ICTとアナログ併用による地域協働型災害ボランティアセンター運営訓練の流れと課題<後編>

市区町村社会福祉協議会(以下「社協」)で、ICTを活用した災害ボランティアセンター(以下「災害VC」)の運営訓練が行われました。また、同訓練は社協が開催した「災害VC運営スタッフ養成講座」の受講生をはじめ、地域の関連団体等も参加する”地域協働型”の訓練として行われました。

筆者は同訓練のアドバイザーとして協力させていただきました。本稿では同訓練の流れや課題について<後編>として、ICT活用訓練時の操作やポイントについてまとめます。

本稿で示す用語等はあくまで訓練や検証段階における「一例」であり、実際の運用とは異なる場合があります。また操作画面等についても具体的な表示ができないため、抽象的な表現となります。詳細な説明についてご希望の方は お問い合わせフォーム よりお知らせください。

訓練全般や主要なポイントにつきましては下記の<前編>をご覧ください。

目次

「事前準備」と「翌日以降」をシミュレーションして再検証

ICT活用訓練に限らず、従来型の災害VC開設・運営訓練にも言えることですが、災害VCのように「突然始まり、中長期に渡り継続する、応急的な業務」の訓練においては、訓練当日だけでなくその前後を意識できるかどうかで、精度が大きく異なります。

参加者全員が意識する必要はありませんが、総務班やICT管理担当者、講師やアドバイザーなど、全体を俯瞰できる人材が事前準備や翌日以降を意識することが重要です。

従来型の災害VC訓練における時系列、事務処理の重要性は下記の記事でまとめていますので、併せてご覧ください。

本稿訓練においても、同様に「もし実際にこれを運用するとしたら、どんな「事前準備」が必要なのか、そして「翌日以降」にはどのような処理や手続き、引き継ぎが必要になるのかをシミュレーションし、再検証しました。

ICT活用訓練で使用したアプリケーション(前編から再掲)

ICT活用訓練で使用したアプリケーションについて改めて記載します。

①V(ボランティア)事前登録フォーム
 ボランティアの事前登録状況を管理するためのアプリです。

②V活動希望日記入フォーム
 ボランティアの活動希望日を管理するためのアプリです。

③V当日受付
 当日、災害VCに来たボランティアの登録状況を管理するためのアプリです。

④-1 ニーズ管理
 ニーズの受付~活動状況を管理するためのアプリです。

④-2 ニーズ管理・活動報告
 ニーズの進捗~活動報告を管理するためのアプリです。

事前準備 ~役割分担と運用に必要な作業をクリアにする~

当日の流れについては<前編>でも掲載していますでの割愛します。あまり難しいことを考えず「とにかく慣れる」ということを趣旨にされるのでしたら<前編>でも充分です。

本稿では「ひとまずやってみたけれど、不安が残る」という方や「実際にいちから導入・運用するとしたら、どこから初めて、何をすればいいのか」といった疑問がある方に向けて<前編>で紹介できていない【事前準備】と【翌日以降】についてまとめます。

今後、ICTを活用した訓練を実施する際に以下の点を意識していただくと、さらに実践的な訓練になります。

責任者・管理担当者・操作担当者を決める

最初にしなければならないのは社協内で災害VCにおけるICT活用を「誰が管理して」「誰が操作するのか」の範囲を決めることです。ある程度の規模であれば「一人で全てコントロール」できるかもしれませんが、現実的ではありません。また社協ごとに「災害VCマニュアル」があり、班編制や役割分担も決まっている場合がほとんどです。そうした既存の組織図との整合性も必要です。

災害VCに限らず、あらゆる業務におけるシステム運用は、責任者・管理担当者・操作担当者が明確でなければトラブルシューティングもままなりません。

● 責任者(決裁者)・・・ 災害VC業務の習熟が必須
● 管理担当者(アカウント管理者)・・・ 全体を統括、災害VC業務とICT業務全般の習熟が必須
● 操作担当者(アカウント使用者)・・・ 個別入力を担当、入力に関わる部分的な習熟が必要

まず責任者(災害VC長)は、災害VC業務全体におけるICTの役割を把握し、設計やルールの変更が必要になった場合、管理担当の提案等をもとに決裁します。管理担当者は、災害VC業務とICT業務全体の流れを把握し、点検・修正・管理等の作業を行います。操作担当者は、実際に操作・入力を担当します。

災害VCの担当班ごとに作業範囲を決め、流れを確認

これは議論の余地がある点ですが「従来のアナログ型(紙ベース)の運営とICT活用の運営を並行して行う」とした場合の考え方です。本稿では一般的な災害VCにおける担当班を例にまとめます。

● 総務班 ・・・ アカウント管理(契約管理)、印刷・広報等
● ボランティア受付班 ・・・ 事前登録、活動希望日(予約)、当日受付フォーム
● ニーズ班 ・・・ ニーズ管理フォーム
● マッチング・オリエンテーション班 ・・・ ニーズ管理・活動報告フォーム

加えて、既存のマニュアルに応じてどの部分がICTに反映されるのか、書式がどうなるのかなどは個別に整理しておく必要があります。筆者がご縁のある社協さんには、下記のような担当班ごとの業務フロー図をご提案して、検討を進めています。

