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災害ボランティアセンター運営訓練における総務班(係)や事務処理の重要性

2023年12月、都内社会福祉協議会さん(以下「社協」)での災害ボランティアセンター(以下「災害VC」)運営訓練のお手伝いをさせていただきました。これまでにも色々な社協で災害VC開設・運営訓練に関わってきましたが、本訓練は従来になく実践的で、かつ重要な学びがたくさんありました。

本稿では、災害VC開設・運営訓練ではあまり目立たない(やることがない)と思われがちな「総務班(係)」や各種の事務処理の重要性についてご紹介します。

本稿は災害VCについてある程度、理解のある方を対象として記載しています。基本的な流れや用語等については以下の記事をご覧ください。

目次

想定は被害発生から一ヶ月後、中長期支援に向け組織的な動きがカギ

訓練は「地震による被害の発生から一ヶ月後」という想定で行われました。一ヶ月という時間はニーズを変化させていきます。家屋内外の清掃やガレキ、家財ゴミ処分などは継続されつつも、避難所や在宅避難者の生活支援、様々な立場・状況の方々からの要望などニーズに多様性が出てくるタイミングです。

そうした時期にあって重要なのは、各班がただ「任された活動・業務をこなす」というだけでなく「◯◯市・区災害ボランティアセンター」というひとつの組織として、変化していく市・区の諸々の課題に向き合っていくという視点です。

その視点を持つためには、センター長など管理的立場にある方はもちろん、運営に関わる各班のスタッフ(社協職員、応援派遣職員、ボランティアも含む)が、情報・状況を共有することが必要になります。

情報の整理と共有、伝達を担い、組織的な活動を可能にする役割を担うのが【総務班(係)】です。

数時間で終わる「訓練」と、数ヶ月に及ぶ「実際」の一番の違いは”時間”です。その”時間”があらゆる課題の原因にも、解決のポイントにもなります。中長期を想定した訓練は、”時間”を意識する訓練でもあります。

前日・当日朝・翌日引き継ぎのミーティングを訓練に組み込む

では、具体的にどうすれば”時間(の経過)”を意識できるでしょうか。本訓練では「前日・当日朝・当日夕(翌日引き継ぎ)のミーティング」が訓練時間に組み込まれました。

引き継ぎのミーティングを組み込むことがどう時間経過の意識につながるのか、という点は言葉だけでは説明が難しいので、イラストにしてみました。以下を踏まえて読み進めてください。

これは一般家庭からの新しいニーズなど、現地調査が必須な場合を想定した時間経過の例です。全てのニーズがこの流れとは限りませんのでご了承ください。

仮に1日目に10件の新規ニーズを受け付けたとします。その後、ニーズ票に基づき実際に被災家屋などへお伺いして、活動内容を確認するなどの「現地調査」が行われます。被災された方のご都合もあるでしょうし、人員や時間が足りなければ、調査は翌日以降になります。1日目の夜に行われるスタッフミーティングで「新規ニーズが10件」や「明日の現地調査予定」などを共有します。

2日目の朝のスタッフミーティングで「今日の現地調査予定は5件です」と共有します。これは1日目に受けたニーズ10件のうち、5件は2日目に現地調査ができる(残りの5件は3日目以降になりそう)、という意味です。2日目の夜「予定通り5件の調査が完了し、マッチング班に引き継ぎました」と共有します。ニーズ班の情報を受けてマッチング班は、ボランティアに紹介・説明することができます。

3日目の朝、前日までに調査完了した5件をマッチングし、ボランティアが現場に向かいます。この一連の流れが災害ボランティアセンターにおける”時間の経過”です。

ポイントはスタッフミーティングでの引き継ぎにあることがお分かりいただけるかと思います。前項に述べたように、ニーズがどうか、マッチングがどうか、という話ではなくそれぞれの業務がつながり、ひとつの活動になります。それらを束ねる役割が必要となってきます。

訓練ではあり得ない時間の流れを仮想のミーティングで組み込むことで、より実践的な訓練になります。

訓練終了時(スタッフミーティング)のレポートを読み解く

訓練終了まで話を飛ばします。以下の写真は本訓練終了時に、総務班の方が作成した活動レポートです。上記のイラストで言うところの「2日目・夜のミーティング」の情報だと思ってください。

被災から一ヶ月後の災害ボランティアセンターです。その日の夕方~夜にかけて行われたスタッフミーティングで以下の情報が共有されました。どのような状況が読み取れるでしょうか。

いかがでしょうか。

数字が現実的かどうかはさておき、示されている数字から「災害VCの運営状況としてはかなり厳しい」こと、「明日以降に具体的な対策を講じないと、更に状況が悪化する」状態が読み取れます。

どこに着目すれば良いのかを説明します。

この表現の意味ってなんだろう???

