明治大学和泉ボランティアセンターさんのご依頼で、大学生・教職員を対象としたオンラインでの災害ボランティア講座を担当しました。開催にあたっては、筆者が災害ボランティア講座や災害ボランティアセンター開設・運営訓練、災害ボランティアネットワーク等でご縁のある地元の社会福祉協議会(社協)の方にもご協力いただきました。
本稿では講座の内容や事前質問への回答(抜粋)についてご紹介します。
講座の内容
講座の趣旨は以下のとおりです。
“ 今年も大雨は多くの地域で土砂崩れや河川の氾濫など甚大な被害をもたらしています。被災地では家屋の清掃活動や避難所運営サポートなど多くのボランティアを必要としています。そこで、今後現地でボランティア活動したいと思っている方、興味がある方、知識をつけたい方など、皆さんの想いを支援するため被災地支援ボランティア活動に関する「学びの場」を設けることにしました。コロナ禍における災害ボランティア活動の基本を、災害支援のスペシャリストから教えていただきます。
まずはこの機会に学び、対面活動が可能になった時に繋げてください。ぜひご参加ください! “
引用元:【和泉ボランティアセンター】「いま、知っておきたい災害ボランティアのこと」オンライン開催
2021年7月1日からの大雨に伴う熱海市での土砂災害だけでなく、各地で被害が相次ぐなか、コロナ禍でどのようにして災害ボランティアや復興支援に関わっていけばよいのか、どんな情報を確認し、準備や心構えをしたほうがよいのかをお伝えできればと内容を構成しました。
「社協(しゃきょう)」について知っておこう
社協や災害ボランティアセンターについては社協の方からお話いただいたのですが、本稿では筆者のほうでフォローしておきます。
大学生に限らず、災害ボランティア活動について知っていても、社協(社会福祉協議会)のことはあまり知らない、という方は多いのではないでしょうか。市区町村、都道府県、全国にそれぞれ社協があり、地域福祉活動やボランティア活動をはじめ、その地域の特性に応じた事業が行われています。社協のことについての詳細は 全国社会福祉協議会 のページをご覧ください。
今回の講座でご協力いただいたのは 杉並区社会福祉協議会 さんです。多くの社協にはボランティア活動や市民活動を中心事業とする「ボランティアセンター」が併設されています(市区町村によっては、別法人が運営していたり「市民活動センター」など呼び方がちがうこともあります)。杉並区には 杉並ボランティアセンター があり、災害ボランティア講座や災害ボランティアセンターの開設・運営訓練なども行っています。
災害ボランティア活動の中心となる「災害ボランティアセンター」を開設するのは社協が多いのですが、こうした日頃からの地域福祉・ボランティア活動で培われた経験やネットワークが、被災された方々の生活支援・復興支援には欠かせないからです。
災害ボランティアセンターは平時から常設されていたり、社協以外のいろいろな団体が運営に関わったりすることもありますが、各地域の社協・ボランティアセンターは、災害ボランティア活動には欠かせない組織なのです。
ぜひ、お住いの地域や通勤・通学先の地域にある社協・ボラセンのホームページで活動を調べたり、講座や訓練があれば参加してみてください。
遠方被災地と地元被災時のちがいについて知っておこう
災害ボランティア活動は、大きく2つの活動に分けられます。遠方被災地での活動と、地元・自身が被災したときの活動です。それぞれ、活動に参加するためのステップには違いがあります。詳しくは下記のnote記事で紹介していますので、併せてご覧ください。
この「ちがい」はコロナ禍…というよりも、これからの災害ボランティア活動を考えるうえで重要ではないかと考えています。単純に県域をまたぐような移動、ボランティアバス・支援ツアーのような団体でのまとまった活動が難しい、という状況が背景にあります。
感染症の拡大が落ち着いて、広域移動や団体バスなどでボランティアが気兼ねなく移動できるようになれば、状況は変わるかもしれませんが…当面は難しいでしょう。
それでも、被災された方々に支援が必要なことには変わりありません。より地元・地域に密着した支援が求められます。また、支援団体や大学等によるバスツアーなど直接的なサポートも難しくなるため、これまで以上にひとりひとりの知識、心構え、行動力や判断力がに重要になります。