運用開始に必要な準備や作業を行う

前項に挙げた役割分担や、作業範囲の整理と同時並行で実際の運用に向けた準備も必要です。総務班、または管理担当者の方が作業する部分になります。以下に一例を挙げます。

● 事前登録フォームを周知する(被災規模や募集範囲に応じて)
● 当日受付のために受付用QRコードを記載した用紙を出力する
● ICT活用の受付~報告までの流れに関する説明資料(オリエンテーション等で使用)をつくる 等

翌日以降 ~ICTの利点を活かすために定義やルールを定める~

多くの訓練は半日の2~3時間程度で行われます。事前登録、当日受付、オリエンテーション、マッチング、資機材貸与、送り出し、というのが一般的な流れです。ただ、この半日訓練ではなかなか見えてこないのが「翌日以降」の活動です。前日・当日・翌日以降の時系列については冒頭の別記事をご参照ください。

翌日以降の活動へとつなげていくために、災害VC運営では活動や業務、様々な情報の「引き継ぎ」や「可視化」が極めて重要な意味を持ちます。そして、ICT活用のメリットが情報共有やデータ化の簡便さにあります。

例えばいろいろな様式を会議資料として印刷配布せずとも、ブラウザ画面やPDF等で簡単にシェアできます。また、ボランティアの登録数やニーズの状況などを、Excelに打ち込んで数式でグラフ化など行わずとも、ボタン一つで表示できるのは大きな利点です。

こうしたICTの利点を最大に活かすためには以下で示すようなポイントを意識することが重要です。

定義を明らかにしてトラブルや処理ミスを予防する

これは通常業務にも言えることですが管理システムにおいて用語や作業の定義が不明瞭なのはトラブルや処理ミスの大きな原因のひとつです。

例えば「■■の場合はAで入力する」、「□□の場合はBで入力する」、「Aが■■から★★になったらCに変更する」というのが業務マニュアルで示されていたとします。これがマニュアルとして成立するのは「■■とは、〇〇のことであり、□□とは△△のことをいう」、「★★とは〇〇が●●になることをいう」といった、定義が明確な場合です。

■■と□□の違いを理解していないと、ある人はAで入力し、別の人はBで入力してしまいます。あるいは★★の定義がよく理解できず、いつまでもAが■■のまま、ということも起こります。

誰が入力内容の「正確性」をチェックするのか?間違っていた場合、誰が、どこまで補正するのか?考えればキリがありませんので、とりあえず本稿では「そういう(誤解・勘違い・先入観等によるトラブルやミス)事態をなるべく予防できるように、用語や作業手順の定義を明確にしましょう」という提案に留めます。

ただし、活動状況によってはセンシティブな情報、判断に迷うニーズなども出てきます。定義付けによる判断が難しいケースについては、ケース会議等を設けてチームで話し合って線引きすることも必要になります。

データの保存方法や保存場所、公開範囲やファイル名も決めておく

ICTを活用し、かつ従来型の紙ベースによる作業も並行する場合、必然的に「PDFファイル」などの電子データが積み重なっていきます。過去のデータに検索をかけてソートしたり、個別に出力することもあるでしょう。

その場合、管理システムから出力されたファイルはいったいどこに保存するのか?誰が閲覧ないし編集できるのか?外部への共有は?検索を前提としたファイル名の設定は?といったことが出てきます。

このあたりも不明瞭だと、保存場所が分からずあちこちにファイルが分散していたり、非公開のファイルが外部に公開されてしまったり、同じ内容が別の名称で重複保存されていたり、必要なファイルが検索できず一枚一枚開くことになったりといったことが想定されます。

オンプレミスなのかクラウドなのか、誰でも閲覧できるのか、共有はどうするのか。訓練の段階でもファイルは発生しますので、事前に定め共有しておくと良いでしょう。

「盲点」や「後回しにしている課題」を、どれだけ洗い出せるか

ICT活用だけでなく応援派遣を経験した職員の増加、オンラインを活用した情報や知見の共有などを踏まえ、災害VCの開設・運営に係る”練度”は、どの社協さんも一定の水準以上にあり、運営そのものは比較的スムーズに行われるのではないかと思っています(そういう試験やデータがあるわけではないので、あくまで筆者の肌感覚です)。

ただ、今後想定される首都直下地震、南海トラフ巨大地震等で、大都市圏が被災した場合は「誰も想定していなかったような盲点」や「何となく後回しにしてきた課題」から、その練度や水準が崩れる可能性があります。その結果、社協職員の方の負担が大きくなる、被災者支援が遅れる、といったことにつながるかもしれません。

ICTに関して言えば本稿で挙げたような項目ですし、ハード面で言えば「施設の安全確保」、「サテライトセンター」、「車両」などがあります。

重箱の隅をつつくようなことかもしれませんが「自分がもし本当にその場で作業していたら、何で困り、悩み、どう解決しようとするのか」という視点を常に忘れず、課題を洗い出しながら、関係者の方々と一緒に考えていきたいと思います。

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