ICTとアナログ併用による地域協働型災害ボランティアセンター運営訓練の流れと課題<前編>

市区町村社会福祉協議会(以下「社協」)で、ICTを活用した災害ボランティアセンター(以下「災害VC」)の運営訓練が行われました。また、同訓練は社協が開催した「災害VC運営スタッフ養成講座」の受講生をはじめ、地域の関連団体等も参加する”地域協働型”の訓練として行われました。

筆者は同訓練のアドバイザーとして協力させていただきました。本稿では同訓練の流れや課題について、実務的な視点から要点をまとめて紹介します。

本稿は社会福祉協議会職員や災害ボランティア(個人・団体)等、災害VCの運営に携わる方々を対象としています。用語の説明等は割愛しますこと、ご了承ください。

目次

ICTの使用場面(詳細は後編)

まず本訓練でのICTの使用場面は大きく5つに整理されます。以下がメインの操作画面です。

①V(ボランティア)事前登録フォーム
 ボランティアの事前登録状況を管理するためのアプリです。

②V活動希望日記入フォーム
 ボランティアの活動希望日を管理するためのアプリです。

③V当日受付
 当日、災害VCに来たボランティアの登録状況を管理するためのアプリです。

④-1 ニーズ管理
 ニーズの受付~活動状況を管理するためのアプリです。

④-2 ニーズ管理・活動報告
 ニーズの進捗~活動報告を管理するためのアプリです。

上記のアプリケーションを訓練の各場面で使用しました。ICT活用訓練時における操作やポイントについては 後編 でまとめます。

事前準備

訓練の流れについては実際の時系列も意識しながら整理します。まず準備段階です。

地震発生から2週間の動きをまとめたシナリオとニーズ作成

訓練は地震災害発生から2週間後を想定し、ライフラインや通信がある程度、復旧した状況を想定して行われました。災害VCの運営はもちろん、ICTの活用には電力と通信の復旧が不可欠になります。そうした状況をより具体的に理解していただくため、発災日から運営開始初日(訓練日)までの2週間の動きをまとめたシナリオの作成や配布もされました。

詳しくは 以下の記事 でまとめていますが、実際に災害VCが”運営”されるには、ボランティアが活動可能な現地調査済みのニーズが必要です。ニーズを受け付けるためには場所・人・物の手配を含む”開設”は完了している必要があります。よって訓練においても「事前にニーズを聞き取り、現地調査を行い、データ入力を行い、ボランティアに渡す紙媒体の出力も完了している」こと、そのための時間的なゆとりが前提条件となります。

この準備によって用意された「活動指示書」が以下(左)のように掲示され、マッチングや送り出しにおいて使用されまsした。入力された住所情報からデータ上でマッピングも確認でき、活動指示書にもQRコードでポインティングされていますが、ボランティア用にはルートマップも別途、紙で出力してクリアファイルにまとめられています。

ボランティアの「事前登録」をメール等で案内

ICTを活用した災害VC運営のメリットのひとつが「ボランティアの事前登録」です。当該日に活動希望のボランティアの人数、保険加入状況、経験、技能等が把握できれば、上記のニーズ把握と組み合わせることで、より適切なマッチングにつなげることができます。訓練では事前に登録されている方の名簿を出力し、手元で確認できるようにしていました。

訓練の流れ、各項目の課題と対応策

訓練当日の流れと、筆者が感じた各項目の課題、具体的な対応策をまとめます。黄色い枠が課題、緑の枠が対応策になります。

(仮想)朝ミーティング ・・・ 訓練では関係者も見学、ICT活用もできれば

訓練開始直前、仮想の朝ミーティングとして各班(受付、オリエンテーション、マッチング、送り出し、資機材、総務)を担当する社協職員からの情報共有が行われました。情報共有に参加するのは社協職員のみですが、訓練会場にいる市民や関係者の方は見学という形で雰囲気を感じてもらえるようになっていました。

なお、筆者は近隣市区町村からの応援スタッフ、という立ち位置で準備段階で気がついた点をコメントさせていただきました。

個々の数値だけでなく「データ統計から読み取れる傾向・動向」を最初に共有できたら、当日や以降の活動に役立つと感じました。今回の訓練は初日想定ですが、事前登録やニーズ受付の変遷、ニーズが集中するエリア、ボランティア活動希望日の偏りなど、各データ同士のつながりも意識されると良いと思います。

