2024年2月、令和6年能登半島地震の影響も残る中、都内社会福祉協議会(以下「社協」)主催の災害ボランティア講座を担当しました。
奥能登を中心とした被災地域への支援活動だけでなく、都内での地震災害等発生を想定した内容も実施したい、というご要望を踏まえて「地元被災時と遠方被災地」それぞれの場面での災害ボランティア活動を想定した演習・ディスカッションを行いました。また、災害ボランティアセンター(以下「災害VC」)の設置・運営についても知ってほしい、ということで体験会も行いました。
本稿では実際に講座で使用したワークシート等も掲載し、内容をご紹介します。
はじめに~講座全体の流れ~
講座は2日間構成で、1日目は平日夜間に2時間、2日目は日曜日の午前・午後を使って行われました。参加対象者は地域住民の皆さんですが、同社協でこれまでに講座を受講・登録されている方々なども参加しました。
1日目は「地元が被災した場合の災害ボランティア」を想定し、自治体の防災担当者の方から被害想定や対応等についてお話を伺ったのち、後述する「地元被災時を想定した災害ボランティア活動演習」を実施しました。
2日目の午前中は「遠方被災地へ支援に行く場合の災害ボランティア」を想定し、午前中は令和6年能登半島地震での支援活動に取り組まれた方からのお話を伺ったのち、筆者から「遠方被災地支援を想定した災害ボランティア活動演習」を実施しました。
午後には「災害VC設置・運営体験」ということで、実際に災害VCの設置が想定されている建物を使った体験を行いました。災害VCについては 以下の記事 または タグ:災害VC をご覧ください。
1日目:地元が被災した場合の災害ボランティア活動
1日目後半は都内で地震災害が発生した場合を想定した災害ボランティア活動についての演習です。冒頭に、よく講座で質問がある「自助・共助の活動」と「災害ボランティア活動」の違いについて、筆者なりに整理をしてご紹介しました。
自助・共助と災害ボランティアの違いを整理
単純な整理では「手足や目の届くご近所の範囲で、主に被災直後に助け合うこと」が自助・共助の活動としています。重要な活動ではありますが、被害の規模が大きければ自助・共助だけでは対応が難しく、市区町村や都道府県の域を超えて支援を受ける必要があります。
令和6年能登半島地震でも議論になりましたが、被災直後に「個人」が「自律的に」被災地へ入ることも災害ボランティア活動です。これを筆者は「(自律型)災害ボランティア活動」としています。災害VCや支援団体への登録などを介さず、直接現場で活動する方を指します。
そうした率先して動ける人の力は重要である反面、人数や規模には限りがあります。より多くの個人・団体を被災地支援へとつなげるために災害VC等が設置され、被災された方と個人・団体の災害ボランティア活動をサポートします。災害VCによる調整を踏まえた活動を筆者は「(調整型)災害ボランティア活動」としています。
分かりづらいのですが、図1で示すとおり「自助・共助の活動」は自律的な支援活動に取り組むという点では「(自律型)災害ボランティア活動」でもあります。
地元が被災した場合の災害ボランティア活動の流れを確認
前項を受けて地元が被災した場合の災害ボランティア活動の流れについて紹介します。
図2は講座でも配布した災害ボランティア参加の流れを5つの手順でまとめたものです。詳しくは下記の note記事 でも紹介していますので、併せてご覧ください。
まず身の安全は安否確認などを行ったあとのステップ4に「まず隣近所や避難所で活動」があります。これが前項の自助・共助活動であり、自律型の災害ボランティア活動にあたります。この時点では災害VCが開設されていませんが、いち住民として、その地域でできることに取り組む活動です。
具体的な流れをシミュレーションしてみる
講座の流れに戻りますが、これらの説明を行ってからハイブリッド形式での演習を実施しました。演習は地震発生直後から数日間くらいを想定して行います。
冒頭に被害想定など前提条件を伝え、図3のような設問を提示したのち、数分程度で話し合ってもらうという手順を繰り返します。
設問の概要は次のとおりです。
1. 家族や自分は被災から1時間くらいの間、何をしようとするか(図3)。
2. 次の行動は何をしようとするか。
3. 倒壊家屋から救助を求める人がいたらどうするか。
4. 避難所での支援班(自治体のマニュアルに基づく)でどれに協力するか。
5. いつ頃、活動をやめる(他の人に引き継ぐ)か。
