いろんな防災ゲームで防災をもっと身近に【防災がっこう@そなエリア東京講義録】

  

2018年12月23日(日)、東京臨海広域防災公園で、NPO法人コドモ・ワカモノまちing主催『コドモの命を本気で守る!防災がっこう@そなエリア東京』が開催されました。イベント詳細については同法人ホームページをご覧ください。

本稿では、担当させていただいた3限目の講義・ワークショップ部分の講義録を掲載します。ボリュームが多いため、印刷してご覧になる場合は下記のPDF版をご利用ください。クリックすると表示・ダウンロードできます。

  

はじめに ~インプットとアウトプット~

 本時間はパワーポイントやレジュメは配布しません。ぜひメモをとっていただきたいのです。

 人が何かをインプットするのは視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の5つを用いて行いますが、アウトプットに必要なのは1つ、筋肉です。筋肉といっても飛んだり跳ねたりというだけではなく、目の動き、口の動き、手の動きといったごく僅かなものも含めて筋肉による「運動」が必要です。皆さんが本日参加されている目的は、こどもの命を守るために活動すること、すなわち「アウトプット」することにあるはずです。話を聞くのは手段であって、目的ではありません。本講ではぜひ手や口を動かして「アウトプット」していただきたいと思います。

 ただ、それでもメモを取り切れない場合もあると思いますので、講義メモは後日、弊会ホームページにて公開いたします。あとで振り返りたい、知人の方に伝えたいということがあれば、来週以降「防災教育普及協会」ホームページをご覧ください。では、本題に入ります。 <2018年12月28日公開済み>

http://www.bousai-edu.jp/info/report-181223/

(コドモ・ワカモノ・まちingFacebookページより)

まだまだ身近ではない防災(教育)

 今日のテーマは「防災ゲームで防災をもっと身近に」ですが、もっと身近に、ということはまだ身近ではないということになります。内閣府が行った「平成29年度防災に関する世論調査(下記リンク)」によると「ここ1~2年で災害について家族や身近な人と話し合ったことがあるか」という質問に対して約4割の方が「話し合っていない」と回答しています(図1)。

https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-bousai/index.html

 特に70代以上のご年配の方は顕著で、約半数の方が「話し合っていない」と回答しています。災害や防災については話し合う、というのは決して難しいことではないと思いますが、平成28年熊本地震があってもなお、多くの方にとって「身近」なことではないと分かります。従って、防災教育は防災をいかに身近に感じてもらえるか、ということも考えなければなりません。

 さて、皆さんは料理を作られたことがありますか。卵焼きでもフランス料理でも構いませんが、経験がある方は手を挙げてください<ほぼ全員挙手>。ありがとうございます。私たちは毎日、ご飯を食べますね。では、皆さんは毎日料理を作るでしょうか。毎日作られる方は手を挙げてください<6割くらいの方が挙手>。さすがですね!防災に熱心な方は料理も熱心なのでしょうか。

 興味深いデータがあります。2018年10月に行われた「防災こくたい」で、弊会では「今、防災教育に足りないものは何か」という課題を問いかけるセッションを主催し、参加した方々のうちおよそ100名の方から防災教育実践に関するアンケートを回収しました。いろいろなことをお伺いしたのですが、実践に関する課題が見えてきました。

 簡単にまとめると約半数の方が「実践している人の実感としては、防災教育は特定の誰かに引っ張られている状況で、自主的に、また明るく・気軽に・楽しく実施できる状況にない」(図2)と感じていることが分かりました。

 防災教育が属人的(人につく。担当者の異動や退職などが防災教育の継続に影響を与えることがある)なのは、なんとなく感じていた方もいるかもしれませんが、改めて数値で課題が浮き彫りになりました。

図1 災害についての家族や身近な人との話し合い(内閣府HPより)

  

図2 防災教育実践に関する課題  ※

※木村玲欧氏(兵庫県立大学環境人間学部准教授)、赤瀬蓮氏(兵庫県立大学環境人間学部4年生)の協力によるアンケートの評価・分析結果に、筆者が一部加筆

どうすれば身近に感じてもらえるのか

 さきほどの料理を例に考えてみましょう。ある人は、栄養バランスや経済的な面、あるいは「愛情」から『手料理が一番だ』と思うかもしれません。でも、手料理には時間も労力もかかります。知識や技術も必要です。例えば小さな子どもがいて、フルタイムで働いている方に「手料理をしないなんて、愛情が足りていない!」と言って状況は変わるでしょうか。変わりません。「そんなこと言ったって、忙しくて時間がない」と言われてしまいます。それ以上しつこく言えば「じゃああなたが作ってください」と怒られるかもしれません。

 防災教育も料理も、要点は同じです。いかに「私にはできない」という部分を減らすか、「私にもできる」と思ってもらえるか、ということです。あんどうりすさんや、斉藤先生のお話は知識や考え方、事例としては大変貴重なものです。では、そのお話を聞いた皆さんは、同じように知識や考え方を伝えたり、実践したりできるでしょうか。恐らく難しいでしょう。先生方のお話は長年蓄積された経験に基づくアウトプットだからです。

