無線機版・スマホ版・口頭版に対応した指導用スライドを公開しました!カードセットと合わせてご確認ください。
『災害情報収集伝達&コミュニケーション演習 DICE(ダイス:Disaster Informatiron & Communication Exercies)』は、筆者が2010年5月に公開した無線機や口頭による、災害情報の収集伝達やコミュニケーションの難しさ、ポイントを学ぶためのカードゲーム型の教材です。
2010年 公開
2014年 改定第1版
2016年 改定第2版
2020年 改定第3版
2023年 スマホ・オンライン訓練対応版を公開
本教材について
災害時にまず私たちが触れるのはさまざまな「情報」です。その情報をどのように収集・伝達し、自分以外の誰かとコミュニケーションをとるか、ということは災害対応そのものと言っても過言ではありません。
本稿では、筆者が被災地支援活動での経験を基に作成したカードゲーム型式で災害情報とコミュニケーションについて学ぶことができる教材について紹介します。noteでも同様の記事を紹介しています。
DICEとその特徴について
DICE(ダイス)は「災害時における無線機の操作方法を楽しく、分かりやすく、実戦的に習得する」ことを目的に考えられたゲームをベースに生まれた演習です。ゲーム性を維持しながら、消防分野における災害情報の扱い方、指導プログラム、災害救援ボランティア活動の経験から、災害情報を扱う担当者に求められるコンピテンシー(評価可能な行動特性、指導用スライドP.5)などを取り入れています。
DICEでは、このコンピテンシーを意識することで解決につながるような課題が生まれるよう構成されています。参加者は自身が災害情報を扱う際に求められる能力を、DICEを通じて段階的に習得することができるようになっています。
また、無線機、スマートフォン(オンライン)、付せん、口頭といった情報伝達手段と、情報を記録するメモ用紙さえあれば、どのような環境でも実施が可能な汎用性の高さから、様々な教育訓練と併用することができる点も大きな特徴です。
さらに、DICEでは扱う情報がどのような内容であっても指導内容は基本的に変わらないため、子どもから学生、社会人、ハンディキャップを持った方など、あらゆる条件で災害情報に接する方が、それぞれの条件に併せて実施することが可能です。
本稿ではその基本設計やコンセプトを紹介します。皆さんの災害対応力向上の一助となれば幸いです。
教材セットのダウンロード
最新版ではすぐに使えるPDFファイル形式に加え、どなたでも無料で使えて、自由に編集し、かつ印刷もしやすいようウェブサービス ラベル屋さん10 で使えるカード形式.alyファイルで公開します。以下の「ダウンロード」ボタンをクリックするとカードセットや指導者用の一覧表がダウンロードできます。
DICEカードセットPDF版.zip
DICEカードのPDF形式ファイルセットです。こちらを厚紙等に印刷して使うだけでも実施できます。「フリー」カードは自由に追記してご利用ください。
DICEカードセットラベル屋さん10版.zip
DICEカードの ラベル屋さん10 対応ファイルです。ラベル屋さん10は無料で使えるラベル&カード作成ソフトです。インストール不要のウェブ版もあります。こちらと下記記載のマルチカードを使うとキレイにカードが作れます。
また、ファイルはすべて自由編集できるようになっていますので、文章もイラストも全てオリジナルに変更していただくこともできます。
ボタンをクリックすると、下記のような画面が表示されます。右上の矢印をクリックして、zipフォルダをダウンロードしたあと、解凍してご利用ください。
指導者用カード内容一覧表.xlsx
DICEカードの内容と対応するカードをまとめた一覧表です。カード同士のマッチングを確認するために使います。指導者の手元資料としてご利用ください。Excel形式で自由に編集できます。
印刷時にオススメのマルチカード
市販マルチカード(Amazon) などをプリンターにセットして、ラベル屋さん10で印刷するのが手軽です。
注意事項(教材の著作権等について)
本記事で紹介する教材の権利は筆者にあります。
講座・研修等で自由に使っていただいても構いませんし、指導用スライドの改変・複製・転載なども出典を明記していただければ自由ですし報告も不要です。
ただし本教材は多くの方に実践的な内容を学んでいただくために公開しており、有料販売での利用や本教材を主目的とした有料セミナー等は一切認めておりません。
実践・活用事例
公務員・ブロガーとして活躍されている 山中正則 さんが本教材を区役所の防災訓練で活用され、山中さんのブログでご紹介いただきました。実施する環境や場面に応じたアレンジ、その具体的な工夫なども記載されていますので、ぜひ合わせてご覧ください。
教材を使った指導の流れ(指導者用資料)
本記事をご覧いただき、カードセットをダウンロードするだけでも実践は可能ですが、より効果的に実践していただけるように指導者向けのスライドも公開しています。スライドは本格的に学びたい方向けの内容ですので、全てを丁寧に説明する必要はありません。指導者の方が要点だけかいつまんでご理解いただき、伝えるだけでも十分です。
むしろ体験の部分にしっかり時間をとっていただければと思います。
