そなエリア東京で都内小学5年生が「自助・共助・公助」トランプゲーム体験、備えや助け合いの大切さを考える

東京都江東区にある 防災体験学習施設「そなエリア東京」 で、都内小学校5年生を対象に「自助・共助・公助体験トランプゲーム」を実施しました。ゲームについては 以下の記事 で詳しく紹介しています。編集可能な教材ダウンロードもできますので、合わせてご覧ください。

目次

実施環境

「自助・共助・公助体験トランプゲーム」は、筆者がオリジナルで開発した防災教育プログラムです。主に学校のクラス単位など、ある程度の人数が集まっている環境で活用でき、短時間かつほとんどお金をかけずにできるプログラムになっています。今回は次のような実施環境で行いました。

●対象人数: 小学校5年生 3クラス(1クラス約30人) 90人
●実施場所: 会議スペース(教室2部屋分くらい)
●所要時間: 約90分
●使用物品: トランプ 18組(1クラス6班編成で3クラス分)
       プロジェクター、スクリーン、ノートパソコン ※導入講義・説明用
       説明用配布資料

都内では一般的な規模かと思います。所要時間90分のうち、トランプゲームの実施は30分程度です。事前説明や発表まで入れて、40-50分くらいです。

プログラムの流れと時間配分

プログラムの流れと時間配分は次のとおりです。若干は前後していますので、めやす程度でお考えください。

講師自己紹介 5分
導入講義 20分
トランプゲームのルール説明 15分
トランプゲームの実施 30分
振り返り 10分
まとめ 10分  … 合計 90分

そなエリア東京には「東京直下72hTOUR」という、首都直下地震発生から72時間を想定した体験ツアーがあります。児童の皆さんは、このトランプゲームで自助共助公助を体験した後に、ツアーに参加しました。

ゲーム指導時のポイント(小学校高学年対象)

小学校高学年を対象として実施する場合のポイントをご紹介します。

ルールの説明は資料も活用して

このゲームではルールをきちんと守ってもらうことが重要です。

★ クラス内で「住民班」と「行政職員班」に分かれること。
★ 目的はクラス内でバラバラになったカードを正しい順番(被災~生活再建)に戻すこと。
★ 「住民班」は開始から数分間は会話や移動ができないなどの制限があること。
★ カードは一人1枚しか持てず「持って行くこと」しかできないこと。
★ カードを揃えるときに足りない場合は「ジョーカー」を使うこと。

他にもいろいろありますが、上記は核となるルールで、このあたりをきちんと理解してもらえないとゲームが成立しなくなってしまいます。今回は画面で説明しつつ、各班に説明用紙を配布し、必要に応じて確認しながら進めてもらいました。

時間設定で「自助・共助・公助」を再現

前項のとおりゲームの目的はバラバラになったトランプを元に戻すことであり、その過程で自助・共助・公助を体験的に理解することにあります。

2024年版では冒頭3分間、住民班は「会話も移動もできない」という設定を加えました。これで「自分と家族や隣近所のことで精一杯」という自助を再現しています。

住民班は3分経過後に「(他の住民班と)会話や移動が可能」になります。これで「少し離れた地域(避難所等)も含めた地域内での助け合いができる」という共助を再現しています。

行政職員班は「すぐに動ける、でもすぐに支援はできない」

では、この時間帯に行政職員班はどうしているかというと、スタート直後から班の中で会話・議論はできますが、6分間経過するまでは住民班との会話や移動ができません。住民班に行くこともできませんし、住民班が行政職員班に行くこともできません。

「すぐに動ける、でもすぐに支援はできない」という状況を作り出すことで公助を再現しています。

住民間だけでなく行政職員との助け合いも重要

早く終わったクラスや班(地域)が「災害ボランティア」として支援、課題も

実際の災害でも、被害の規模は異なります。地震であれば単純に震度が大きいほど被害は相対的に大きくなり、生活再建への道のりが長くなります。

一方で同じ地震でも震度や地盤、建物の状況などで相対的に被害の小さい地域もあります。トランプゲームではカードはランダムにバラバラにしているので「たまたま」運良く、カードが揃っていれば早く終わる可能性があります。

あるいはすでに「トランプゲームを経験済み」でどうやれば効率的にカードを揃えられるかという「教訓」があれば、よりスムーズに対応することができます。

これらの不確定要素や経験則の積み重ねも実際の災害対応につながるものです。

では、トランプゲームで早く終わったクラス(班)は何もやることがないのか、というとそうではありません。2024年版では「災害ボランティア」として他のクラス(班)を支援できる、というルールを加えました。

手伝ってくれるのはいいんだけど…話を聞いて!

