2023年4月、公立・私立保育園等の職員を対象とした職場内研修が都内自治体主催で開催され、講師を担当させていただきました。前年度から引き続きとなりますが、昨年度に比べて人数も増えたことから少し内容をアレンジして実施しました。本稿では研修の内容やポイント、感想などをご紹介します。
保育園に係わる直近の課題をテーマに追加
筆者は保育園や幼稚園防災を専門としているわけではないのですが、いろいろとご縁があって定期的に保育士研修・初任者研修などを担当させていただいています。少し古いですが、下記の記事などを検索等でご覧いただく方も多いようです。
本研修ではこれまでの研修内容を踏襲しつつ、事前にご要望としていただいた以下の点を内容に加えました。
- (近隣)火災発生時の情報収集や避難行動について
- Jアラート確認時の対応について
前者は、昨年実施から今回までの間に園周辺地域で比較的大きな火災が発生し、実際に近隣の園に避難するというケースがあったためです。基本原則は自治体や消防の指示、情報に基づくものですが、保育園として、保育士として基本的な考え方をお伝えしました。後者は、相次いでいるミサイルの発射情報等も踏まえ、改めて確認しておく必要があるがあまり知る機会がない、ということでしたので初動対応についてお伝えしました。詳しくは後述します。
研修内容
研修は区内の施設を利用し、約60名を対象に実施されました。参加されたのは公立・私立の保育園等の職員の方々です。所要時間は2時間ほどで、前半に講義と簡単なワークショップ、乳幼児から楽しめる防災ゲームの体験などを行いました。プログラムは次のとおりです。
- 災害事例と教訓
- 子どもを守る心がまえ
- 災害状況を想像してみよう【演習】
- Jアラート・火災への対応について
- 保育園・保育士の防災対策4ステップ
- 園児・保護者と楽しむ防災教育【体験】
- まとめ
「災害事例と教訓」については従来、東日本大震災当時の保育園・保育士の対応、証言について映像も交えながらご紹介するのですが、今回は「Jアラート・火災への対応」に時間を割くため割愛させていただきました。関心のある方は 3.11 その時保育園は(株式会社サン・エデュケーショナル) が参考になりますのでご確認ください。
本稿ではそれぞれの内容について関連記事なども交えつつ、要点をまとめてご紹介します。
子ども守る心がまえ
保育園はもちろんですが、小中学校や企業なども含めて「災害時の対策・対応」というのはある程度、マニュアル化されています。具体的なマニュアルがなくても防火・防災計画や計画に基づく避難訓練等は法律の定めるところにより、実施されています。そのうえで、あえて筆者も含めた外部講師による研修が必要とされるその背景はまさに本項の部分、つまり「心がまえ」ではないかと思います。
これまでの災害の教訓から、法律上・制度上の計画や訓練があることと「子どもの命を守れる」ことを、同義で考えてはいけない、というのが最初のポイントです。他記事でも触れていますが、具体的な体験として簡単な手遊びを通じて「知っていること」と「できること」には隔たりがあることを感じていただきました。
その”隔たり”をスタートラインとして「できるようになる(子どもの命を守れる)」には、園として、保育士としてどうしたらよいかを考えることが重要になります。
自然現象には容赦も配慮もありません。大人にも小さな子どもにも等しく危険が伴います。ですが小さな子どもが自らの判断や行動力だけで危険を避けることは困難です。自然が配慮しないのだから、大人が・社会が配慮しなければなりません。具体的には「最悪の場合何が起きるか」を日頃から想像し、対策を講じることが必要です。「プロアクティブの原則」などもご紹介しましたが、詳しくは 下記の記事 をご覧ください。
災害状況を想像してみよう
心がまえについてお話したうえで「(最悪の事態を)想像する」ための練習としてワークショップを行いました。こちらのワークショップについては下記の記事で解説、ダウンロードもできますので併せてご覧ください。
参加者の皆さんにワークシートを記入してもらったあと、お近くの方で少し話し合っていただきました。同じ園の方々であればより具体的なお話につながりますし、異なる園でしたらそれぞれの対策や対応について共有しながら話し合いが進みます。お一人でも、ご家族等とでもできますので、初見の方はぜひチャレンジしてみてください。
Jアラート・火災への対応について
