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災害ボランティアと防災福祉まち歩き実践〜まちを知り人を知る、助けに応える力と求める力〜

都内社会福祉協議会さん(以下「社協」)のご相談を受けて、社協と行政、障害当事者(※本稿での当事者はご本人、ご家族、支援者はじめ身近な方々と定義します)団体などが連携して行う「防災+福祉まちあるき」のお手伝いをさせていただきました。

これからの福祉や防災、災害に強いまちづくりにつながる様々な学びがありましたので、具体的な流れやポイントをまとめました。

同様の取り組みを検討されている他社協・団体の参考となれば幸いです。

目次

実施の経緯

この取り組みは社協による災害ボランティアセンター(以下「災害VC」)の普及啓発に係る事業の一部として、市と社協の共催で企画されました。

同市ではこれまでもバリアフリーマップ作成のためのまち歩きなども行っており、当事者や関係団体の方々と積極的に連携しています。地域特性や災害時要配慮者、災害VCについてより多くの方に知ってもらうために、市と社協、関係者が連携して今回の企画が実現しました。

筆者は社協の災害ボランティア講座や災害VCのお手伝いをしていた経緯から、本企画もお手伝いさせていただくことになりました。

防災福祉まち歩きに向けた準備

前項のとおり市が中心となって行うバリアフリーまち歩きをベースに、社協で行った講座や訓練の参加者に呼びかけられました。各班には視覚、聴覚、肢体不自由(車椅子)当事者の方々も、支援者の方と一緒に参加し、他の参加者は実際に当事者の声を聞き、約2kmの区間を適宜、ガイドヘルプをしながら歩きます。

加えて、白杖や車椅子など街中の「障壁、バリア」を体験してもらうツールも使用します。また、途中には大規模な集合住宅の防災倉庫や消防署での見学や説明もあります。

社協や市の職員がファシリテーターとして入り、公民館を基点として予め定められたルートを誘導しつつ、ツールの体験や安全管理を担います。筆者もこれまでに防災まち歩きや災害時要配慮者支援などに取り組んできたこともあり、ファシリテーターとして実際にグループの誘導を行いました。

各ファシリテーターは事前踏査をしていましたが、筆者は都合がつかず Googleストリートビュー(Google) でルートや距離を確認し、当日早めに現場へ行ってチェックしました。

防災福祉まち歩きヒント(1) Googleマップ等を活用しよう

Googleマップ(Google) はまち歩きに便利なツールです。前項でご紹介したGoogleストリートビューと併せて使うことで、パソコンやタブレット上でも実際にまちを歩いているように見ることができます。また、Googleマップには「距離を測定する」という便利な機能があります。

【Googleマップによる距離測定の使い方】

(1) 画面上の任意地点を右クリックし「距離を測定する」を選択する。
(2) 黒枠の○印がつくので、移動地点をクリックする。
(3) (1)-(2)の距離が表示されます。
(4) 移動経路をクリックしていくと(1)からの距離が表示されます。
  ※点と点は直線で結ばれるので曲がり角などは歩くルートに沿ってクリックしてください。
(5) 間違ったら、(2)の印やルートをクリックすると削除できます。ドラッグすると動かせます。

Googleマップ、Googleストリートビュー、距離測定を活用すれば、画面上でもかなり具体的な情報を得ることができます。なかなか外に出歩くことが難しい方、季節や天候の影響で歩くのが難しい場合でも、ご自宅から擬似的にまち歩きをすることができます。ぜひ試してみてください。

当日のタイムテーブル・所要時間と流れ

まち歩き当日のタイムテーブルはこちら。

13:00 受付開始
13:30 オリエンテーション開始
14:10~14:20 会場出発
14:20頃~16:00頃 まち歩き※(班により時間は10分程度前後する)
16:00頃~16:30頃 振り返り、講評

それぞれの内容についてご紹介します。

オリエンテーション

市職員の方から趣旨説明があり、各ファシリテーターの紹介の後、社協職員の方から車椅子の使い方等について説明が行われました。各班当事者の方々からも、それぞれの立場から「こんなことに気をつけて欲しい」、「こうしてもらえると嬉しい」といったポイントをご紹介いただきました。

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視覚障害のある方からは「ガイドヘルプをするとき、段差は上りなのか下りなのかを教えてもらうと分かりやすい。まず行動を先に示してもらえると、準備しやすい。例えば”止まります、下り段差があるので”など。行動の準備ができれば、心の準備もできる。慣れないと難しいが、意識してもらえると良いと思います。」といったお話がありました。

★防災福祉まち歩きヒント(2) 段差とガードレールのすき間

当日、会場に向かう途中にこんな出来事がありました。前方を本イベントの参加者と思われる視覚障害のある方が白杖をついて歩いていたのですが、次のイラストのような状況になっているのが目に入りました。

