都内商業施設のイベントスペースで車中避難を体験するイベントが行われました。阪神・淡路大震災当時に看護師で防災士でもあり、車中泊のエキスパートでもある幾島浩恵さんと共に、車中避難のポイント等を紹介するガイド役を担当させていただきました。
まだ暑い時期(9月)の屋外でのイベントでもあったので「車中避難HowTo」、「車中避難エクササイズ」、「車中避難ワークショップ」の3つのコンテンツに分け、それぞれ15分程度の短い時間で終わるような構成になっています。
本稿ではイベントで紹介したポイントについて簡単にまとめます。
オススメ資料:車中避難ヘルプBOOK.pdf |トヨタ
※各自治体で車中避難について資料を示していることもあります。まずはそちらもお調べください。
車中避難や車中泊の基本を確認「車中避難HowTo」
まず「車中避難HowTo」として、車を使った避難行動や、一時的な車中泊について大事な点を確認しました。なお、内容は筆者と幾島さんの経験を元に、具体的なポイントを整理しています。
- 2019年の台風19号では車での通勤や移動中、車内で犠牲になった方も多かった。
- 平成28年熊本地震では、家屋被害はもちろん、繰り返す揺れで室内にいるのが怖くて車中避難を選んだ方も多かった。
- 海や河川、崖など二次災害の危険がある場所を通ったり、停めたりしないことが大事。
- 洪水や土砂災害のハザードマップを事前に確認する、「重ねるハザードマップ」が全国どこでも使えて便利。
- 令和6年能登半島地震のように帰省や旅行、お出かけ中に被災することもあり得る。
- 道路が冠水している場合は無理に車で通ろうとしない。膝上くらい(40~50cm)以上になれば、水圧でドアが開かなくなる場合がある。タイヤまで水没すれば、車ごと浮いて流される危険も。
- 改めて地震でも水害でも、車中避難では「停める場所」がポイント。地震時に狭い道路や住宅街で停めれば、避難や緊急車両の妨げになる。津波や土砂災害、内水氾濫等への注意も必要。
- 大きな駐車場、公園など安全に停められる場所は限られる。屋根がある場所とは限らず、真冬や真夏は環境が厳しい。
- 車中ではエアコンを使えることがメリットだが、注意しなければいけないこともある。エンジンをかけ続けると、ガス欠やバッテリー上がりのほか、荷物や足でアクセルを踏み続けて火災になったり、一酸化炭素中毒になる恐れもある。
- エアコン以外の暑さ、寒さ対策がポイント!
- 夏場は凍らせたペットボトルやクーラーボックス、モバイルバッテリーで動かせる扇風機などを活用する。冷感スプレーは便利だが表面的なもので、体温が下がっているわけではないので注意が必要。
- アナログだが水に濡らしたタオルを振って、気化熱を活用するなども。
- 窓を開けておくと灯りで虫が寄ってきて大変。マグネットでレースカーテンを停めるなどすると、目隠しにもなり一石二鳥。
- 冬場は体温を下げすぎないように工夫する。カイロや毛布、モバイルバッテリーで保温できる電気毛布も便利だが、低温やけどに気をつける。毛布3枚分の保温力があると言われる アルミックシート/エマージェンシーシート|Amazon は便利だが、内側が結露で濡れることがあるので注意。
- 手足や耳、鼻などの先端部分をしっかりと保温する。保温力のある手袋や靴下、目出し帽などを用意しておく。
- 家族の安否などの情報(Information)、トイレや食事・寝る場所などの快適さ(Comfort)、プライバシーの確保(Pryvacy)の「ICP」を意識して備え、確保できるようにする。
- 車中避難者も被災者として支援が必要。「車中避難している」ことが分かるようなカードなどを掲示しておくと良いが、防犯面についても注意が必要。
- 長期の車中避難は体力的にも精神的にも難しい。避難所を活用するか、車で被災地外へと移動することも選択肢として考えておく。家族ときちんと話し合っておいて欲しい。
エコノミークラス症候群を予防する「車中避難エクササイズ」
続いて車中避難では絶対に知っておいて欲しい「エコノミークラス症候群」とその予防についてです。