それぞれ図3のように設問とイラスト、写真などを使って提示し、3~4名のグループで話し合い、お互いに意見を出し合いながら進めていきました。それぞれの設問ごとにポイントを解説、次の設問へ移るという流れです。
2日目:遠方被災地へ支援に行く場合の災害ボランティア活動
2日目は、遠方被災地へ支援に行くことを想定した演習を行いました。「遠方」といっても漠然として分かりづらいので、今回は令和6年能登半島地震を想定しました。都内から奥能登へ支援活動に行くとしたら、という想定です。
被災地域の実情を調べる~正しい情報を見つけるためのアプローチ~
遠方被災地での活動は、地元が被災したときの活動とは流れが異なります。
図4は遠方の被災地で災害ボランティア活動を行う場合のステップを示したものです。最初のステップを「インターネットで現状を調べる」としてあります。被災自治体や社協などへ電話で問い合わせをすれば現地の負担になります。
一般の方が、電話でインターネットに掲載されている以上の情報を手に入れることは難しいので、まずは検索をして情報を集めます。ただ、この時に「誰が」「いつ」発信しているのか、「複数の情報源があるか」といった、災害情報を見極める際のポイントが必要になってきます。
令和6年能登半島地震を例に考えてみます。一般的には個人の災害ボランティアは災害VCに登録して活動します。そして災害VCは社協が運営します。このため 全国社会福祉協議会のサイト などで情報が集約されています。
一方で2024年2月時点ではボランティアは 石川県県民ボランティアセンター からのサイトで登録を受け付けています。また一部の自治体での活動は県のボランティアバス経由が原則となっており、石川県が中心的役割を担っていることが分かります。
つまり一般論である「被災地の社協で登録すれば活動できる」という状況ではない、ということです。なぜそうであるか、は本稿では割愛します。重要なのはどこのサイトの情報を調べ、どうやって登録し、活動するのかをきちんと調べることです。
…
講座では実際にグループ内でひとりひとり、スマートフォンやタブレット端末を使って令和6年能登半島地震の災害ボランティア情報を検索し、メモにまとめて共有するという作業を行いました。
スケジュールや移動手段、持ち物を考える
情報を整理できたら、いよいよ活動に向けた具体的なステップです。スケジュールは被災地域のニーズによって変わるので、必ずしも自分の都合に合うとは限りません。ただ目安として「いつからいつまでなら仕事や学業に影響が少ないか」などを決めておくのは重要です。
移動手段も個人差があります。車に慣れた方であれば遠方でも車を使えるでしょうし、公共交通機関やレンタカーを併用する方法もあります。支援バスが出る場合もあるでしょう。無理がない方法を選ぶことがポイントです。
最後に持ち物ですが、これもただインターネットで検索して出てきたものを持っていくだけでなく、季節や天候、体力、活動時間や内容をよく考えて持参します。
講座ではそれぞれのステップで自分で考え、グループ内で発表・共有するという作業を行いました。
事前登録と現場での活動
昨今では遠方から向かう場合、事前登録が必要となることが多くなっています。講座では実際に災害ボランティアの事前登録をテストフォームを使って体験してもらいました。
最後に現場での活動です。講座では活動を選ぶことができる、という想定で図5のようにいくつかの活動(ニーズ)を提示し、選んだ内容ごとに集まり、どのような活動ができるのかを考えてもらいました。
教材・資料のダウンロード
講座で使用した資料やワークシートをダウンロードできます。ワークシートはword形式なので、適宜アレンジしてご利用ください。
災害支援総合演習用ワークシート
災害ボランティア参加のステップver2.0
ワークシートや上記資料を用いた講座や研修については お問い合わせフォーム からご相談ください。
まとめ ~ひとりでも多くの方が、誰かの力となれるように~
改めて「(地震)災害はいつでも起こり得る」ということを多くの方が実感されています。その実感から防災対策をしよう、という行動につながる方も、災害ボランティアとして活動したい・しているという方も増えています。
ただ実際に災害ボランティアについていろいろ学ぼう、考えようとすると機会は決して多くありません。まずは皆さんの地元の社会福祉協議会(社協)さんにご相談いただき、講座を開講されているようでしたら参加してみるのが確実なステップかと思います。
本稿ワークシート等もお手元い置いて聴講していただくと、より講座を自分のことして考えられます。ひとりでも多くの方が、誰かの力になる。そのお手伝いができれば幸いです。