資料は slideshare からも閲覧、ダウンロードができます。下記にうまくスライド画面が表示されない場合はslideshareのリンクから直接ご覧ください。
本記事からも直接ファイルをダウンロードできます。
事前指導の内容
事前指導で伝えたほうがよい内容をまとめました。伝えなくても演習は実施できますが、より効果的になります。
災害情報と危機対応について知る
危機(災害時等)的な状況で活動するためには、災害情報が不可欠です。次々と変化する状況に迅速に対応するためには、迅速な意思決定が必要です。災害情報が不足・不正確であるうちは、迅速・的確な意思決定を行うことが難しくなります。
日常の意思決定プロセスでは、報告された情報を基に状況を見極め、情報を入手できた順に意思決定することが一般的です。従って優先順位が違っても、大きな間違いにはならず、修正することも容易です。
しかし、危機的な状況では様々な情報が順序を問わず集まるため、重要な情報の報告が遅れたり、情報を見逃したりする危険があります。加えて、危機対応の意思決定はひとつひとつが重要な意味を持つため、優先順位を間違うと大きな影響が生じます。取り返しのつかない状況に陥る危険があります。
人命に関わる情報、混乱や動揺を防ぐ情報など、危機によって生まれる状況(被害)をなるべく小さく抑えられる情報を優先的に扱います。日頃からどのような情報がいつ必要なのか、予め整理しておくことが必要です。
情報の区分と流れを見極める
日本語では一言で「情報」といっても、情報にはいくつかの種類、区分と流れがあります。
◆ Data(データ=現場に無数にあふれる雑多な情報のこと)
現場で最初に飛び交う、様々な情報です。不正確・不確実なうわさ、デマなども含む。
◆ Information(インフォメーション=Dataの集合から、ある程度整理された情報のこと)
Dataを集め、整理することである程度の信頼がおける情報になっています。但し、災害対応に必要な情報と不必要な情報が混ざっている可能性はあります。
◆ Intelligence(インテリジェンス=Informationからさらに分析された情報のこと)
インフォメーションを分析、比較、推論し認められた情報です。災害対策本部等、意志決定を行う場合に必要となる情報です。
さて、災害対応における意志決定で必要な「情報」はどれでしょうか。その情報を得るためには、どのような過程が必要でしょうか。事前に考え、訓練をしておくことが、適切な情報収集につながります。
情報を整理する”3つの箱”を用意する
情報には区分と流れがある、ということを前項で説明しましたが、それぞれの区分において、どのように情報を扱うかについてご説明します。まず、情報を整理するには、”3つの箱”を用意しましょう。
★事実の箱★
まず、事実の箱です。自分の目で確認したことや、根拠が明確なもの、必然性があることなどをこの箱の中に入れておきます。
★伝聞の箱★
次に伝聞の箱です。誰かから聞いたこと、言っていることなどはこの箱の中に入れておきます。(例:~らしい、~だって、~するそうだ、~と言っていた 等)
★意見の箱★
最後に意見の箱です。誰かの意見や考え、主張などをこの箱の中に入れておきます。(例:~しなければならない、~のはずだ、~だと思う)
3つの箱で整理したら特に「事実」の箱に注目しましょう。災害時には情報が極端に少なくなるか、あるいは多くなる場合があります。その中には伝聞や意見も多く含まれています。伝聞や意見は事実とは限りません(もちろん、事実であること、事実に近いこともあります)。まずは「何が事実で、何が事実ではないのか」を整理することが、災害情報収集と伝達の基本です。
★★★練習問題★★★
友人の車で海に遊びに来ていたとき、30秒くらい大きな揺れを感じた。ライフセーバーが「車は使わず、すぐに走って高台に避難してください!」と言っている。友人は「このくらいなら津波は来ないはずだ」と言っている。既に一部の人は車で避難をはじめ、目の前の道路には渋滞が起き始めていた。
Q1.この文章を「事実」「伝聞」「意見」の3つの箱で整理してください。
Q2.あなたが取るべき行動の参考にすべき情報を、箇条書きで書き出してください。
(ヒント)
・自分の状況、体験、目視したことは「事実」と言えます。
・○○はずだ、などは個人の「意見」です。
演習の内容
(1)使用する教材
上記の「教材ダウンロード」からカードセットをご用意ください。
(2)会場の準備
この演習では「本部」と「A地区」「B地区」「C地区」という4つのチーム・エリアに分かれて行います。無線機やスマートフォン、タブレット等での情報交換が中心なので、原則としてお互いの声が直接聞こえないくらいの距離をとってください(または教室を分けるなどしてください)。
なお、学校の授業など1教室や狭い空間で行う場合は下記の「実施のルール」を参照してください。
(3)演習のルール
【基本ルール(エリア同士が離れている場合)】
- チーム同士の情報交換は、無線機やスマートフォンアプリ(LINEなど)を使います。なお、アプリを使う場合は、情報を写真で送ることは禁止します(テキストか通話のみ)。
- 情報のペアを作る時は「情報カード」を実際にそれぞれのエリア間を移動させます。ただし、1人1枚しかカードを持って移動することはできません。