- 事や水分をあまりとらないまま、車内など狭い場所で長時間、足を動かさずにいると起きる症状。
- 血液が固まりやすくなって、血栓という固まりが肺の血管を詰まらせると、呼吸困難や心停止などの症状につながり、命を落とすこともある。
- 新潟県中越地震や、平成28年熊本地震など、地震の被災地でもこれまでにも課題になっている。令和6年能登半島地震でも「何か足がしびれるな」と思って検診を受けたら、既に血栓ができていた事例があった。
- しびれやむくみなどの症状が出る前に、しっかりと水分をとること、なるべく体を動かすことが予防のポイント。
- 車内でも簡単にできるエクササイズをやってみる。※実際に参加者の方々と一緒に実施
携帯トイレ、車内で使える!?「車中避難ワークショップ」
最後のコンテンツは、携帯トイレを実際に車内で使える挑戦する「車中避難ワークショップ」です。
- エコノミークラス症候群予防には運動のほかに水分が重要だが、水分をとればトイレに行きたくなる。
- 車中避難場所にトイレがあるとは限らないし、避難所の仮設トイレ等は混雑したり、汚れていたり、暗かったりして使いにくい場合も多い。
- トイレに行きたくない、行けないからと水分をとらないようにすると、エコノミークラス症候群や熱中症のリスクが高まる。
- 渋滞等に備えて、車内に携帯トイレを用意されている方も多いが「使ったことがある」という人は少ない。※実際に会場にいる方に手を挙げてもらいましたが、ごく少数でした。
- 実際に使った経験から。ズボンを履いていると「おしりを出す」ことが必要になる。車外ではまず無理だし、車内でも窓ガラスに目隠しがないと躊躇してしまう。
- 狭い車中で和式トイレのように使うので、こぼさないようにするのが大変。<女性の場合>小は座席の前に袋を広げ、座席に浅く座って行うのが良いかも。大は匂いも気になるが…。
- ティッシュや手を拭くためのウェットティッシュなども必要。
- <女性の場合>一緒に生理用品も用意して欲しい。トイレ以上に我慢ができない。
- 実際に体験してみることが大事。※イベントでは携帯トイレと少量のお茶を配布し、車内で使うとした場合の目隠しや位置取りを体験してもらいました。
- <体験後>処理の方法も大事。その辺に捨てたりせず、実際の避難時は自治体の指定の場所に捨てる。空気が入っていると破裂して大変なことになるので、しっかり空気も抜くこと。
- 訓練で使用した場合、可燃ごみでも処理できる。詰まりの原因になってしまうので、排水溝には流さないこと!
まとめ ~「知って、備えて、やってみる」ことが大切~
筆者は18歳で免許をとり、親の車を借りてあちこち出かけていました。
渋滞が嫌いだったので、なるべく車が少ない時間帯(深夜~早朝)に走るようにしていましたが、当然途中で眠くなります。一度ならずヒヤッとしたことがあり、無理をしないように移動先で”ほどよい”場所を見つけては「(一時的な)車中泊」をすることも多かったです。
余談ですが、そうした場所はタクシーやトラックが一緒に停まっていることも多く、いろいろとコツを教えてもらうこともありました。そうした経験が、被災地支援における車中泊、そして本稿のようなイベント、防災教育等にも役立っています。
防災対策全般に言えることですが「やってみる」というのがとても大切です。車中避難についても、本稿やネットの記事で学び、防災グッズを備えておくだけでなく、ぜひ体験していただきたいです。できれば夏・冬などの季節を変えたり、ご家族や友人・知人と一緒にチャレンジするのも良いでしょう。
都市部だと、安全に(法律に違反せず)車を一晩停められる場所というのも限られます。オートキャンプ上などで体験してみるのがオススメです。
特に乳幼児、ペット、障がい当事者・ご家族など、避難所での生活が困難な方は、車中避難を選択肢としている方も多いです。そうした方々は、車中避難でプライバシーは確保しやすくなりますが、体温調節やトイレの確保などの負担も大きいです。
ぜひ一度(できれば数度)は体験し、ご家庭に合わせた車中避難の備えをしていただければと思います。