筆者が訓練中、疑問に思って総務班の方に「再依頼ってなんですか?」と確認しました。結論として再依頼とは、一度ニーズを受け付けて完了している方から、別のニーズがあったことを示しています。

仮に被災された方を「被Aさん」として、再依頼の流れを整理してみましょう。

被Aさんはこの一ヶ月間の間に災害VCに依頼し、ボランティアが活動を行いニーズが完了しました。ただ、その後に別の困りごとが発生し、再度依頼をされました。おそらく、電話なり口頭なりでご本人から申し出があったと思われます(例「この間もボランティアさんに来てもらったんだけどね、またお願いしたくて…」等)。

被Aさんの言葉を聞くとニーズ班は「確認しますね、少しお待ち下さい」。紙ファイルなりデータなりを照合したら…あった!◯月◯日、Aさんのニーズに関する活動報告書(完了済)です。

本訓練を実施した社協では「再依頼」は「新規」として書類を作成する、と想定しています。従って、事務処理的には新規と同じ扱いになります。ただ再依頼であることは分かるように、と画像のような表現になっています。

現状を正しく伝え、引き継ぐにはどうしたらいいか

ニーズ班とマッチング班のコミュニケーションに関わる部分です。明日以降に、状況・情報を正確に引き継いでいく必要があります。

本稿読者の皆さまは、明日からこの災害VCの運営スタッフ(ニーズ班かマッチング班)として応援に入るのだ、と思ってご覧ください。筆者は引き継ぎのガイド役です。

【ニーズ班報告】
・今日は25件の新規ニーズを受け付けました。うち再依頼は3件です。
・現地調査は8件※1 行いました。うち本日の新規ニーズに該当するのは0件です。
・現地調査待ちのニーズは60件※2 です。
・翌日の現地調査は5件※3、 予定しています。

  ※1 この8件は前日までに受け付けたもの。上記のイラスト参照。
  ※2 前日までのニーズ待ちは43件。うち8件を今日、現地調査し残り35件。それに新規25件。
  ※3 現地調査待ち60件のうち、5件を明日調査する。
  
【マッチング班報告】
・今日は5件の活動を行い、うち3件が完了、2件が継続です。
・ニーズ班から明日の活動として、8件の現地調査完了ニーズが届いています。
・継続2件、新たな8件を加え、明日は10件の活動を予定しています。

…うまく伝わったでしょうか。このあたりまで説明すると、前述した「状況の厳しさ」が見えてくるかもしれません。数字だけを見るのではなく、今までの状況とこれからの状況をイメージしてみてください。

試行錯誤しながら改善、表現方法を整理する

本訓練で総務班の方は素晴らしい活躍をされたと個人的には思っています。その努力や工夫の一部が、マーキングしたあたりに表れています。

ニーズやマッチングの部分に点線が引かれています。これは「その日の活動」に関連する部分と「翌日以降」に関係する部分を切り分ける表現です。最初はこの線がなかったため、それぞれの件数と時間軸が混じってしまい、分かりにくくなっていました。この線が一本あるだけで、情報の受け止め方が変わってきます。

「残ニーズ60件」もポイントです。この数字を示すことで災害VCの現状を大局で見ることができます。

また、受付班の情報にも配慮が見られます。例えば25名の申込みのうち「欠2 申込無1」と書かれています。多くの方が事前に申込みをした上で参加しており、欠席(キャンセル)率も低く、保険も加入済み。明日はさらに10名以上多くの方が参加してくれるようです。

こうしてそれぞれの班の情報を総務班が整理し全体に共有することで「災害ボランティアセンターの歯車が回る」ように感じられませんか。これは、個々の数字を見るだけでは分かりづらく、でも実際の現場では欠かせない視点になります。