今回もひとつのクラスがスムーズに終えることができたので「災害ボランティア」として他のクラスの支援に向かってもらいました。30人ほどが一斉に他のクラスに入るため、実質的に各クラスの人数が急に1.5倍ほどになります。

トランプゲームでの「災害ボランティア」は完全に別の地域からの参加なので、地元の被害(そのクラスのトランプの整理状況)は全く把握していません。その状況で「足りないカードはなに!?」、「ここにこのカードあったよ!」というやりとりが始まります。

しばらくすると、上記のような声が聞こえてきました。

大変な状況ではあっても、その地域にはその地域なりに取り組んできたことがあります。それらを全て無視して「ああすべき、こうすべき」と外部が入っていくと混乱してしまい、逆に負担が大きくなってしまいます。

カードが余ってしまった!?カードが揃わない!?

そうした混乱を端的に示す状況も起きていました。カードは「クラス単位」で6箱ずつ揃えます。つまりクラス単位でカードを整理しなければなりません。

ですが「外部の」災害ボランティアにはそうした状況が伝わっておらず(筆者のほうからきちんと伝えていなかったのも原因ですが)、早く整理してあげようと災害ボランティア役の児童が”クラスをまたいで”カードを整理してしまったところがありました。

クラスごとに「正しいカードの枚数」が決まっています。あるクラスのカードが他のクラスに行くことによって余るカードと足りないカードが発生します。つまり、絶対に揃えることができないという状況が生まれます。

その状況を打開するためには「必要なカードが他のクラスに行っている」という状況を両クラスが共に理解し、必要なカードを取り戻す、交換するという作業が必要になります。今回は2クラスだけなのですぐに発見できましたが、クラス数が多くなれば、発見すら難しい状況になるかもしれません。

いずれにしても大きなタイムロスと負担になります。

災害ボランティアは被災地にとって欠かせない反面、しっかりとコミュニケーションをとらなければトラブルの原因になってしまう可能性もある。そんな状況をトランプゲームでも再現しています。

そなエリアツアー体験後の事後指導

トランプゲーム実施後は前述したそなエリアのツアーを体験し、改めて事後指導を行いました。事後指導では防災クイズを実施しました。クイズについては 以下の記事 をご参照ください。

「自助・共助・公助体験トランプゲーム」ではバラバラになっていたカードですが、もしこのカードが「半分だけでも」正しい順番で箱に入っていたら?あるいは何度も繰り返し練習して「スムーズに整理できる方法」を知っていたら?それが事前の防災対策であり、防災教育や防災訓練の大切さということです。

事後指導のようす

そして、どんなものをどれくらい備えるかや、いつどこで何をするか、といった「手段」を知ることも大切ですが、児童の皆さんには、なぜ防災に取り組むのかという「目的」を考えて欲しいというお話をしました。

自分のこと、家族のこと、飼っているペットのこと、好きなゲームやマンガのこと、何でも構いません。災害から守りたいもの、失くしたくないもののことを考えて、そのために取り組んで欲しい。とお伝えしました。

これからの学びのステップに

以下の写真は学校からご提供いただいた、児童によるタブレット端末での情報共有のひとコマです。

タブレット端末での共有

トランプゲームやそなエリアでの体験をひとつのステップとして、今後の学びにつながることを願っています。

まとめ 「One for all , All for one」の体験を通して

「ひとりはみんなのために、みんなはひとり(ひとつの目的・目標)のために」

このトランプゲームでは「たった1枚のカード」が大きな意味を持ちます。ほかが完璧に揃っていても、1枚足りなければクリアできません。災害時に例えるならば「犠牲者が多い少ないの問題ではない」ということです。

限られた時間の中で「たった1枚のカード」も失うことなく整理するには、ひとりひとりがゲームのルールを理解し、協力し合うことが必要です。逆に言えば、ひとりひとりが率先し、助け合って行動できたなら、どんなにバラバラになっていたとしてもスムーズに整理できる、ということです。

だから防災も同じなのだと単純なことは言えませんが、本質的な「大切さ」を体験的に伝えることはできると思っています。

本事例をご覧になって関心をお持ちの方はぜひデータをダウンロードしてご利用ください。

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