福祉関係者の防災・災害対応~ADLと環境に応じた備えを学ぶ教材開発~

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国際福祉機器展2015

2015年10月7日(水)~9日(金)、東京ビッグサイトで『国際福祉機器展2015』が開催されました。3日間でおよそ12万人の方が訪れる、大変活気のあるイベントでした。

障害者の災害対策チェックキットについて

僕は8日(木)に参加しましたが、その主な目的は同日に行われる国立障害者リハビリテーションセンター研究所による展示と、プレゼンテーション『障害者の防災対策支援』への参加にありました。同センターの先生とご縁があり、同センターが開発した教材『障害者の災害対策チェックキット』について詳しくお話を伺いたい、体験してみたいということでご相談したところ、今回に至りました。

○ 障害者の災害対策チェックキット|国立障害者リハビリテーションセンター研究所

同キットの詳細についてはリンク先からご確認ください。キットのPDFデータなどもダウンロードできますので、興味のある方はダウンロードして実際に使ってみてください。


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(写真:試作品は各種キットがケースに入っています)

展示会でご担当の先生とお話しし、12月に僕が担当する福祉関係者向けの研修において使うことについての許可を得ました。但し、キットを使ったワークショップは2~3時間かけて行うそうですが、僕が受け持つ時間は1時間程度の時間しかワークショップに割くことはできないため、コンセプトや手法を踏襲し、学習成果を維持しならがもより簡潔に行うことができるアレンジが必要になります。

そのアレンジを考えながら感じたことは「これは、誰もが防災について学び考える教材として有効かもしれない」ということです。以下の関連記事にも少し触れています。

「次に災害が起きたら死ぬしかない」をどう変えていくか

福祉関係者、障害・高齢の当事者の方、支援者・介護者の方、ご家族・ご友人、いずれにおいても災害に備えようとするとき「まず、何からはじめるべきか」という問いにぶつかります。そして必要なことは分かっているけれども、何から手をつけるべきか分からないというだけでなく、対策をとってもそれが本当に役立つのか自信が持てない、そもそも災害に備える余裕などなく、諦めの気持ちが強い、など様々な課題があります。

例えるならば、一般的に防災の専門家・有識者と呼ばれる方々が言われているような「●●を備えましょう」「●●なときは●●しましょう」という内容は「ビニールに水性ペンで書きましょう」というようなものです。前提条件や環境そのものに(書かれる下地、書くペン)課題があるのであって、何を書くか以前の問題です。

研修や災害支援の現場でも、障害をお持ちの方やご高齢の方から聞く「次に災害が起きたら死ぬしかない」という言葉は、防災に携わる者としては大変厳しい言葉です。恐らく、今まで聞かされてきた防災の手段は「ビニールに水性ペンで書け」ということだったのでしょう。書いた方がいいのは分かっているけど、できないから困っている。そこをどう解決するか考えるのが防災なのですが、そのようなアプローチがなければ「どうやっても書けない」と諦めざるを得なくなります。

備えを諦めざるを得ない環境にあるということは「災害への備えから排除されている」ということです。インクルーシブな防災が示す理想と相反する現状がそこにあります。つまり、そうした「諦めの境地」にいる方々に目と、心と、身体を向けてもらえるようなアプローチ、教材やプログラムが必要だということです。

「障害者の災害対策チェックキット」の最大の特徴は、僕自身も開発していますが一般的な「防災グッズを備える」というワークショップの方式にADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)を確認する生活確認シートを取り入れている点です。

「次に災害が起きたら死ぬしかない」と思わざるを得ない環境が、どのようなADLによって生み出されており、家庭・地域・交友関係などの社会資源がどのようになっているのか、ということは極めて個別性の高い内容で、一般的な防災のスケールで考えることは困難です。

逆に考えれば、その個別性を具体的に把握することが、備えの第一歩になるということです。さきほどの例えで言えば書きたくても書けないのは、個人の努力ややる気の問題ではなく、環境の問題であり、複雑に見える環境もひとつひとつの生活動作の積み重ねです。困難を分割して考えるためのヒントが、生活確認シートにあります。

新たな教材の開発に向けて

とはいえ、「~チェックキット」をやろうと思うと時間やコストが課題になります。深刻な環境にある方、その支援者の方にとって1時間という時間は大変重いものだと考えています。2時間が1時間になるだけでも、かなり負担は変わるはずです。できるかぎり「~チェックキット」の学習成果、クオリティを落とすことなく、時間やコストを短縮する教材、プログラムの開発にチャレンジします。

12月の研修は言わばその「テストケース」です。福祉関係者の方々のご意見も踏まえて良いものを作りたいと思います。結果は、追ってご報告させていただきますので、今しばらくお待ちください。

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