総務班や管理職、外部人材など「全体のデータを俯瞰してみる」役割を設けると、ICTがより有効に活用されます。また、各係では数値と共にデータ同士のつながりを意識して共有する(希望日→マッチング、住所→活動エリア、特技や技能・団体→個別マッチング等)と より実践的な訓練になります。

受付 ・・・ 「事前登録」と「当日受付」

いよいよ訓練開始です。

受付では以下の写真のように「事前登録」と「当日受付」の2つのQRコードが用意されました。受付に来たボランティアは事前登録済みなら「当日受付から入力」を、事前登録が済んでいない場合は「事前登録をしてから当日受付に入力」という流れで行われました。ボランティアは「2回」システムに入力することになります。

受付が完了(課題、黄色枠参照)した方から順番に、名札シールに記名・貼付してもらいます。この点は従来型の災害VCと変わりありません。手書きのスペースが必要ない分、場所を効率的に活用できます。

「当日受付」で入力されたデータはリアルタイムで更新され、受付担当班以外でも閲覧することができます。特にマッチング担当班は、どこにいても現在のボランティア人数等を確認できるのは大きなメリットです。

訓練後の振り返りでボランティア役の方から「せっかく事前登録をしたのに、また同じような入力しなければならないのはなぜか」という指摘がありました。事前登録したから当日必ず来る訳ではないので、当日確認が必要なのは確かですが、工夫が必要です。また、入力したのにデータに反映されていない、同じ方が2回登録している、といった課題もありました。

ICT活用、そして既存のアプリ設計を前提とするならば「QRコードの当日登録作業」をより円滑に行えるような受付体制がポイントです。余裕をもって入力できるように受付開始時間より早めに周知する、具体的な手順書や入力例を掲示・配布する、入力サポート窓口を設置するなど、ボランティアの負担感やエラーの可能性を軽減することで課題に対応できます。

オリエンテーション ・・・ 待機場所に合わせたタイミング調整

本訓練でのオリエンテーション会場は待機スペースも兼ねていましたが、その日に活動予定の人数より座席数が少ないため、おおよそ半数程度で区切り、マッチングへ進んでもらうように調整されていました。

こうした判断も事前登録データがあれば「明日は多くのボランティアが来る予定なので、待機スペースは広く確保しておこう」、「○○名までは同時にオリエンテーションやマッチングができるように準備しよう」といったことが可能になります。。

ICTの活用という点では動画を事前に視聴してもらう、といった対応もありますが、重要な点やその地域・社協ごとのルールやマナー等大事な点については口頭での説明が必要です。また、オリエンテーションは待機スペースも兼ねていたため、2日目以降(2回目以降)のボランティアであっても必ず説明を受け、待機してもらうことになります。

マッチングのエリアに大勢が集まると調整が困難になるので、オリエンテーションの段階で調整するのは効率的な対応です。

事前登録者数、当日受付人数、受付のスピード感、待機スペースの広さ(座席数)、説明に必要な時間、マッチングのスピード感、これらのバランス調整が関わってくるのがオリエンテーションです。小規模訓練であれば気になりませんが、人数が多いと限られた時間での効率的なオペレーションが求められます。

(仮想)朝ミーティングで「最大で同時に何人まで待機(オリエンテーション)できるか」、「事前登録者数は何名か」、「活動予定件数は何件か」の3つを共有します。これにより「●●人が集まった時点で説明、マッチングへ送り出します」という流れを全体で共有できます。事前登録者数が多く、スペースもない場合は説明を簡略化(資料配付等)せざるを得ないかもしれません。そのあたりが情報共有のポイントでもあります。

マッチング ・・・ 紙を使った従来型+ICTの併用が現実的

マッチングは活動指示書に基づいて希望者を募り、希望者が受付で記名した付せん紙を貼り付けるという方式で行われました。活動指示書の下部にはQRコードが記載されており、Googleマップにアクセスして活動地点をチェックできるほか、各指示書に付与されたIDに紐付く「活動報告書」の入力も可能になっています。

