2022年11月、法政大学市ヶ谷キャンパスで職員向け防災訓練が実施されました。同訓練では備蓄倉庫や帰宅困難者受入場所となる施設の見学や、帰宅困難者支援施設運営ゲーム「KUG」を使った演習が行われました。また、全体の進行管理や報告、施設への誘導・説明、演習のファシリテーターなど学生スタッフが中心となって運営されたことも大きな特徴です。
筆者は運営準備から、終了後まで教職員と学生の皆さんの連携をLINEグループ等で確認させていただき、当日は事前の講義を担当しました。
本稿ではこうした取り組みをぜひ他大学の方々にも知っていただくため、要点を整理しながら紹介します。
2022年12月19日付けで、大学ホームページにも訓練報告が掲載されました。職員・学生スタッフのコメントも掲載されています。
https://www.hosei.ac.jp/info/article-20221202135821/
演習型訓練の実施に至る経緯
同大学ではこれまでも積極的に様々な防災訓練を実施されています。2015年の時点でも、学生が指導員となって職員の方々に救命法の指導を担当しています。
ここ数年の学生・教職員が連携した取り組みも本ブログで紹介しています。本稿に関わる取り組みは下記の記事になります。
内容に入る前に、まず経緯については大きく3つのステップで整理します。
大学と自治体が結ぶ帰宅困難者支援に伴う防災協定
スタートラインにあるのは大学と自治体(市区町村)が結ぶ防災協定( 千代田区ホームページ をご覧ください)です。この協定には以下の3つの項目が主な内容となっています。
● 学生ボランティアの育成
● 地域住民および帰宅困難者等の被災者への一時的な施設の提供
● 大学施設に収容した被災者への備蓄物資の提供
協定に基づき、当該大学では開放施設を指定し、受け入れのための準備(自治体による帰宅困難者向け支援物資を倉庫に置く、マニュアルを作成する等)を進めているほか、学生向けの災害ボランティア講座も実施しています。
根拠となる書面・行政文書がある、というのは大学という組織において、また取り組みを維持継続していくためにも重要な点です。防災協定が、今回の訓練の土台、前提になっているとも言えます。
活動に積極的な学生・学生団体、教職員
往々にして「締結しただけで具体的には何も…」となってしまいがちな協定を、実行力のある形にしていくためには積極的な活動が必要です。活動を支えるためには、積極的な学生・学生団体、そして教職員の方々の理解と協力が欠かせません。
学生も教職員も「個人」に頼ってしまうと、卒業や異動によって維持していくことが困難になってしまいます。大学の部署、学生団体など組織的な連携があることで、継続的な取り組みにつながります。
学生・教職員が課題を共有しやすい教材やプログラム
今回の施設見学や帰宅困難者支援演習、これまでに何度か筆者も関わる形で学内で学生対象に実施されてきたプログラムです。そのプログラムに参加してくれた学生の皆さんが中心となって、ファシリテーターとして、またプレゼンターとして協力してくれています。
協力してくれる学生の皆さんが「このプログラムなら教職員の方々にも伝えられる、一緒に考えられる」と思えるような明確な教材やプログラムがあることもポイントです。
訓練の流れと主な内容
訓練の進行管理は基本的に学生さんが行いました。大まかな流れは次のとおりです。
- 趣旨説明
- 基調講演(導入講義)
- 学生による報告
- 施設見学
- 大学版帰宅困難者支援施設運営ゲーム(KUG)
- 発表・講評
- 学生による提言
この中で要点となる部分のみピックアップして写真つきでご紹介します。
SA(Student Assistant)/学生スタッフの自己紹介
はじめに今回の訓練全般をサポートする学生の皆さんが自己紹介をしました。いくつかのグループに分かれていますが、それぞれのグループに1人ずつ、学生スタッフが指導補助として入ります。また、それぞれ進行や誘導、施設説明などの役割があります。
学生による報告、提言
続いて前述した宿泊型訓練に参加した学生さんから、その時に感じたことの報告、考えて欲しいことなどについてお話がありました。訓練には総長先生も参加されており、学生さんから総長先生への質問があり、総長先生がそれに応えるといったやりとりもありました。
また、順序が逆になってしまいますが訓練の最後には同様にプログラムに参加した学生さんから「提言」という形でどのようなことを帰宅困難者支援で考えたらよいのかの発表もありました。
導入部分でのお話も、まとめとしての提言も、いずれも素晴らしい内容でした。ただ学生がファシリテートや説明をする、というだけではなく、その根拠となる体験や経験がしっかりと説明されることで、職員の方々にもより伝わりやすくなりますね。
備蓄倉庫、帰宅困難者受入施設の説明
筆者が20分ほど導入講義を行ったのち、参加職員の方々は2つのグループに分かれて備蓄倉庫(帰宅困難者用・学生用)と帰宅困難者受入施設の見学を行いました。学生スタッフが誘導と現場での説明も担当しています。
大学の職員の方々でも、実際に備蓄倉庫を見たり、施設について確認する機会はなかなかないと思います。倉庫も施設も、それぞれ学生さんがこれまでのプログラムで確認していることはもちろん、この日のためにしっかりと説明資料を準備されていました。
大学版帰宅困難者支援施設運営ゲーム(KUG※)
※帰宅困難者支援施設運営ゲーム(KUG)については 東京大学大学院・廣井先生の研究室 をご確認ください。
施設見学から戻ってきたら、いよいよ演習です。大学が帰宅困難者支援施設となったという想定で、先ほど見学してきた施設の図面を用いて、帰宅困難者を想定した「コマ」を配置しつつ、様々なイベントに対応するという演習です。
ただ「コマを配置し続ければよい」というものではなく、配置をしながらも次々といろいろなイベントが起こります。タバコの問題、トイレの問題、学生への対応…加えて解説ということで様々な情報提供(写真では最寄りの避難所へのルートが表示されています)もあります。
かなり慌ただしい状況ですが、実際に大学(職員)として帰宅困難者の受入をするとなると、同じ状況が想定されます。つまり「受け入れだけを考えていれば」というわけにはいかないのです。
受け入れをしながら同時にイベントやトラブルに対応し、情報を集めたり伝えたりもしなければならない。そんな状況が感じられる演習でした。
まとめ ~教職員と学生が連携するモデルケースとして~
本ブログはどちらかというと関係者向けですので、ご存知の方も多いかもしれませんが…
筆者はずっと「大学(教職員)と学生が連携して防災に取り組む」ことが大切だと思い、自分自身が学生の頃から活動してきましたし、これからも続けていくと思います。
今回の取り組みは、そんな筆者にとってみても「理想的」な水準に達していると思います。今回だけを見てそう言っているのではなく、これまでの取り組み、そして終わったあとの雰囲気を含めてそのように感じています。
まだまだ語り尽くせない点も多いですし、語り始めたら更に長くなってしまいそうです。もう少しいろいろ調べたい、という方は カテゴリ:大学と防災 または タグ:大学 などをご参照ください。
学生と一緒に活動を進めたい教職員の方、そして教職員の方と一緒に活動を進めたい学生の方、それを支えようとしている外部団体の方々、皆さまの取り組みの一助となれば幸いです。