 言葉より実践です。インプットされたことがすぐにアウトプットできるのか、試してみましょう(手遊び:ネタバレ防止のため記載しません)。「知っている」ことと「できる」ことは別なのです。かといって、あんどうりすさんや斉藤先生のレベルまで自分を高めてから!というわけにもいきません。ではどうすればいいのでしょうか。

 「プロの料理人」の料理を見たり、コツを聞いたりしたところでプロの料理は作れませんが、レシピを見て具体的な材料や手順があれば、あるいはプロが監修したレトルト食品などを使えば、近い料理を作ることはできます。「レシピ」あるいは「レトルト食品」とはつまり、様々な教材や防災ゲームです。

 防災教材や防災ゲームは、教訓に基づき「こういう手順でこういうことを伝えたら、こんなことが学べるよ」と整理されているものです。ですから、基本的には知識や経験に関わらず、手順通りに進めれば一定の学習成果が認められるのです。プロの料理人の料理は味も栄養もみんな違います。でもお父さんが買ったお弁当と、お母さんが買ったお弁当の味や栄養は違うでしょうか。一部を除けば、基本的には「誰がやっても同じ」なのが、防災ゲームやパッケージ化された教材のいいところです。

 大事なことは大切な人に料理をおいしく食べてもらうこと、防災に取り組んでもらうことであって、手作りかどうかは次のステップではないかと思います

教材を体験してみよう!

 では、実際に教材を体験していただきましょう。「防災・減災スタンプラリー」は、6つの設問に対して自分が思う回答をスタンプで押すことで、自分の防災に対する姿勢が見えてくるという教材です。早速やってみましょう。お手元にある「スタンプラリー」の台紙があります。この台紙にスタンプを押してください。スタンプは後方机にありますが、人数が多いため、後方から2班に分かれて順番に押してきてください。前の方の列の方は、順番が来るまでどのスタンプにするか考えておいてください。(20分程度で押印作業)

 全員、スタンプを押せましたか。では、これからそれぞれのスタンプを使って、各机でスタンプの台紙を見せながら、どうしてそのスタンプにしたのか話し合ってみてください(10分程度)。

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防災・減災スタンプラリーについては シャチハタスタンプラリーホームページ  をご覧ください。

「私の防災」と「あなたの防災」は違う

 時間になりましたので終了します。同じ質問なのに、人によって回答が異なりましたね。どの問題にも、正解・不正解はありません。どれも必要な選択肢なのです。なぜ今日、このスタンプラリーを実施したかというと、教材そのものはもちろんですが、そのスタンプが押された台紙を大切にしていただきたいからです。

 皆さんは、子供の命を守るために防災教育に取り組みたいというひとつの目的に向かっていますね。でも、みんな「防災」に対する考え方や価値観は違うのです。いわば好みの味付けが違うのです。

 もう少し整理すると「子供の命を守りたい」という目的は同じでも、そのために何を、どう伝えるかという手段に何を選ぶかは、人それぞれだということを忘れないでください

自分でイチからお金と労力と情熱を傾けて、防災ゲームを開発したり、プログラムを作り込んだりするのも素晴らしいことだとは思います。でも、みんながみんな、身近な人達もそう思っている・そうできるとは限らないのです。

「私の防災」と「あなたの防災」は違うということ、もしそこに気が付かなければ「防災は誰か熱心な人だけがやるもの」という、根強い社会的な意識を変えていくことはできないでしょう。

まずは自分自身が何を目的にしているのか具体化すること。その手段として何を選ぶのかを決めること、その理由を周りの人にも理解してもらうこと。

これがポイントです。ただ「大事だから」、「必要だから」と押し付けるのではなく、自分が防災に向き合う意味をおろそかにせず、丁寧に伝えていってください。防災を身近に感じてもらうためには、そうした「なぜ」「どうして」を細かく整理して伝えていくことが大切だと思っています。相手が子どもでも大人でも変わりません。

  いろいろ課題はあるかもしれませんが、せっかくいろんな防災ゲームや教材があるのだから、イメージに近いものから気軽に試してみてください。「レシピ」通りや「レトルト食品」で満足しなければ、それぞれが好みの味付けに変えていけばいいのです。お手元のガイドチャート(図3)やマップ、サポートシートは基本的に見ていただければわかるようになっていますが、不明な点があればお気軽にお問い合わせください。本日はご参加ありがとうございました。 

chart2小学生・保護者

図3 防災教材活用ガイドチャート

※ガイドチャートはじめ各種資料は、以下のブログ記事でも閲覧・ダウンロードが可能です。

[blogcard url=”https://kenyamiyazaki.sakura.ne.jp/blog/archives/1754″]

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