適切な災害対策・防災活動のためには「災害によってどのようなことが起きるか」を想像する力が大切です。
地震の揺れによって家具が倒れる”かもしれない”と想像することで、倒れないようにしようという対策につなげることができます。さらにもう少し具体的に想像すると、家具は倒れなかったけど、もし夜中だったら停電して真っ暗になって、割れた食器やガラスで足をケガするかもしれない。だから懐中電灯を用意しよう、スリッパやスニーカーを自分の部屋にも置いておこう、という対策につなげることができます。
実際に本教材を用いて、先生方が指導された事例記事を紹介しています。併せてご覧ください。
目黒巻とは
東京大学生産技術研究所の目黒先生が考えた「目黒メソッド」という災害状況想定から対策を考える手法を教材化し、その教材の形が巻物のように見えることから「目黒巻」と呼ばれています。災害後の状況を想像することで、災害前にどんなことが必要かを考えることが目的です。「目黒巻」は 目黒研究室のサイトで公開 されています。
こちらは「水害」をテーマにされていますが記入例です。本項で紹介しているシートよりも詳しく書いていけますし、巻物状にして他の方と比較するなどもできます。詳しくは上記リンクからご確認ください。
教材・指導案・説明資料のダウンロード
この教材は、東京大学生産技術研究所目黒研究室、及び東京都のご協力により、同研究室が作成した教材「目黒巻」を中学校〜高校における防災学習用で「災害状況を想像する力を身につける」ことを目的にアレンジしたものです。学校や家庭・地域ですぐに使えるよう、ワークシート、生徒用説明資料、指導者用の指導要領、振り返りシートを作成しています。
災害状況を想像する力を身につけよう[簡易指導案].docx
災害状況を想像する力を身につけよう[説明用資料].docx
災害状況を想像する力を身につけよう[ワークシート].docx
災害状況を想像する力を身につけよう[ワークシート].pdf
防災学習共通振り返りシートver.5.0
各ファイルがうまくダウンロードできない場合は お問い合わせフォーム からお知らせください。
教材の紹介動画(スマートフォン閲覧推奨)
教材を使った授業・研修等の進め方
準備からまとめまでの流れをご紹介します。あくまで一例ですので、授業や研修を実施する環境に合わせてアレンジしてください。また、ワークシートと説明資料で教材が完結しますので、長期休暇中の課題として出したり、体験学習の流れに組み込むなどの使い方もあります。
実施の準備
基本的には班やグループでの学習となります。個人学習でも可能ですが、班で意見交換しながら進めたほうが効果的です。予めワークシートと生徒用配布資料を人数分、印刷して配布してください。学年単位で一斉に授業を行う場合などは、事前の職員研修や学年会議で「指導要領」を配布し、共通認識を持って授業できるようにしておくと効果的です。
防災講座や研修等では、オンラインでの利用も可能です。参加者に事前に配信・印刷を依頼しておき、研修時間内で記入してもらう方法もありますし、時間に余裕がなければ事前に記入してもらって当日は発表・共有のみ、ブレイクアウトルームで行うという方法もあります。
ワークシートについての説明
ワークシートの書き方について説明します。以下、例文です。
これからプリントを使って「自分が災害(地震や台風など水害でも可能)にあった」ことを想像しながら、物語を書いてみます。プリントに「数分後」「数時間後」「数日後」と書かれていますね。その時間、自分がどんなことをしているか、まわりがどんな状況になっているかを書き込んでいきます。災害が起きた後のお話なら、どんな状況を想像してもだいじょうぶです。良いこと、悪いこと、びっくりすること・・・自由に想像して書いてみましょう!