- 本部とC地区の二者が通信できるように無線機やスマホ(LINEオープンチャット等)を設定してください。また本部とA地区・B地区の三者が通信できるように設定してください。これにより「C地区は本部を経由しなければA地区B地区の情報が伝わらない」、「A地区・B地区は本部を経由しなければC地区の情報が伝わらない」状況を作ります。
- すべての情報をそろえるか、制限時間になったら本部から終了の連絡をしてください。
【応用ルール(教室内などエリアが近い場合)】
- チーム同士の情報交換は「カードの受け渡しと同時に、カードの内容についてのみ」行うことができます。
- 大声で全体に情報を共有することは禁止です。
- 1人1枚しかカードを持って移動できない点は同様です。
- 直接連絡が取れないエリアがありませんので、自由に行き来して構いません。効率的にカードを移動させるにはどうしたらいいかを考えながら取り組んでください。
- すべての情報をそろえるか、制限時間になったら本部から終了の連絡をしてください。
(4)クリアのコツ
DICEは、いわばいくつかのエリアやチームをまたいでの「神経衰弱」です。どのカードがどこの班・エリアにあるかを確認しながら、自分たちの班・エリアのカードを適切な場所へ届けていきます。
優先度の高いカードや、複数のカードを組み合わせなければならない場合もあります。災害発生時数時間~数日程度を想定したいろいろな情報があるので、優先順位を見極めつつ、コミュニケーションをとることがクリアのコツです。
事後指導のポイント
事後指導に際してのポイントをまとめておきます。主にDICEは高校生~防災関係者までを想定していますが、小中学生等に実施する場合は、表現を分かりやすくしたり、カードの内容を一部変更するなどして対応します。
(1)リーダーシップとミス・コミュニケーション
▼本部機能とリーダーシップの大切さ
- 全体をまとめる本部は言葉や表現を正しく理解する知識が必要
- 限られた時間で対応する決断力、優先順位を見極める判断力も求められる
- リーダーとしての機能を理解する(本部が動き回って手薄にならないように)
▼ミスコミュニケーションを防ぐには
- 思い込みや先入観、誤解などがミスの原因になるので、言葉の意味をよく考える
- 一方通行ではなく「会話のキャッチボール」をする
- 聞いたこと、理解したことを相手に「復唱」すると誤解やミスを防ぎやすい
- 誰に向けての情報か、相手を明確にする
- カードの内容をただ伝えるのではなく、要約することも必要
(2)災害対応や防災活動に求められる人材像
阪神淡路大震災の対応経験者が感じた理想の人材像について、ヒアリング調査が行われています。前半5つ(ア~オ)は個人の仕事(活動)に対する取り組み方に関するもので、後半6つ(カ~サ)はリーダーとしての資質に関するものです。
(ア)体力的・精神的に強靱である人
(イ)個人的事情よりも仕事を優先できる人
(ウ)その場で自分に何ができるかを考える人
(エ)全体像を把握した上で仕事ができる人
(オ)自分の判断で迅速に事態に対応できる人
(カ)声の大きい人
(キ)誰とでも対等に渡り合える人
(ク)コミュニケーション能力が高い人
(ケ)周りの人の動きがちゃんと理解できる、読める人
(コ)調和が取れている人
(サ)いろいろなタレントを組み合わせてうまく使える人
林春男『防災を担う人材育成』より抜粋
上記のうち、マーカー部分は本演習でもフォローができる項目です。
(3)演習を振り返って
これまで実践してきた演習でコメントした内容の一部を紹介します。
- 本部の役割は「被害の全体像」をいち早く掴むことです。本部が十分な情報を集めないまま、場当たり的に決断を下すと本来必要とされる場所に必要な資源が届かない(以下「ミスマッチ」)が起きます。
- 被害の大きさに比例して、情報が入りづらくなります。被害が大きければ大きいほど、情報を発信する環境が整うのが遅くなるため、重要な情報が見過ごされることがあります。被害が小さければ小さいほど、人が集まり、環境も整うため緊急性が高くない情報も含めてたくさん発信されます。
- 「情報の鮮度」を意識します。ある時点では「正しい」情報もある時点から「正しくない」情報に変わることがある。但し、スピードだけで決断するとミスマッチが起きることがあります。また、ミスマッチを恐れて情報の分析・収集に時間をかけすぎると、情報の鮮度が落ちて活用できなくなります。優先順位と、素早い決断が必要です。
- 3つの箱(前述)」を意識します。本部が決定するときは、確かな情報に基づいているか、判明している事実から確実だと思える情報を根拠にして、判断していきます。
- 入ってきた情報から対応するのではなく、緊急度の高い情報から選別する「情報トリアージ」もポイントです。
- 情報のやりとりは、本部だけでなくそれぞれのエリアで把握しておかないと「あの情報はどこへ行った?」が起きやすくなります。
まとめ
DICEは、災害時に起こりえる情報処理のミスを、なるべく少なくすることができるようプログラムした教材です。最初は難しいかもしれませんが、ある程度訓練を重ねると、情報の取り扱い(無線機を使っている場合は無線機の取り扱い)に慣れることができます。
様々な地域、学校等で、防災訓練の教材としてご利用いただければ幸いです。DICEを用いた教育訓練等についてのご依頼もお引き受けしております。お気軽にご相談ください。
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