災害情報の集め方について知っておこう
やみくもに行動するだけでは、被災地域に迷惑をかけてしまうこともあります。「行けばなんとかなるだろう」と災害ボランティアの募集は締め切っているのに押しかけたり、地元限定で募集しているのに遠くから行ってしまうなどがその一例です。
まずはしっかりと災害(ボランティア)情報について調べることが大切です。具体的には、前述した被災地域の「災害ボランティアセンター」のホームページやFacebookページをチェックすることです。例えば 熱海市災害ボランティアセンターFacebookページ では日々の状況が公開されていますので確認してみてください。
どんな活動が行われているのか、ボランティアの募集の状況や、活動内容などをチェックしておきましょう。
ここでポイントになるのは、特に被災直後は被災地域社協や市区町村のホームページへのアクセスは控えてほしいということです。市区町村や社協のホームページは、主に市民の方々からのアクセスを想定しています。FacebookやTwitterのように、日々何千万、何億ものアクセスがあることを想定しているわけではありません。
アクセスが集中すると、ホームページが開くのが遅くなったり、場合によっては数日間、サイトが見られなくなるといったことがこれまでの災害でも起きています。それにより、その市区町村にお住まいの方々、被災されている方々がいちばん困ります。
近年ではFacebookページで情報を発信する社協が増えていますので、直後に情報を知りたい方は、まずFacebookやTwitterなどのSNSで情報を確認するようにしてください。
ただし、FacebookもTwitterも、内容によっては個人の見解・意見と事実が混在している場合があります。発信元や発信日時を確認することはもちろんですが、写真やキャプチャも必ずしも事実とは限りませんので注意が必要です。どのような情報があるかは下記の記事でも紹介していますので参考にしてください。
[blogcard url=”https://kenyamiyazaki.com/archives/2865″]
装備や持ち物の基本について知っておこう
装備や持ち物については質問が多い項目のひとつです。個人的には「自分にできる活動の範囲で用意する」ことが大事かなと思います。「水害ボランティア作業マニュアル」という有名なリーフレットが各所でダウンロードできるようになっていますが、これはかなり本格的な土砂・瓦礫の撤去作業などを行う場合の装備です。
相対的に人手が必要な活動、ということで紹介されていますが、体力的に自信がない場合は他にも活動できる場面はたくさんあります。避難所や災害ボランティアセンターなどでも、様々な活動があります。
講座ではどんな環境・場面・季節でも比較的応用が効く、あると便利な装備や持ち物について紹介していますので、参考にしてください。これらの9割くらいは筆者は日常的に持ち歩いています。
オリエンテーションと安全衛生について知っておこう
装備や持ち物を準備できたらいよいよ現場に向かいますが、遠方でも地元でも、活動する前の「オリエンテーション」が大切です。オリエンテーションは、社協や災害ボラセン、現場リーダーなどから受ける説明のことです。
筆者は大きく4つのタイミングで整理しています。何か分からないことがあれば、いずれかのタイミングで確認してください。“分からないことを分からないままにしない”ことが、後述する心身の安全衛生にとっても重要です。
「安全衛生」は災害ボランティア活動中の体調不良やケガを防ぐためのキーワードです。マスクの着用や飲食の際は静かにすることから始まり、トイレに行くこと、水分や休憩はしっかりとることなど、「オリエンテーション」で必ず説明があります。自分は大丈夫だ、と思わずに説明されたこと、指示されたことはきちんと守ってください。
災害ボランティアのストレスケアについて知っておこう
特に東日本大震災以降、災害ボランティア活動はカジュアルになりました。未経験の方や、小学生から80代以上のご年配の方まで、幅広く参加されるようになっています。その分、ケガや体調不良のリスクも高まっているので、前述したオリエンテーションでしっかりと説明を受けることが大切です。
併せて「支援者のストレスケア」についても知っておくとよいでしょう。身体的なこと以上に「自分は大丈夫だ」と思ってしまいがちな部分ですが、思わぬところにストレスの原因は潜んでいるものです。
