都立高校で行われている「宿泊防災訓練」で、生徒自身(2~3年生)が他の生徒(1年生)に対して、先生のための教育事典EDUPEDIAに掲載されている教材「うさぎ一家の防災グッズえらび」を使った防災授業を実施しました。宿泊防災訓練や、生徒による防災活動支援隊などの説明も交えてご紹介します。
○ 先生のための教育事典「EDUPEDIA」
○ プリント1枚で防災教育シリーズ「うさぎ一家の防災グッズえらび」
都立高校の宿泊防災訓練とは
東京都教育委員会は、「都立高校改革推進計画 第一次実施計画」において、災害発生時、自分の命を守り、身近な人を助け、さらに避難所の運営など地域に貢 献できる人間を育てるため、今年度から全ての都立高等学校(定時制・通信制課程を除く)及び都立中等教育学校後期課程で一泊二日の宿泊防災訓練を実施する こととしています。
-東京都報道発表資料より- http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2012/04/20m4q400.htm
平成24年度から、全ての都立高校で一泊二日の宿泊防災訓練が実施されるようになりました。「2020年の東京」への実行プログラム2012で示されている目標「高度な防災都市を実現し、東京の安全性を世界に示す」、施策2「自助・共助の力を最大限に活かし、被害の最小化と都市機能の早期回復を目指す」のため、重点的に実施されている事業です。
現場レベルで考えれば、都立高校(都の施設)は帰宅困難者ステーションとして指定されており、大規模災害時の帰宅困難者受け入れや支援の場としての役割があります。
東日本大震災発生当時も、都立高校だけで帰宅困難者5,802名を受け入れています(なお、保護した生徒は7,262名)。【平成23年3月12日東京都教育庁発表資料より】
防災活動支援隊とは
平成26年から東京都が全ての都立高校に取り入れたのが防災活動支援隊制度です。僕が関わっている都立高校では、ボランティアに関心のある生徒や、生徒会のメンバーなどが隊員となっているケースが多いようです。その活動も様々ですが、下記にFNNによる取材記事がありますのでご参照ください。
○ いのちを守る 都立高の防災活動支援隊制度を取材しました(FNN) ※リンクを削除しました
宿泊防災訓練の一般的な内容
実施する高校によって様々ですが、比較的よく行われているのは次のような内容です。なお、原則として全員参加ですが、強制しているわけではなく承諾書を保護者に提出してもらった生徒が参加しています。高校によって違いはあるかもしれませんが、7~8割以上の生徒が参加しているところもあれば、そうでないところもあるようです。
1日目
・午後~夕方にかけて防災講話や実技(応急手当や初期消火等)訓練
・夕方に都立高校に備蓄されている非常食等を使った食事作り、夕食
(学校によっては毛布の取り出しや配分なども生徒が行う)
・夕食後~就寝前までに、再度防災講話や実技訓練
2日目
起床後、後片付けをして朝7時30分頃で解散
生徒自身による防災授業の導入・工夫
宿泊防災訓練では例年、先生方が何をやらせるか、どうやるかで頭を悩ませています。消防署と連携して行っていることが多いので、その点では「去年と同じく」ということでも良いのですが「せっかくやるならしっかりと学ばせたい」と考えると、様々な制約のあるなかでプログラムを組むのは容易ではありません。
まず1学年全員を対象にすることが多いため、管理するだけでも大変です。応急手当や実技訓練ひとつとっても、時間差をつけたりするなど工夫をしないと一度に指導することは難しいのが現状です。「何もしない(できない)」生徒も出てきて、ふざけはじめたりしてしまいます。
「どうにかして生徒を(なるべく全員)積極的に参加させられて、かつ安全管理等もしやすい方法はないものか・・・」
というのが、訓練を担当される先生の率直なご意見でしょう。
