学生による防災学習を支えるメンターの役割~法政大学避難所体験を例に~

実施の経緯とメンターとしての関わり

本日は法政大学ボランティアセンター学生スタッフ・チームオレンジが企画する『避難所体験』にご協力させていただきました。同様の『避難所体験』は2013年にも実施していますが、当時の記録がボランティアセンターに残っていて、同じ団体の学生が先輩が実施した内容をヒントに企画・運営したイベントです。

学生(団体)による自主的な企画・運営をサポートするため、ただ講師として指導にあたるのではなく、企画全体をサポートするメンター(被育成者の自発的・自律的行動と発達を促す助言者・指導者)として関わらせていただきました。

【市ケ谷】備えあれば憂いなし、今のうちに防災知識を養おう!~避難所体験参加者募集!(7/3)
【市ヶ谷】避難所体験を実施しました(2013年,法政大学HP)

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(右隣の「災害救援ボランティア講座」も毎年担当しています)

本記事では、僕自身の学生団体での活動を踏まえて、学生による防災学習を支えるメンターの役割についてご紹介します。

学生(団体)の防災学習4分類

東日本大震災以降、学生(団体、本記事では主に大学生を指します)による防災学習の機会は増えています。学習機会は、学内・学外と自主企画・参加の2軸で4つに分類できます。

学内・自主企画型

今回ご紹介するような「大学内で、その大学の学生(団体)が自ら企画し実施する」パターンの防災学習です。僕自身は一番理想的な形だと思っていますが、事前学習や準備など学生自身の負担も大きく、やり切るには高いモチベーションが必要です。良い結果に結びつけるためには、メンター(先輩、OBOG、学生課やボランティアセンター職員、外部人材等)の関わり方が重要になると言えます。講師は学生が探しますが、講師料等は大学側で負担することも多いです(講師選択時の注意事項はこちら)。
なお、僕は学生(団体)から直接依頼があり、きちんとコミュニケーションがとれるのであれば講師でもメンターでも無償(交通費程度はご負担いただきますが)で協力しています。もし本記事をご覧になっている学生さんがいたら遠慮なくお声がけください。

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(学内・自主企画型は、学生団体内部での結束につながることも多い)

学内・参加型

「ボランティアセンター、大学が企画し、学内学生を中心に参加する」パターンの防災学習です。大学やボランティアセンターに地力があると、積極的に展開していけるパターンです。運営に学生が関わる場合もありますが、予算・企画・運営の責任は職員にあり、学生は基本的に受け身になります。主催者やメンターは、どこまで学生に担ってもらうかの線引をしながら関わることになります。講師は主に学内人材または外部人材です。学内人材による方法としては、明治大学さんが行っている防災講座などが分かりやすいでしょう。
明治大学ボランティアセンター『防災講座&防災ワークショップ』

学外・自主企画型

「インカレ(インターカレッジ:大学の枠を超えた)団体が実施する」または「地域住民や他大学の参加を前提として実施する」パターンです。学生による自主企画ではありますが、特定の大学や地域が対象ではなく、いろいろな大学から企画・運営スタッフが集まって実施されることもあります。学内型に比較して規模が大きくなりやすく、メディア受けも良いので、見聞きしたことがある方も多いと思います。
僕が学生の頃(15年前)からこうしたイベントはありましたが、理想論や抽象的な表現が多く「フワッ」として地に足が付いてないな…結局誰がそれやるの?と感じて苦手だった記憶もあります。学内とはまた違った形で、メンターや指導者の関わり方が重要になるパターンです。

学外・参加型

「学外で外部団体が実施するセミナー等に参加する」パターンです。参加することは自主的でこそあれ、運営に携わることはなく、全面的に受け身となります。お金や時間のことを考えなければ一番豊富な防災学習の機会と言えるでしょう。大学として参加費用を補助している場合もありますが、メンターがセミナー等の中身を精査しておく必要があるのは、学内・参加型と同様です。