説明する時のポイント
あまり難しく考えず、思いついたこと、想像したことを書いてよい、ということを強調して説明します。正しい状況や正解を想像しようとすると、なかなか書けなくなってしまいます。良いことだけでなく、不安なことや心配なことも書き出してもらいましょう。今すぐには解決できなくても、これから備えていけば大丈夫!」というメッセージを伝えていただけると、書きやすくなると思います。
但し、これまでに様々な防災教育を実践している場合は別です。その場合は過去の防災教育や訓練の学習成果を評価するという視点を持ち、学んだことが書ける(気付いてもらう、思い出してもらう)ように促します。
記入と状況想定
まず、氏名と設定を記入してもらいます。最初の記入(15〜20分)は個人で行い、班の中でお互いに話し合わないようにします(後ほど話し合いの時間を設けるため)。あまり記入がはかどらない場合は、近くの児童生徒・参加者同士で話し合うことを許可したり、指導員がヒントを出したりします。
プリントの左上にある「状況」の設定例です。季節や曜日・時間を変えると、想定も大きく変わる可能性があることも伝えてください。
震度: 7 ※東日本大震災、阪神・淡路大震災の最大震度
季節: 冬 ※とても寒い日です。
天気: 晴 ※雨の心配はなさそうです。
曜日: 水曜日
時刻: 12:30 ※お昼休みの頃です。
あなた:自分の名前と、家族のなかでの立場(姉・妹・兄・弟など)
家族:いつもの水曜日のお昼、家族がどこで何をしているか書きましょう。
例)父は**で仕事、母は自宅、姉は大学にいる・・・など
設定は自由に変更することができます。特に考えて欲しい災害やシチュエーションを工夫して設定してください。児童生徒・参加者自身に設定してもらう場合は「一番、災害がおきてほしくないタイミングはいつだろう?」といった問いかけをきっかけに設定することも効果的です。また、複数の条件下で繰り返し行うことも効果的です。
実践のコツ・工夫
実践のコツは「できるだけ具体的な状況を想像してもらう」ことです(但し、被災経験のある地域・学校、あるいはそれに準じるような参加者がいる場合などでは、適切ではない場合もありますのでご注意ください)。
安全を確保したのち、安否確認と並行して確保しなければならない環境であるためです。僕はこれらを平時・災害時を問わず求められる【安全衛生の原則】と呼んでいます。授業によってある程度、具体的なイメージ・想像をしてもらってから、関連する防災体験学習などへとつなげると効果的です。
○ 地震(風水害や事故等でも)が起こったら、いつ、どこに行くだろうか?
○ 自分や、まわりの人の安全は確保できるだろうか?
○ トイレにはいつ行く?食事や水分はいつとれる?休んだり、寝たりする場所は?
○ 家族とはいつごろ連絡が取れて、いつ再会できるだろうか?
○ 電車やバス、電気、ガス、水道などはどうなっているだろうか?
○ 近くにいるひとたちと、助け合っていくことはできるだろうか?
記入後は、各班の中でお互いにワークシートを用いて話し合いをします(プライベートな内容が記載されていることもあるので、シートを見せる必要はありません)。「書けていない」人を責めたり、明らかにおかしなことを書いている生徒を批判したりしないよう、気をつけてください。もし、問題や課題があったら「どうやったらそれが解決できるのだろうか」、「事前に備えるにはどうしたらいいか」といった議論になるよう、フォローしていきます。
授業のまとめ時間では以下のポイントを伝えます。
- 災害時の状況を具体的に想像する力を身に付け、備えることが、重要であること。
- 設定条件を変えて、繰り返し行うことが災害を想像する力を高めてくれること。
- 発災後について考えたら、発災前にできることも併せて考えて、普段の防災に活かしていくこと。
その他、先生方が体験学習等を通じて感じたことなどもお伝えください。なお、記入したプリントは一度回収して、目を通していただくと生徒の災害に対する考え方などを読み取ることができ、とても参考になります。できれば、生徒には返却してあげてください。
最初は「ウチの生徒は防災について勉強もしてないし、こんなに書けるだろうか」と思われる先生が多いのですが、実際に書いてもらうと、「思っていたよりもたくさん書いていたので驚いた」という感想をいただきます。もちろん、個人差がありますのであまり筆が進まない生徒もいますが、重要なことは「想像力をはたらかせてみる」ということにあります。書けない生徒も、話し合いを通じて「こういう考え方をすればいいんだ」と気付くことがあります。
できれば、他の防災教育の導入時に一度実施して、防災教育のまとめの時期にもう一度実践すると、教育効果を実感できるかもしれません。ぜひ、学校等での防災教育にご活用ください。
プリントだけで防災教育シリーズについて
『プリントだけで防災教育シリーズ』は、様々な防災教育実践やサポートをさせていただく過程で得た教訓をもとに開発した教材シリーズです。公開する教材は必ず実践経験を踏まえており、プリントに従って作業すれば一定の学習成果があることを確認していますが、全ての学校・地域・生徒において学習成果を保証するものではありません。