ICTを活用した活動指示書

冒頭の「シナリオとニーズ作成」でも記載したとおり、QRコードはあくまで地点データでありルートではありません。マップ操作に慣れている方であれば、Googleマップの現在地データから活動地点までのルート検索をスマホで簡単にできますが、紙が最初から入っていたほうが分かりやすいと感じました。

訓練後の振り返りで「自分の技能にあった活動ができたらいい」、「活動に応じた男女バランスなどが配慮されているといい」といった意見がありました。ICTによってボランティアの事前登録データ、ニーズの登録データの両方を閲覧できる状態になるので、技能や性別指定などをマッチングに反映できるかどうかがポイントです。

ボランティアに技能や経験、性別を事前登録してもらうとしたら、ニーズ登録データの項目に該当する情報を含めてソートをかけることで「当日登録した●●の技能を持つ人、性別が適任であろうニーズ」をピックアップできます。そうしたニーズは個別マッチングできるようにしておく、該当する人がいたら直接指定※する、といった対応が考えられます。※オリエンテーションのタイミングで前後する可能性あり

送り出し ・・・ グループごとに活動紹介、活動報告までの流れを確認

マッチングしたボランティアはリーダーを決め、グループごとに送り出しで説明を受けます。送り出し班がニーズの説明を行う際も、予めデータ化されているものを常時チェックできるようになっていれば、活動内容や活動地点はもちろん、現地調査で把握された状況や、必要な資機材の目安などの説明をスムーズに行うことができます。

活動報告についても送り出しの時点での説明が必要となりますが、ICT活用訓練の場合は活動報告もスマホ入力となります。活動指示書に記載されたIDが必要であったり、何らかの事情で登録エラーが起きてしまうという場合もありますので、丁寧な説明が求められます。

訓練後の振り返りで「活動報告を入力したが、エラーで最初から入力し直しになってしまった」という意見がありました。ICT活用における最大の課題は、通信障害等でネットワークにアクセスできない、予期しないエラーが出るといたケースです。エラーの原因が何であれ、活動報告・進捗のような重要な情報管理には代替手段が必要です。

今回は再度入力してもらうことで解決しましたが、根本的に解決できない障害・エラーが発生した場合を想定し、アナログでの活動管理手法も用意しておくことが重要です。システムからテンプレートを紙媒体で出力できますので、活動件数に応じて事前に印刷しておく※と安心です。
※合わせて、災害VC側で紙媒体からデータを入力するための手順も整理しておく

資機材 ・・・ ニーズ班・マッチング班との情報共有が重要

本訓練での活動地点は徒歩で移動可能な範囲になります。送り出しで説明を受けたら、資機材を受け取って活動現場へと向かいます(という想定)。

資機材を模したカード

資機材受け渡し訓練に関してはICTの活用は行わず、従来の貸し出し管理簿を用いたアナログ形式で行われました。資機材訓練時に気がついた点として「返却品(スコップ等)」と「消耗品(ゴミ袋、マスク等)」の取り扱いです。

特に消耗品については未使用品以外は返却する必要がなく、代わりに回収するためのゴミ箱や廃棄スペースが必要になります。何が返却品で、何が消耗品なのかを整理しておくことと、ボランティアに対して分かりやすく伝えることが資機材の大切な役割になります。

また、下記に示す通りスムーズな活動のためにはニーズ班やマッチング班といった「活動内容」を把握しているスタッフとの情報共有も重要です。

訓練後の振り返りで「ボランティア側に必要な資機材の種類や本数等を聞かれても判断できないので、災害VC側で示してほしい」という意見がありました。ニーズ聞き取りや現地調査を担当するスタッフと、資機材を担当するスタッフは異なることも多く、活動情報だけで判断するのは難しいかもしれません。両者に共通する書類である「活動指示書」にどこまで具体的に記載できるかがポイントになります。

ICT活用時の活動指示書には資機材についての入力欄があります。品目や本数を「(人数分)」や「(グループで●枚」など具体的に示せるように、現地調査の段階で確認できると良いでしょう。ただ、そのためには「どのような資機材が(活動日に)使える予定なのか」が分かっていないと書けません。従って「ニーズ班・マッチング班・資機材班」は事前調査~活動指示書入力の段階から細かな連携が必要になってきます。