続いて 全国瞬時警報システム(Jアラート)|総務省消防庁 についての説明と、火災対応についてのお話です。Jアラートについては上記のリンクをご覧ください。Jアラートや津波警報等の音声も確認できます。また 弾道ミサイル落下時の行動について|国民保護ポータルサイト では具体的な行動に関する資料や映像が確認できます。
資料や映像は一般的な市民向けの内容ですが、これを保育園や幼稚園の状況に置き換えて、場面別の行動について簡単にまとめました。主に子どもたちがいる4つの場面で、それぞれどのような対応が必要となるかを整理しました。
ここで分かるのは「園として対策・対応をする」だけではなく、保護者や地域との連携も欠かせないという点です。
東日本大震災でも帰宅した子どもたちが保護者の方と共に命を落とし「あのとき帰さなければ、助かったのではないか」と苦悩されている保育士の方のお話もしました。園や保育士としての管理責任と、個人としての感情は別です。本当の意味で「小さな命を守る」のであれば、保護者や地域と共に自然災害や緊急事態に備えていただきたいと思います。たった一度でも、上記の各種資料を配ったり、ワークシートなどで一緒に考えてもらうだけでも「最悪の事態」を避けることにつながるかもしれません。
国民保護ポータルサイト避難施設マップ(下記) では地図上で弾道ミサイル落下時の緊急一時避難施設を確認できます。園やお散歩ルートの近くにある施設(主に小中学校かと思います)を改めて確認しておくと良いですね。
火災への対応については 東京消防庁の災害情報テレホンサービス などをご紹介しました。TwitterなどSNSの情報も早いですが、信頼度を見極めたり、行動の基準になる確かな情報を得るのは難しいかもしれません。最寄り消防署の番号と併せて知っておくと、いざというときの参考になります。いつ、どこで、何がおきて、どのように延焼ないし消火活動が進んでいるかが分かれば、適切な対応を決めることができます。
保育園・保育士の防災対策4ステップ
先に紹介した関連記事では「3つの段階」としていますが、本研修では「4つのステップ」に整理し直して解説しました。それぞれについて詳しくご紹介したいところですが、本文が3倍くらいになってしまうのでトピックだけでご了承ください。
園児・保護者と楽しむ防災教育(体験)
最後に、園児や保護者と一緒に楽しめる防災カードゲーム等を紹介、体験していただきました。一番シンプルなのは ぼうさいダック|日本損害保険協会 です。小さな子どもたちでも楽しめますし、保護者会等と併せて一緒に楽しむのも良いですね。筆者も子どもが保育園通園時に、見学の時間を使って子どもと一緒に行った経験があります。
他にも安全行動イメージトレーニングや防災クイズなどを紹介しました。また、最近のイチオシは ポケモンぼうさいきょうしつ|ポケモン・ウィズ・ユー財団 です。自治体単位での申請等が必要なのですぐに使える!という教材ではありませんが、条件が整っているようでしたらどんな園でも使える内容です。
主な感想など
事後に感想やご意見をご提供いただきましたので、一部をご紹介します。
改めて災害時のマニュアル作り、さらにそれを職員全体で共有することの大切さを感じました。毎年のように春に皆で確認しているはずのマニュアルも実際動いてみるとわからないことが出てきたりもするのでより具体的に考えて行きたいと思いました。
近いうちに有りそうな災害をしっかり考える機会があり良かったです。園内で再度考えなければならないJアラートの事など、きちんと対応していかなければと思いました。
普段園で行っている避難訓練や防災対策、その都度の振り返りが重要だったと改めて感じました。また、自分の立ち位置が変わることで考えなければいけない事が変わったりすることを踏まえて、災害時の全体の流れを把握する必要性を感じました。
まとめ ~保育士もひとりの人間だからこそ~
最後に保育士研修ではいつもお伝えしていることですが「小さな子どもの命を守る」ためには、昼間は一番身近にいる保育士の皆さん、職員の皆さんがしっかりと身を守れること、そしてご家族の安全なども確保、確認ができることが何より大切です。
保育士もひとりの人間です。仕事とは別に大切にしたいものがあり、大切にしたい人もいるはずです。
「自分(や家族、大切な何か)を守れなければ、小さな命も守れない」
とてもシンプルですが、重要なことです。だからこその計画があり、訓練があり、研修があります。ここまで含めて、ひとつの「心がまえ」と言えます。
本稿が保育園・幼稚園等の防災に関心のある皆さまの一助となりましたら幸いです。