そこで、僕がご提案したのが「生徒(防災活動支援隊、またはそれに準じるような自発性のある生徒)に、一部のプログラムを任せてみませんか」というものです。難しいと思われるかもしれませんが、実際にそれは可能でした。
これからご紹介する内容をぜひご覧いただき、可能であれば検討していただきたいと思います。
防災活動支援隊(有志生徒)に活動・活躍の場を
課題に感じていたのは「防災活動支援隊の生徒の活躍(活動)を、他の生徒は理解しているのか」ということです。多くの場合は地域の防災訓練に参加するだけで終わってしまい、他の生徒に知られることはありません。それはすごくもったいない。そこで、宿泊防災訓練の場において支援隊(有志)の上級生生徒に、下級生生徒に対する防災授業を担当してもらおう、と考えました。
災害時は生徒もお客様ではありません。生徒自身、先生、地域の人と助け合うために、自分でできることは自分でやってもらう必要があります。事前に防災活動支援隊や、関心のありそうな生徒にアプローチして、宿泊防災訓練への協力を呼びかけます。
手軽な防災教材を活用しよう
「うさぎ一家のぼうさいグッズえらび」 は、プリント1枚で指導できて、生徒同士の話し合いを中心に進められる教材です。事前に少し指導をすれば、専門的知識のない生徒でも充分に指導が可能です。
指導案や指導用資料を活用しよう
指導役を担ってくる有志生徒、防災活動支援隊には事前学習として、課外の時間を使って下記の非常持出品の必要性などについて考えるための指導用資料を作成しました(当日は、筆者が事前にこの資料を使って簡単に説明してから、生徒による指導にあたりました)。フリーで閲覧・ダウンロードできますので、ご自由にご利用ください。
生徒自身による防災授業のようす
生徒の反応
実際に指導を担当してくれたのは、ボランティアに関心のある女子生徒6名でした。1年生全員をこの女子生徒6名で指導しました。指導した生徒の反応、感想をピックアップしてご紹介します。
「先生の気持ちがよくわかりました」
どの高校でもそうだと思いますが「ふざけやすいクラスの男子」がいるものです。この女子生徒が担当したグループの男子はかなりやんちゃなほうで、なかなか女子生徒の指導を聞いてくれませんでした。途中で遊びはじめたりもありましたが、女子生徒のなかでも上級生(3年生)の女子生徒が「●●組の男子!」と注意しながら指導していました。
「言ってるのに全然聞かなくて・・・先生の気持ちがよく分かりました」
「難しかったけど、やってみてよかった」
生徒は事前に「うさぎ一家の防災グッズえらび」を体験しており、教材も自分たちで作成しました。難しい授業になることは、彼女達も理解していました。想像以上に話を聞かない、真面目に向き合ってくれない男子に手を焼いたようですが、それでもちゃんと伝えれば話を聞いて、作業をしてくれるようになりました。伝えることは難しいことですが、やってみて気付くこともたくさんあったようです。
「難しかったけど、やってみてよかったです」
「自分の代で、この授業をやってみたかった(OBOG)」
当日、応援で高校のOBOGがかけつけてくれました。彼らも同様に宿泊防災訓練を体験してきた元生徒です。そんな彼らから、生徒による授業を見た感想を聞いてみました。彼らは消防署による指導だけを体験したのですが、こうして生徒同士で学び合う機会ということの大切さを、改めて感じたようです。また「高校を卒業するとこんな機会、ないんですよね。高校までの間にしっかりと学んでおくことが大事だと思いました」という意見もありました。
「自分たちの代で、この授業やってみたかったです」
まとめ 生徒による授業のススメ
宿泊防災訓練で、上級生が下級生に防災授業を行う。かなりチャレンジングだと思いますが、環境さえ整えば決してできないことではありません。
一方的に話を聞く、特定の生徒だけが体験するということに比べれば、全員が参加できて、教える側、教えられる側双方の生徒に学びがあるという点で、メリットがあります。いきなりやってみるのは難しいかもしれませんが、ご相談いただければいつでもサポートさせていただきます。