menu

避難所運営ゲーム(HUG)とニコロ・マキャベリの『君主論』

イタリアはルネサンス期の政治思想家、ニコロ・マキャベリは、混沌とした時代を生き抜く君主や政治家、つまり「リーダー」のための書として『君主論』を執筆しました。「目的のためなら手段は正当化される」マキャベリズムという言葉を生むに至る内容は賛否あり、マキャベリ本人の評価も様々ですが、個人的にはリーダーシップ論のテキストの1冊と考えています。

 

今回はそんなお話を導入に、静岡県が開発した教材『避難所運営ゲーム(HUG)』と避難所運営の考え方についてご紹介します。

 

避難所運営も様々ですが、本稿における避難所運営は「大規模災害等により、広範囲に渡り家屋被害、ライフライン被害が生じた結果、多数の人に1週間以上の避難生活が想定される」場合の避難所運営、という前置きをします。

HUGは文字通り運営側の状況を考えてもらうための教材です。

20141108-112721-9

詳しくは こちら (静岡県地震防災センターホームページ/避難所HUG)。運営側、つまり参加者には、避難されてきた方に見立てたカードをスムーズに避難所想定となる校内外へ誘導、配置し、トラブルや課題解決をするというミッションが与えられます。コントローラー(指導者)は、ルールを理解させる、様式や図面の使い方を説明する、カードに記載されている情報を説明する、といった事前指導を行います。

20141110-183417-4

僕が大事な要素だと考えているのは「カードを読み上げ、配置を考えるペース」です。静岡県が作成した指導案には「読み上げる人は、考える時間を与えないように次々読むこと」となっています。実戦的な受け入れを印象付けるには、重要な要素だと思います。

その反面、避難所運営が、人による人のためのものであることを理解していないコントローラーがこの指導を行うと、大きな誤解を生むような気がしています。

 

カードを読むペースを上げると、参加者の目的は「読まれたカードに対応すること」になります。そして「カードを速やかに配置するためには、配置を考えるのは後回しでいい」「とりあえずみんな体育館に入れろ」となります。

本来、考えなければならない過程が省略され「目的のためには、手段が正当化される」、つまり「考えるのは後回しでいい。なぜなら、カードを配置しなければならないから」となります。

 

課題解決に追われるあまり、知らぬ間に参加者がマキャベリズムに飲み込まれていくのです。結果として全カードを配置できたら、満足感に浸ってしまい、それが「目的達成のため」という強引なマキャベリズムの結果であることなど、自覚することすらないでしょう。余程の経験者グループでない限り、制限時間内に250枚ものカードを全て読み上げ、配置できるなどということはあり得ませんし、それは本質ではありません。

 

それができるのは、目的のために手段を正当化し、"人による人のための"避難所ではなく、"避難所というシステムに人を組み込むための"避難所にした場合のみ、です。

 

優れたリーダーであるためには、時にシステマチックな、合理的な対応も必要でしょう。ですが、それは「人間性を捨てろ」ということと、同義ではないのです。人が、人のために、お互いに助け合う場が避難所であるということを念頭に置き、一人一人の背景に想いを馳せながらも、感情や他人の意見にに振り回されることなく冷静に判断し、対応することは、不可能ではありません。そのための練習が、HUGの本質だと考えています。

 

だからこそ、僕は後半にキツい追い込みを参加者にかけることがあります。あえて「目的のためには手段を選ばせない」あるいはそれが正しいやり方である、と思わせるように仕向けていきます。頭や口ではマキャベリズム=目的優先を否定し、丁寧な運営を心掛けていても、誰かに(何かに)追い込まれると「避難所=国の利益になるのであれば、避難者=国民に対する非道徳的・・・とまではいかなくても人間的な対応を欠いてもやむなし」という考え方に陥ってしまうことがある、と気付いてもらうためです。

 

避難所運営は戦いを念頭においた国政とは異なります。マキャベリの時代では君主論で論じるようなリーダーシップもあるかもしれません。ですが、こと避難所運営においてはどんなに苦しい状況であっても、避難所というシステムのために、人間性を犠牲にすることが正しい判断とは言えません。

一度練習で自覚すること、そして予めルール作り等の対策を講じることで、実際の場面でほんの少しでも"ゆとり"が生まれてくれれば、と願っています。

 

その”ゆとり”が、災害を共に乗り越えていく人への思い遣り、優しさ、気遣いへとつながります。それは、災害そのものに対して適切に対応することと同じように、重要なことです。避難所運営ゲームを実施する方、参加する方は、カードの配置に追われることなく、常にカードを人間として捉え、合理的かつ相手の状況を考慮した対応を考えていただければと思います。

 

【関連記事】避難所運営ゲーム(HUG)研修・授業実施のポイント

僕が大学の災害ボランティア講義で「2分以内に班づくり」をさせるワケ

専修大学生田キャンパスでフォローアップ研修

関連記事

  1. “気象”テーマの防災教育…

    2017年10月13日(金)、所属団体の一般社団法人防災教育普及協会 が防…

  2. いろんな防災ゲームで防災をもっと身近に【防災がっ…

      2018年12月23日(日)、東京臨海広域防災公園で、NPO法…

  3. 防災ゲームとかけて、家族に作る手料理と解く。その…

    所属団体で『防災ゲームDay』というイベントを2016年、2017年と開催…

  4. 震災支援チャリティイベントで親子向け防災ワークシ…

    2016年5月7日、8日、お台場で熊本・大分地震チャリティイベントが開催さ…

  5. グループワークのようす

    T市災害ボランティアセンター運営スタッフ講習

    先日、都内T市で「災害ボランティアセンター」の運営スタッフ講習をお手伝い…

  6. 防災でカッコいいパパになろう!第1回「ピクニック…

    はじめに『防災でカッコいいパパになろう!』シリーズでは、自然災害などから…

  7. 気象キャスター向けに講習会、防災教育とアクティブ…

    本日、気象キャスターの皆様を対象とした防災講習会『防災教育とアクティブ・ラー…

  8. 「総合的な学習の時間」単元づくりで防災教材・事例…

    千葉県八千代市内の小学校で、教育センター主催による「総合的な学習の時間」単元…

こちらの記事もいかがですか?

PAGE TOP