まえた対策を考える」ことがポイントです。地域には防災上重要な津波やがけ崩れが想定される地域、高層集合住宅が集まる地域、高齢化が進む地域、学校が多い地域・少ない地域など様々な特徴があります。まずは地域の特性や住民の特性を考えてみることからはじめましょう。
なので「自分たちの地域で生活する人たちが、何を心配しているか」を把握すること、その不安や心配の解決につながる訓練が重要です。個々の家庭の防災対策なのか、避難生活なのか、火災・津波対策なのか・・・。ただ「去年もやっていたから」という理由で防災訓練をするだけでは、同じ事の繰り返しになってしまいます。
くり返すのであれば「去年は何ができて、何ができなかったのか」、「今年はどうしたいか」など、テーマやお題を変えていくだけでもずいぶん違うと思います。誰かがリードして「本当に心配なこと、不安なこと」を解決できるような取り組みをはじめてください。
もっと詳しく知りたい!という時は…
学校・家庭・地域で防災について考える場合、自分たちだけではなかなか難しい場合もあります。防災や災害対応についてもっと詳しく知りたい!という時のヒントをご紹介します。
インターネットなどで学校・家庭・地域の防災に関する資料や本を調べてみましょう。まずは「自分の力で調べてみる」ことが重要です。ひとりで黙々と取り組んでも良いのですが、同じように考えている家族や知人、同僚と一緒にやってみると効果的です。誰かに教えてもらうことも大切ですが、自分で調べたり考えたりする過程で、より防災についての理解が深まります。
「防災リテラシーHUB」(都市減災サブプロジェクト) というサイトでは、防災に関する研究資料・論文から分かりやすいサイトまで、体系的に検索することができるのでオススメです。僕の作成した教材なども一部紹介されています。
また、下記の記事でスマホで手軽に、かつしっかりと学べる防災クイズゲームを紹介しています。子ども向けですが、大人でも身につけてほしい内容になっていますので、ぜひアクセスしてみてください。
何らかの防災イベントや研修会に参加してみるとよいでしょう。インターネット等で調べていると、防災に関するイベントや研修会を見つけることができます。参加してみて「いい経験になった」と思ったら、関係者や講師に相談して、自分たちの学校や地域で学習会を開くとよいでしょう。
市区町村の防災課や危機管理担当部署、消防署の方にご相談いただくのが最初の一歩です。公的機関であれば、謝礼等を気にせずにお願いすることができますし、何よりもその地域の防災を担っているということで、一番身近に考えていただけます。
これは可能な限り自分たちで課題解決に取り組むということです。防災課・消防署・防災関係団体等から学んだことを、それまでの研修やイベントに参加したメンバーが、他の住民に伝えていくことも必要です。もし「そこまでは難しいな」ということであれば、まずは調べてみるところからやってみましょう。
もし災害が起きてしまった、または起きそうな時は…
僕自身の人生訓としても考えている3つの原則があります。『プロアクティブの原則』と言われており、危機管理・消防の分野、特に首長などリーダーシップを発揮しなければならない方々の心構えとして、その大切さが伝えられています。僕も含めて、普通の市民にとっても役立つことが含まれています。
疑わしいときは行動せよ。
判断に迷った時も、まずは行動するということです。迷っていても事態は変わりませんし、むしろ悪化する可能性が高いでしょう。例えば、大雨で避難勧告が出たとき、避難するかしないかなど「行動するか、しないか」で迷ったら、すぐに行動する、つまり避難をすべきです。
最悪事態を想定して行動せよ。
行動するにあたっては「最悪の事態」を想定します。「いま、起きてはいけない最悪の事態、状況はなんだろうか」ということを常に考えます。大雨で言えば、あふれてきた水に流されてしまう、あるいは土砂災害に巻き込まれて命を落とすという状況が最悪の事態です。その事態を避けるために、とるべき行動は川や山から離れた避難所への早期避難(水平避難)か、それが難しい場合はできれば3階以上の頑丈な建物への避難(垂直避難)になります。
「行動しないこと」と「最悪の事態につながること」が結びつくかどうかが、実際に行動できるかどうかの分かれ目と言えます。そのためには、地域で起こる災害についての理解、ハザードマップの確認、安全行動や避難行動訓練など、日頃からの防災教育も重要となります。
空振りは許されるが、見逃しは許されない
最悪を想定して行動した結果、空振りとなってしまい、そのことで何か不利益があったり、人から責められたりすることがあるかもしれません。ただ、重要なのは「災害による直接的な(とても大きな)被害が避けられれたかどうか」ということです。
最終的には「見逃しをしないための、空振りであった」ということで周囲も自分も納得できるかもしれません。被害が起きてしまってから「あの時、こうしておけば…」と思っても時間を戻すことはできません。
災害による被害は誰にとっても「想定外」です。つまり誰に聞いても「絶対に正しい答え」はないと考えるべきです。だからこそ「最悪の事態を想定」し、行動することが必要なのです。そして「最悪の事態を回避するために必要な行動」につながる”選択肢”は、防災教育や防災訓練による知識や技能の習得によって増えていきます。
忘災から防災へ
災害のこと、備えのことを忘れてしまうのは仕方がないことです。毎日防災のことばかり考えている生活することはできません。ただ、もし自分や家族、身近な人に何かあったら「仕方がない」の一言で片付けることはでいません。「忘災から防災へ」。本記事が、皆さんと大切な何かを守るための一助となれば幸いです。