防災学習メンターが心がけるポイント

学生による防災学習を支えるメンターが心がけるポイントとして、僕が常に意識しているのは以下の点です。

目標・手段・評価を明確にするサポート

学生が防災そのものや、学習環境について知識や経験が不足するのはやむを得ないことです。ただし絶対に押さえておくべきポイントがあります。それが「目標・手段・評価」を明確にするサポートです。例えば「防災について学びたい→何を→避難所について→避難所運営ゲーム」という経緯があったとします。
これで「避難所運営ゲーム」を実施して「防災について」学べるのでしょうか。避難所運営ゲームで学べるのは「避難所」のことであって「防災」ではありません。ゲームはあくまで手段であって目的にはなり得ません。
まず「目標」として「防災」なのか「避難所」なのかをはっきりさせます。「避難所」なら避難所のいったい何について知りたいのか、例えば事前のルールづくりなのか、受付方法なのか、家庭での備えなのか…を明確にします。次に「手段」として教材やプログラムを決め、さらにその使い方や実施方法については目標に沿って進められるようアレンジを加えることも重要です。最後に「何をもって目標を達成したと判断するか」という評価軸を考えます。簡単なところでいえば「今回の防災学習で避難所のルールを事前に作ることの大切さが分かりましたか」で、過半数以上が「はい」なら達成したと判断する、などです。
「目標・手段・評価」を整理するには、メンター自身が学習テーマや教材についてしっかりと勉強しておくことが必要です。中途半端な知識でのアドバイスは、逆に学生を混乱させることになります。学生の自主企画に関わるのであればテーマやプログラム、事例について責任をもって調査・研究しておくのがメンターの役割です。
これらは防災学習の機会を支える「骨(ホネ・コツ)」です。肉付けの仕方がどうあれ、3つが明確になっていれば企画内容、学びが大幅にブレることはないでしょう。

安心して挑戦できる環境と雰囲気づくり

「目標・手段・評価」をはっきりさせておくと同時に、「失敗を必要以上に気にしなくてもいい」という雰囲気や環境を作ります。プレッシャーを感じながら準備することは大きな糧となりますが、あまりにも重く受け止めすぎている場合や、イベント自体の規模が大きい場合は、メンターも積極的に関わりフォローします。
特にプレッシャーになりそうな部分で、メンターや協力者によるフォロー体制を整えておく、そのことを学生と共有しておきます(あくまで最終手段として)。
注意点としては、フォロー体制や予防策については必ず関わる学生たちと共有し、フォローを実行するタイミングなどを細かく伝えることです。「結局信頼されていなかった」と思われないようにするため、「(自主企画運営する場合)判断の責任はあくまで学生自身にある」ことを意識させるためです。
その上で、予め大学関係者や関連団体との調整にも協力し、お互いに失敗を咎めたり、責めたりしないような環境や雰囲気をつくることもメンターの大切な役割です。

アドバイスは的確に、叱る時はすぐ、褒めるのは全員を

企画・運営上に何か課題があれば、的確なアドバイスを心がけます。感情的、抽象的なアドバイス、例えば「なんかさぁ、このあたりがはっきりしないんだよね」といった抽象的なアドバイスは避けます。また「●●を■■にすればはっきりするんだから、そうしたほうがいい」といった指示的な発言も避けます。前者は結局何が言いたいのか分かりません(多分本人も分かってません)し、後者は学生自身が考えることを阻害します。「●●の▲▲という説明は、他の学生には分かりにくいかもしれない。もう少し考えてみよう。活動に関係ないお友達やご家族に聞いてみたらアイデアが出てくるかもしれないね。」など、指摘箇所を明示し、本人が考えるヒントを与える程度に留めます。
明らかに無責任な言動などがあった場合、他者に迷惑や不快感を与えた場合などは、その事実を認知した時点からなるべく早い段階で直接対面して叱ります。全員の前ではなく個人的に伝えます。この時も前述のように「●●の▲▲という言動が、■■にこんな迷惑や心配をかけたから、しっかり反省して欲しい」など、具体的に伝えます。「すぐに」というのは「なんであの時言わなかったのか」という不満や事態の”こじれ”を、学生自身と迷惑や不快感を与えた相手の双方に残さないためです。
イベントが成功したり、良いアイデアがでたときは、叱るときとは逆に全員をほめましょう(もちろん、立役者はしっかりと評価しつつ)。例え中心人物がいたとしても、団体であればみんなの企画なのです。メンターが大学職員等であれば、関係部署(広報等)に伝えるなど、できる限りの応援をする姿勢も見せましょう。