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マウントアップ形式という段差がある歩道に設置されたガードレールのすき間に、白杖が挟まってうまく取り出せなくなってしまうのです。図だと示しづらいのですが、歩道・ガードレール・段差の横幅の差もあって、ガチッと挟まってしまいます。これは危険だと思い、お声がけをしてガイドヘルプをしながら会場に向かいました。

その途中に交わした会話からもたくさんの気付きがあったのですが、それはまた別の機会に。

歩行者と車両の安全を守る段差やガードレールが白杖利用者の障壁(バリア)となってしまうこともある、と実感しました。現在はセミフラット方式という段差が比較的小さい歩道が整備されつつあるようですが、普通の歩道のガードレールでも同じような状況は想定されます。

防災福祉まち歩きでガードレールのある通りを歩くときは注意してください。

自己紹介~ルートの確認

まち歩きは6~8人くらいのグループで移動します。筆者が担当するグループには電動車椅子の利用者とその補助者の方、災害ボランティア講座の受講生や民生委員さんなどが参加されました。ルートや移動時間は予めチームごとに決められているため、出発する前に所定の地図を使ってルートの確認をしました。

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防災福祉まち歩き

ルートの確認を終えたら実際に歩いていきます。本稿では主だったポイントをいくつかご紹介します。いろいろと写真でもご紹介したかったのですが、ひとつは説明や時間管理で筆者も余裕がなかったのと、まち歩きでは個人宅も多いので、配慮する必要があるためです。

記録撮影のスタッフの方がいるとスムーズかもしれませんね。主催者側の方で記録を残したい方は、ご検討ください。

◆「バリアフリートイレ」の利用方法

まず出発地点となる施設に設置されている「バリアフリートイレ」について確認しました。「多目的トイレ」や「誰でもトイレ」と呼ばれることも多いトイレですが、いろいろな人が使うことで車椅子やオストメイト利用者の方がなかなか使えない、という課題もあり呼称の変更や機能の分散などが進められています。

参考:多目的トイレ 誰のためのもの?(NHK)

グループに参加されている車椅子利用者の方からは「僕は外出先ではトイレを使うことがない」というお話がありました。車椅子利用者の方の特性も様々です。バリアフリートイレがあるから、誰でも使うことができる、とは限りません。

◆ 点字ブロック

施設の出入り口にある点字ブロック(誘導/線状ブロック・警告/点状ブロック)を実際に白杖を使って触れながら体験していただき、それぞれのブロックの役割についてご紹介しました。それぞれのブロックの役割については 点字ブロックについて(日本視覚障害者団体連合) さんのページをご覧ください。

◆ 白杖・車椅子を利用しての移動

歩道にある車止めや段差を、車椅子に乗ったり、押したりすることで体験していただきました。普段では気づかない程度の車止めや歩道のすき間が、車椅子(電動車椅子)では幅が足りずに入れなかったり、スロープ部分が逆に危険だったり…いろいろな気付きがあります。

◆ 消火栓やマンホールの意味・役割

普段はあまり意識しない「消火栓」の場所や、マンホールに記載されている文字についても確認しました。「汚水(おすい)」や「合流」などの記載が各自治体の下水道管の流れを示しています。水害のときの参考にもなりますので、お近くのマンホールの記載をじっくりと見てみるのも良いですね。最近はデザインされたマンホール蓋などもあり、奥深い世界です。

◆ ガソリンスタンドやコンビニなど民間施設

ガソリンスタンドは危険物を扱うため消防法や建築基準法による制限や規制により、相対的に地震や火災等に対して強くなるよう設計されています。もちろん、利用者側の取り扱い(給油時の操作ミスなど)によるリスクは否定できませんので、転倒落下物や火気取り扱いには十分注意しなければなりません。

コンビニは主要幹線道路沿いにも多くあることから「帰宅困難者支援施設(災害時帰宅支援ステーション)」となっている店舗もあります。ステッカーや協定締結企業の一覧が公開されていることもありますので、各自治体のホームページ等でチェックし、お近くにこれらの店舗等がないか見てみましょう。

参考:帰宅困難者に対する支援(東京都)

◆ ブロック塀の危険性

ルート上にはブロック塀もあり、大阪府北部地震での事例などからブロック塀の危険性や設置基準と対策などについて紹介しました。「地震のときは近づかなければいいのね!」というお声があったので、「今は説明のために見ているだけで、普段はとにかくブロック塀には近づかない、近くで立ち話などしないでください。小学生の女の子でも、体重90kg以上の僕でも、下敷きになったら助からないです。」とお伝えしました。

集合住宅の防災倉庫を見学

住民の方にご協力いただき、近くの集合住宅の防災倉庫にある備品やその機能についてご教示いただきました。カセットボンベ式の発電機と組み合わせて使えるポータブル電源、集合住宅内での応急搬送に使える携帯担架や各種救助作業用具などをご紹介いただきました。

