防災関係サイトでの紹介等で、EVAGについてご存知の方も増えています。検索で本記事をご覧になる方も多いようです。本記事は「EVAGを災害ボランティア向けに、短時間でかつ講師1名で使用」した事例と、その際に使用した説明シート等を紹介しています。
ボランティア向け研修での実施例
2015年11月14日(土)、埼玉県・上尾市内のボランティア団体『ReVA(リーヴァ) ; 復興ボランティアチーム・上尾』のメンバーの皆さんを対象に、豪雨災害時等の避難行動について考える教材『EVAG(イーバッグ :Evacuation-Activity-Game)豪雨災害編』を使った研修を行いました。これから利用を考える方々の参考になれば幸いです。 なお、研修の様子はReVAさんのブログでも紹介されていますので、併せてご覧ください。
◯ ReVA主催 災害ボランティアスキルアップ講座①|ReVA
EVAG紹介、及び類似の教材について
EVAGは国土防災技術株式会社が開発した「体験・参加型」のシミュレーションをとおして災害時に情報を受け取った個人が、避難行動を疑似体験することで、「自助」、「共助」の必要性と重要性を深く考える教材です。参加者は仮想のタウンマップの住人となった想定で、刻々と変化する状況(ステップ1~4)と、予め指定される『属性(ゲーム上の性別、年齢、生活環境、特徴などを示したもの)』に基づき判断します(写真)。
詳細な進め方などは国土防災技術株式会社ホームページからご覧いただけます。また、購入方法や指導用資料の一部も掲載されています。
EVAGは、地理情報などから災害の危険性や地域の防災力について考える『災害図上訓練(DIG;Disaster-Imagination-Game)と、初期の避難所運営、開設について考える『避難所運営ゲーム(HUG)』の間をつなぐような教材です。
HUGと同様に有料班版の教材となりますが、豪雨災害からの避難行動や地域住民の多様性をカード形式で分かりやすく理解できます。豪雨災害について言えば、DIG(地域・災害特性理解)→EVAG(避難行動・住民特性理解)→HUG(避難所運営)というのが、学習の流れとして分かりやすいと思います。
仮の地図を使う点、ステップが変化していく点などは気象庁が開発・公開しているワークショップ『経験したことのない大雨 その時どうする?」に似ています。こちらは全て無料で公開されておりますので「豪雨災害について考えたいけど、教材をたくさん購入する予算がない…」といった場合の参考にしてください。
こちらの記事で、学校等で使用する場合のアレンジを紹介しています。
実践例:市民(ボランティア)対象に、講師1名・90分で行う
EVAGの特徴、学習効果として以下の3つが挙げられています。
- 属性カードによるロールプレイングを通じて『気づく』こと
- 各種災害情報や環境に基づくシミュレーションを通じて『知る』こと
- 課題発見や解決策を模索するグループワークを通じて『考える』こと
今回の研修では、市民(復興支援ボランティア活動参加者)を対象に、およそ90分で、講師1名で運用するという環境で使用しました。上記で示すEVAGの特徴・学習効果を最大限に活かしながら、かつコンパクトに教材を活用することが求められる状況です。そこで、後述するような説明資料とワークシートを兼ねたテキストの作成などいくつかの点をアレンジして行いました。
タイムテーブル
教材紹介、ルール、属性カードの説明 20分
EVAG開始 ステップ1~4 各10分程度
振り返り・まとめ 30分
使用する資機材、教材
プロジェクター、スクリーン
パソコン(說明用スライドを映写)
EVAGセット 1式 ※シミュレーション・ワークシート等を含む
EVAGタウンマップ、各種アクティビティ・カード(下記写真)
※避難アクションカードはステップ1~4それぞれにある
進め方のコツ・工夫と注意事項
EVAGをこれから使う方、既に使っているけれどより効果的に実施してみたい場合のコツ、工夫、注意事項をまとめました。
指導側で「分かりやすい説明」ができるように
EVAGは1つのパッケージで完結する教材ですので、基本的にはマニュアル通りに進めることができれば、学習効果は期待できると考えています。ただし、避難アクションカードや避難支援カードなど複数のカードが同時並行で使用されるなど、初見の方には少し分かりにくい部分もあります。
これからEVAGの指導を担当される、やってみようという方は、各種カードの使い方、カードのひき方など基本的なルールをしっかりと理解しておくことが必要です。また、一度に全部説明すると参加者の方の理解が追いつかなくなるので、説明をいくつかの段階に分け、その都度確認するとよいです。
ゲーム型の防災教材が持つ課題について
EVAGに限らず他のゲーム型教材も共通する課題があります。それは「本来の趣旨(防災に関する知識や理解)を理解し学ぶためには、別の事柄(ルール)を理解しなければならない」ということです。つまり「ルールを理解しなければ、本来の趣旨が伝わらない」という課題につながります。
例えば、サッカーは恐らく世界中で最も愛されるスポーツのひとつだと思いますが、その理由のひとつは「(最低限のプレーをするうえで)ルールがシンプルである」ことではないでしょうか。「サッカーというスポーツを楽しむ」ために必要な条件が少ないということです。
ルールが複雑であればあるほどチャレンジのハードルは上がりますし、プレーしているうちに無意識・無自覚なルール違反や勘違いも起こります。ルール違反を認めればスポーツは成立しませんが、防災ゲームでその都度細かく注意されたらやる気がなくなります。とはいえルール違反や勘違いを許容すれば、正しく理解・プレーしている人から不満が出ますので、バランスをとって進めていく必要があります。
防災教材も同じで、参加者がひとしく学習成果を得るためには「みんなが共通理解を持つ=目的・ルールを正しく理解する」ことが必要になります。教材を活用する側としては、気持ちよく参加者の方が学びを深められるようにしたいですね。
会場・レイアウト関係
ワークシートや避難所での情報を示す資料など、何かと資料が多くなったり、記入用のスペースが狭くなったりしてしまうことがあります。学校等でよく見かける長机2~3(概ね1,200mm~1,500mm)以上くらいを1つの島として、1島5~6人で作業するのが良いでしょう。
「避難所」用の島を設ける場合は、後方に2つくらいの島を設けておきます。人数やタイミングによっては「避難所」用の島が窮屈になりますが、個人的にはそれも実践的で良いかと思います。
教材としての難易度について
(あくまで個人的な経験則ですが)教材としての難易度はかなり高いと思います。土砂災害や気象情報の理解など、指導する側に相応の知識がないと、マップに書かれている情報を活用することも困難です。使用の際はマニュアルを読み込み、事前にシミュレーションするなど入念に準備をし、時間も余裕をもって行うことをオススメします(マニュアル通りなら2時間~3時間)。
まとめ
どんな防災教材もそうですが、学習成果や効果を欲張ると結果的に得られるものは少なくなります。5人でも50人でも、みんなが「(ルール等を)分かっている」ことが防災教材のスタートラインです。改めてご紹介できればとは思いますが、学校等では属性カードとタウンマップだけを活用した簡易版なども実践しています。
ぜひ、各地域・学校等で多様な人々の暮らしを意識した避難行動を考えるきっかけとして、EVAGをご活用ください。