知恵や工夫を残すための協力

失敗、成功を問わず、学生による取り組みを企画・準備・運営に至るまでできるだけ細かく記録しておくことにも協力します。具体的には、写真撮影や報告書の作り方へのコメントなどがあります。学生は4年間という短いスパンで入れ替わりますので、どうしても知恵や工夫を伝えにくいという課題があります。特に防災や災害支援のノウハウは当事者以外には伝わりにくいので、できるかぎり書面で残しておくと良いでしょう。

講師選びは慎重、かつ丁寧にケアを

講師を外部人材が行う場合にメンターが気をつけなければならないのは「学生を取り込みたい(自団体や個人の活動に巻き込みたい)」という意識が強すぎる団体、個人もあることです。高額な参加費・講演料、強制的な登録・認定制度などを、具体的な説明もなく実施しようとしている場合は要注意です。特に災害救援ボランティアには様々な議論、考え方があります。学生(団体)による活動は「安価な労働力」ではありません。講師や団体の考え方、話す内容についてはできる限り細かく確認し、精査しましょう。少しでも気がかりなことがあれば、よく学生と相談しながら講師を選んでください。
ただ、講師選びに際して守って欲しい”ルール”があります。それは「講師には、依頼するかしないかの結果はできるだけ早く、確実に伝えること」です。残念ながら、学生(団体)によってはこの点が徹底されず、依頼のメールに返信したものの連絡がとれず、結局別の方が講師をしていたというケースがあります。僕はいわゆる「プロ講師」ではなく個人的な活動ですし、講師を複数選択することが必要だと理解はしていますが「依頼をしておいてその後何も連絡しない」のは、社会的にはあり得ないことです。
この事例では予算もあり大学側の支援がありました。メンターや指導的役割にある方が学生に対し、外部人材との関わり方についてきちんとアドバイスをしなかった結果「ここの大学・学生は、最低限のルールやマナーも守れないのか」という社会的評価につながりかねません。

法政大学避難所体験での事例

前述したポイントを踏まえて、学生団体が企画運営したイベント例をご紹介します。法政大学避難所体験(2016)は、ただ「避難所について体験する」というのではなく「地震発生→移動・傷病者の救助→避難所到着・受付→避難所での食事→避難生活」という一連の流れについて、体験的なプログラムで考えてもらえるよう構成されています。

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(学生による説明スライド)

■アイスブレイク■(担当:学生)
参加者はチーム・オレンジという学生団体のメンバーがほとんどでしたが、「マイブーム(最近ハマっていること)」を伝え合ったりしてアイスブレイクが行われました。何となくやっているように見えますが、「マイブーム」は個人の価値観や考え方を知るよいきっかけになります。

■搬送法体験■(担当:筆者)
発災から避難所に避難するまでに間に、傷病者の搬送を手伝うという想定で行いました(写真は2013年実施時)。

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■避難所受付■(担当:筆者)
避難所に到着したら、受付作業を手伝うという想定で予め用意した「避難者カード」の集計作業を行う「避難所受付ゲーム」を行いました。避難者カードには、名前、年齢、性別、居住地などが記載されており、それを指定された項目ごとに整理して、どの班が一番早くかつ正確に報告できるかを競います。集計方法は各班で自由にディスカッションして決めます。ひとりひとりが協力して行わないと数が合わなかったり、時間がかかったりといった課題が出てきます。ゲームを通じて、避難生活等で自分でできることは自分でしながら、お互いに助け合うことの必要性を知ってもらうことができます。