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◆ 消防署での説明

ルート上にある消防署では、市内の消防活動の状況等についてご説明いただきました。

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◆ 避難所について

学校近くを歩くときには避難所の役割についてご紹介しました。水害のリスクがある地域にある学校は、水害のときには避難所にはならない、という仕組み上は理解できてもいざという時、冷静に判断することが難しいかもしれません。

水害のリスクがある地域では、ハザードマップをしっかりとチェックして、普段から「地震のときはこの避難所」、「水害のときはこっちの避難所(または高台や安全な場所)」と分けて考えておきましょう。

★防災福祉まち歩きヒント(3) 所要時間や休憩場所を確保しよう

今回の防災福祉まち歩きは約2kmを1時間30分ほどで移動しました。今回は大丈夫でしたが、途中でお手洗いや休憩をしたい、ということも考えられます。1時間以上の移動を含むようであれば、近隣の公共施設、公園などをチェックして休憩スペースや休憩時間を確保しておくことが望ましいです。

可能ならバリアフリートイレもあれば良いですが、難しい場合は事前のルートチェックや施設出発時、あるいはイベント参加者の方に事前にその旨をお伝えしておくことも必要です(どのくらいの時間、移動し続けるか)。イベントでは皆さん熱心に参加してくださっていましたが、障害当事者の方々や、ご年配の方々にとってはかなり負担もあったのではないかと思います。

主催者側の方はルート内での休憩時間や休憩場所もご検討いただき、参加者側の方も地域の「ちょっとひと休みスペース」をチェックしておくといいですね。

振り返り、講評

スタート地点の施設に戻ってきたら、グループごとに振り返りです。地図を見ながらルート上で見て気がついたことや、説明を受けたことを思い出してまとめていきます。各グループの代表者の方から、実際に防災福祉まち歩きをして感想や気付き、学びを共有していただきました。

最後に筆者からもコメントの機会をいただき、本稿のサブタイトルでもある2つの点についてお話しましたので、本稿でも要点をご紹介します。

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「まちを知り、人を知る」

防災も災害ボランティア活動で大切なことはまちを知り、人を知ることです。その地域の災害特性や文化、市区町村や住民による取り組みなどを知ることが、適切な対策や支援につながります。今回の防災福祉まち歩きでは限られた範囲内でもたくさんの気付きや学びがありました。

いつも通っている道、いつも使っているお店や施設、何気なくすれ違う人たち。変わらず皆さんの近くにあり続けるそのひとつひとつに、防災や福祉につながるヒントがあります。

ですが、そのヒントに”気がつく”ためには意識を向けること、そのための知識や経験が必要になります。参加者の方々は、日常の様々なことで視野が広がることと思います。

「助けに応える力と求める力」

障害当事者の方々に一緒に参加していただくことは貴重な経験となりました。バリアフリーの取り組みが進む一方で、当事者の方々にしか分かりにくい、伝えにくい様々な課題があります。「こんな支援があったらいいな」という声に、ひとりひとりが耳を傾け、そしてしっかりと応えていくことが大切です。

実際に白杖や車椅子等を体験し、当事者の方々から直接お話も聞くことができた参加者の方々であれば、きっと応えることができると思います。また、冒頭にあったように障害当事者の方々から、どんなサポートが必要かを求めていただくことも大切だという気付きもあったかと思います。

助けを求めやすい社会、応えやすい社会は「防災福祉のまち」にとっても、災害ボランティア活動にとっても、大切なキーワードになります。

まとめ~防災福祉まち歩きと災害ボランティア~

防災福祉のまち歩きは現状や課題を知るためには大切な取り組みである一方、すぐに解決できない現実にも直面します。例えば道路の段差やスロープがあったとして、市区町村に要望を出せてもすぐに修繕されるわけでもなく、その前に災害が起きるかもしれません。

「今を知る」ことと「対応できるかどうか」は別問題であり「私たちは何をすればいいのか、何ができるのか」に目を向け、アクションを具体化する必要があります。だからといって、その課題をすべて地域の人たちの自助・共助に頼るのでは限界があります。特に災害時には外部からの支援も必要となるでしょう。

今回の企画は社協による災害ボランティアセンターの普及啓発の一環です。被災時の様々な課題に対してアクションを起こせる人たち=災害ボランティアと、地域の課題を結びつけていくことが、これからの『防災福祉まちづくり』には欠かせないと考えています。

同市社協さんでは、そうしたテーマについてディスカッションするミーティングも予定されており(2021年11月時点)、追ってご紹介できればと思います。

社協、市、当事者の方々、地域住民が一体となった今回の防災福祉まち歩き。他地域・社協の皆さんが取り組まれる際の参考となれば幸いです。

 

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