例えばSNSで活動を検索すると、活躍している人たちの情報、同じ学生や社会人でも、現場で汗を流して感謝される人たちや支援団体の情報が目に入ります。ついつい自分と比較してしまい「私も何かしなくては」、「自分も現場に行かなくては」と思ってしまいがちです。でも、思うように活動のきっかけが掴めず、モヤモヤしてしまうこともあるでしょう。
ですが、そもそもボランティア活動は誰かと比較するものでも、されるものでもありません。募金と土砂の片付けを比較するのは、カレーとハンバーグを比較するようなものです。どちらも必要とする人がいて、応じる人がいるということが重要であって、どっちがすごいとか優れているというものではありません。
あえて比較するならば、他者や周囲ではなく、これまでの自分自身と比べて「積極的に行動できたかどうか」を基準にすると良いでしょう。情報を調べたり、募金をしたり、活動している人や被災された方への応援メッセージを送ったり…”災害に直面し、困っている人の生命・生活・人生に積極的に関わるために行動する”ことが「災害ボランティア」だと思います。
活動前後のストレスケアについて詳しくは別記事をご覧ください。
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事前質問への回答を一部紹介
講座の前に事前にいただいた質問にも回答したのですが、ひとつを例として抜粋でご紹介します。
社会人になってもボランティアを続けていきたいので、どう情報収集すればいいか。
災害ボランティアに限りませんが、情報は学生も社会人も変わらず、被災地域・希望する分野の発信をチェックすること、できれば地元社協の方と日頃からつながりを作っておくことが重要です。会社によってはCSR 活動やESG に関連して災害支援・福祉・環境ボランティア活動を推奨していたり、社員教育プログラムとして取り組んでいたりするところもあります。勤務する会社のビジョンやミッションと関連する部分があれば、業務の一環としてサポートされることもあるかもしれません。
基本的には個人の活動になりますが、ケガをしたり、体調不良になったりすれば当然、会社に迷惑をかけることになりますし、収入や評価などにも影響するかもしれません。学生までの頃と一番違うのは社会人には「雇用契約」が存在するという点です。
それがどんなに善意の行動の結果であれ、契約を履行できないのであれば、社会人として認められないこともあります。知人にも被災地での活動に熱心に取り組み、やがて仕事をやめて現地に移住した、という人がいます。それはそれで人生の選択肢かとは思いますが、人生設計を変えるほどの活動なのかどうかは、自分ひとりではなく、家族や周囲の人の意見も聞いて、慎重に判断すべきことだと思います。
できることなら学生のうちに基礎を学び、現場での経験をしておくことはとても大事だと思いますが、焦る必要はありません。会社の業務や家庭に影響を与えない範囲で、活動されている方はたくさんいらっしゃいます。むしろ地域や場所、タイミングにもよりますが社会人の方々が多く、学生のほうが少数かもしれません。※それ故に、平日の活動で人手が少なくなってしまう、という課題もあります。
余談ですが僕のように「災害ボランティア・防災を仕事にする」という選択肢もない訳ではありません。note に記事を寄稿してますので、関心のある方はご覧ください。
まとめ
社協と大学が連携して行う「災害ボランティア講座」の開催モデルは、これまで筆者が各地で取り組んできたものですが、昨今の相次ぐ自然災害もあり、特に大学側の関心は非常に高いと感じています。
社協側としても、近隣にある大学・学生さんとの連携には関心も高く、大学ボランティアセンターを経由するなどして積極的に連携を図っているところも増えています。
これからの災害ボランティアでは地域の力を活かすことが重要になりますが、直接被災する可能性が高い「住民」の方に限らず、通勤・通学など「住民ではないが、その地域に縁のある人の力」を活かす仕組みもより重要になってくることでしょう。
もし本稿をご覧になっている学生さんや教職員の方々がおられましたら、ぜひ地元社協の方々と防災・災害ボランティアについても具体的な連携について検討していただければ幸いです。もちろん、筆者でよろしければご協力させていただきます!