■非常食試食■(担当:学生)
非常食試食は「限られた食事や水を分け合う」ことをテーマに行われました。参加者自身が、班のリーダーを中心に配分や配給方法を話し合って決めます(写真は2013年の様子)。

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■防災クイズ、クロスロード■(担当:学生)
防災クイズでは、参加者ひとりひとりに問題用紙を配布し、避難行動や避難所に関わるクイズについて考え、後ほど答え合わせをするという流れで行われました。採点結果は班ごとで集計され、最も高得点の班には大学グッズ(タオル)が配布されるという工夫もされました(ちょっとしたことですが「ご褒美」があるとモチベーションにもつながります)。

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■避難所運営ゲーム■(担当:筆者)
避難所の運営に協力する、ということを想定して避難所運営ゲームを行いました。時間は限られていましたが、防災クイズやクロスロードで基本的な知識や考え方を学び、チームワークもスムーズになっていますので、テキパキと対応することができていました。

「防災学習」ならではの特徴をよく考えて支援を

最後に「防災」に関わる活動は、一般的なボランティア活動(災害救援活動を含む)とは少し異なる点があることについて、学生団体の活動経験者としてお伝えしたいと思います。

それは「いのち」に直接関わるテーマである

防災学習は「いのち」に直接関わる可能性があるテーマです。誤った知識、理解、考え方を学んでしまうと生命の危険やトラブルの原因となってしまうこともあります。「楽しく活動すること」は大事ですが「楽しい・分かりやすい」ことと、「正しい・間違いではない」は必ずしもイコールではない、と防災学習のメンターは理解しておくべきです。「楽しいけど、正しくない」「分かりやすいけど、間違ってる」ことは起こり得ます。そして誤った知識や理解を与えることは、そのまま学生の「いのち」のリスクを高めることにつながります。本当に必要な知識や経験の習得は一過性のイベントの「成果」としではなく、地道な活動を継続する「過程」で身につくものです。

「知っている」だけでは苦しむこともある

僕は防災学習の機会を『無条件で良いこと』だとは思っていません。なぜ「目標・手段・評価」を明示したり、細かな関わり方を本記事で整理しているかというと、防災学習に関わる方には、真剣に考えてもらいたいと思っているからです。防災について何も知らなければそれだけリスクは高くなります。ただし「知っている」からそれで良いのかというと、そうではありません。法政大学避難所体験でも伝えたことを整理してご紹介します。

防災について学ぶことは大切です。でも、気をつけて欲しいことがあります。皆さんは復興支援や防災活動で他の学生より「知っている」。災害が起きた時に自分やご家族、友人を守れる可能性は高いでしょう。でも「完璧な」防災はありません。皆さんやご家族に何か起きてしまうかもしれない。その時ある気持ちが皆さんを苦しめます。それは『知っていたのに、分かっていたのに、守れなかった』という気持ちです。世界中の誰も皆さんを責めたりしませんが、自分で自分を責め続けるかもしれない。防災は、最終的には結果論です。大切にして欲しいのは「今、どれだけ知っているか」ではなく「その時、本当に守りたい人を守れるかどうか」だということです。災害は常に身近にあり、いつ起こるか分かりません。『本当に自分と大切な人を守りたい』のであれば、自分にその時できる限りの努力と備えを、惜しんではいけません。

最後に、繰り返しになりますが、学生による防災学習をサポートする方、メンター的役割を担う方は学生以上に努力と経験を積み重ね、正しい知識と理解を持って関わることを心がけていただければ幸いです。

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