書類と報告が一致しない!?いつでも誰にでも起こること

これはシナリオ設定と訓練上、やむを得ないズレであることを念頭に紹介します。今日の活動完了報告は5件でしたが、活動報告書のセットが4件しかありませんでした。

1件どこかに行ってしまったか、もともと4件であったのか(念のため申し上げておきますが、筆者や事務局の方が、意図的にしたわけではありません。たまたまです)。

実際に起きたら大変なことですが、訓練であれば「そういった事態はいつ、誰にでも起こり得る」ことにみんなが気づけた時点で大成功です。

総務班はそうした情報の精査の役割も担いますし、各班は自分たちの情報が全体に関わることを意識して、正確に伝える必要があります。数字が合わないのは、改善する余地が見つかったということ。建設的に「どうしたらそうならないか」を考えればいいだけです。

報告を読み解き考える、明日以降の活動重点

もう一度、ホワイトボード全体を見直し、数字をひとつひとつ、つなげてみてください。

【現状、災害VCがニーズに押し込まれており、活動が滞ってしまっている】

◯ 新規ニーズが増加し、現地調査が追いついていない。
   → 現地調査を行う職員またはボランティア(後述)を増員する。
◯ 現地調査数を増やしても、ボランティアが足りない。

   → 市・区内での呼びかけ、SNSでの広報を強化する。
◯ ボランティアが足りても、資機材が足りない可能性がある。

   → 自治体への申請強化、市・区民への協力呼びかけなど。

ボランティア数に関しては、おそらくすぐに改善されると思います。

問題は現地調査です。残ニーズ60件で一日に5-10件前後しか行えないとして、新たに20-30件入る。つまり1日10-20件ずつ、調査も行けないニーズが積み重なります。完全にパンク状態です。残ニーズ60件の最初の方は、いつからボランティア派遣を待っているのだろうか、と心配になります。

次に考えるのはどうしたらこの状況を打開していけるのか、です。

積極的な「市民スタッフ」が厳しい状況を変えるキーマンになる

ボードの右下部分、マーカーで書かれているのは市・区内で活動されている災害ボランティア団体のメンバーの方の人数です。今回の訓練でも、ボランティア役住民のアテンドやマッチングのサポートなど、各班に入り活躍されていました。市民の方ではありますが、社協職員の方と同等に活動できる方々です。

いわゆる「災害ボランティアセンター運営市民スタッフ」と呼ばれる方々です。筆者は、もし実際に上記ボードのような状態であったとしたら、その局面を変えていけるのは市民スタッフの方々だと考えています。

1.都内社協では、首都直下地震等で他県や近隣市区の応援派遣は見込みにくい。
2.そもそも駐車スペースがないので車両を伴う外部支援の受け入れが困難。
3.かといって路線バス等を支援者やボランティアが埋めれば、トラブルになる。

4.路地が入り組み住宅が多く、地元の人でないと分かりづらい地域も多い。

これらを考えると「徒歩や自転車で機動的に参集でき、地元の状況がよく分かり、災害ボランティアセンター運営のことがよく分かっている市民」こそ、都内社協にとってはキーマンとなる人材です。

彼らが災害VC本部やサテライトセンターで事務を担ったり、現地調査やオリエンテーション、マッチングなどをフォローすることで、その部分を担っていた社協職員の方が、別の業務に対応できるようになります。外部の応援派遣ではなく、市民の力でそれが可能にできるのは、住民数が多い大都市の強みです。

…人が多ければ被害も多い、とも考えられますので、そうならないために「備え」が必要です。その話は別記事などをご参照ください。

「災害VC市民スタッフ養成講座」を実施している社協も多いかと思います。その到達点、理想像はどこにあるでしょうか。ぜひこの機会に考えてみてください。

まとめ ~個々の活動が歯車となり、全体を動かすには~

総務班(係)、そして事務処理がポイントです。訓練ではやりづらいですし、分かりにくいです。でも、訓練でやろうとやるまいと、その時が来たら、絶対に避けては通れない業務のはずです。

今後数年~の中で、ICTの導入なども想定されます。だからといってスタッフミーティングや書類がなくなるわけではありませんし、だからこそ可視化が必要とされる場面もあるでしょう。

ブログによる公開という特性上、社協名・団体名等は伏せておりますが、より詳しく知りたい・相談したいという方は お問い合わせフォーム から個別にご相談ください。

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