(仮想)夕方ミーティングと振り返り、講評 ・・・ 課題をなるべく持ち越さないように

最後に社協職員と参加者(区民、関係者・団体)の方々を交えての夕方ミーティングと振り返りが行われました。夕方ミーティングは各担当班から事務的な報告が行われました。筆者からは上記の「受付」で記載した点に触れ、受付時のQRコード登録がスムーズに行くような準備についてコメントしました。

夕方ミーティング(右)と振り返り(左)の記録

振り返りではボランティア役となった区民、関係者・団体の方々からご意見をいただきました。どのご意見も今後につながるものでしたが、いくつかピックアップしてご紹介します。

▼ マッチングの際に、活動予定のニーズについて最初に説明してほしい
前述のとおり「技能・経験」や「男女」など、予め要望や指定のある活動もあります。ボランティア自身が活動を選択する方式でマッチングを行う場合は、判断基準となるニーズの概要について説明があったほうが判断しやすい、というご意見です。できるだけ丁寧な説明が期待される反面、時間的な制限もあります。ボランティアの方にはある程度、災害VC側の調整に沿って活動していただくことになるかと思います。

▼ 地名が分からないことがあり、土地勘のある人とない人が一緒に活動できるとよい
QRコードからの地点データや紙の地図があるとはいえ、そのエリアに詳しい方、地元の方などが一緒に行動していただけると活動はスムーズです。この点は 冒頭で紹介した記事 にも記載していますが「災害VC市民スタッフ養成講座」の受講生の方などが運営に参加していただけるとよいでしょう。

▼ ゴミの片付け方法の指示があるとよい
これはとても大事なご意見です。自治体の方も参加されていたので「災害ゴミの回収方法や回収場所」についても確認させていただきました。基本的には元々指定されているゴミ回収場所での回収、という回答でしたが、被害規模が大きくなると平時の指定場所では足りなくなるかもしれません。ボランティア活動で発生したゴミや廃棄物等をどこに集め、どう分類し、どう持って行くのか、という管理は活動前に定めておき、ボランティアと共有する必要があります。

まとめ アナログとICTのシームレスな連携を実現する「俯瞰視」

今回の訓練を通して、災害VC運営におけるICTの活用については、効率化という点では大きなメリットがあると改めて感じました。一方で取り扱いにはある程度の習熟も必要です。特にひとつひとつの手順や文言について、担当者だけでなく全体で共通認識を持っていないと、操作ミスや誤解などのヒューマンエラーが発生しやすくなります。

受付漏れや二重登録によるズレ、ニーズの誤差(完了・継続・再依頼等によって増減したIDのズレ)など、入力や作業を人間が作業を行う以上は完璧に防ぐことは困難です。

データ上で何らかの誤差が発生した場合、今回の訓練でもそうでしたが速やかに「現場やアナログの記録がどうなっているか」で照合します。例えば実際に送り出したのは何人か付せん紙でチェックする、活動報告で戻ってきたグループはいくつか、といったメモや目視による情報です。

各担当班ごとのつながり、そこで生まれたデータのつながり、アナログとICTをシームレスに(※必要に応じて切り替えるなどつなぎ目なく)連携させるには事務作業を「俯瞰視」できる立場の人が不可欠です。業務全体を統括する事務局長等の管理職ではなく、外部人材や総務の担当者等も含めICT活用訓練及び災害VC訓練、両方を経験している方が望ましいでしょう。交代含めて2名以上のデータ・書類チェック担当のスタッフがいると、より効果的な運用ができると感じました(理想を言えば「専任」が望ましいです)。

・・・

防災DX|防災DXサービスマップ が促進、普及されていく昨今にあって、ICT活用は災害対応の現場に欠かせないものになります。流動性の高い現場ではシステムにも柔軟性が求められますが、柔軟性の高さと比例して習熟のハードルも高くなります。「ICTを導入すれば全て解決」ではなく、どの場面でどう扱うのか、具体的に意識しながら取り入れていくこと、訓練を継続することが重要です。

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