中学1年生に「いのちの体験教室」、講義と体験を通じて命を思いやる態度を学ぶ

2020年11月、神奈川県内の私立中高一貫校の中等部1年生を対象に「いのちの体験教室」が行われ、企画から当日の指導まで担当させていただきました。本稿ではプログラムの概要や趣旨、当日の様子を中心にご紹介します。

目次

プログラム~先生の想いを形にするために~

実施にあたり、何度か学校へお伺いして打ち合わせの時間を持たせていただきました。最初の打ち合わせで担当の先生から「生徒が自分や他者の命を思いやるきっかけとなるような授業にしたい」、「生徒が自主的に行動し、リーダーシップを発揮できる生徒が出てくるようにしたい」というご要望をいただき、内容を検討することになりました。

今回の授業は中等部1年生、4クラス約130名が対象となります。筆者は原則としてどのような人数のご依頼でも一人で対応しますので、1人でマネジメントできるようにプログラムを考えました。

「いのちの体験教室」実施プログラム2020年11月版

【目的】

災害事例や教訓、被災された方の言葉、体験学習、及び災害時要配慮者への対応等について主体的に考える経験を通じて、災害・防災についての知識を身につけると共に、自らと他者の命を思いやる態度、災害時のリーダーシップや判断力の育成につなげる。

【内容】

  1. 防災講話「大切な何かを守るためにできること
    • 阪神・淡路大震災以降の被災地での教訓、被災された方の言葉
    • 自分の生活を振り返り、大切にしている何かを思い出す
    • 生命を守る方法と、生活を守る方法について知る → 後の体験へ
       
  2. 防災体験学習「避難所における初動対応訓練」
    • トイレ、食事、就寝・休憩スペースの確保を、班ごとに
       
  3. 防災ワークショップ「災害時のトイレアクションを考えよう」
  4. プレゼンテーション作成「災害時に誰もが安心して食事をとるために私たちにできること」
    • 災害時の食事について各班でプレゼンテーション資料(Googleスライド)を作成する※発表は後日
        

【タイムテーブル】

09:30 開会挨拶
09:33 プログラム1 防災講話
10:15 休憩
10:30 プログラム2 防災体験学習
11:30 昼食
12:30 プログラム3 防災ワークショップ
13:15 プログラム4 プレゼンテーション作成
14:45 閉会挨拶
14:50 終了

プログラムの特徴

本プログラムの特徴的な点としては3つ挙げられます。まず「自分と他者の命を思いやるきっかけづくり」。そして「生徒の自主性とリーダーシップを重んじた指導」。最後は私立学校ならではと思いますが「ICTの有効活用」です。それぞれの特徴について詳しく紹介します。

自分と他者の命を思いやるきっかけづくり

「いのちの体験教室」というテーマに沿って、冒頭の講義では筆者が実際に被災地で体験してきた「命」に関わるお話をさせていただきました。意識したのは命のあり方、関わり方の多様性です。

「命が大切で、かけがえのないものである」という事実と、誰もがそうした意見を持つかどうかは別です。自分の命や生活を”かけがえのないもの”とは考えられないくらい、辛く苦しい状況になってしまう方もいます。

それでも、生きていくうえでは何かが支えになっています。他に代えることができない、これを失ったら本当に心が折れてしまうかも、という「大切な何か(ヒト、モノ、コト…趣味など何でも)」が自分にも、そして他者にもあると気付くことが、自分と他者との関わり方、そして命の多様性を思いやるきっかけになります。

当日は簡単なワークを取り入れて行いました。下記の記事でもワーク内容を紹介していますので、ご参照ください。

生徒の自主性とリーダーシップを重んじた指導

事前のお打ち合わせの時点で、担当する先生ご自身が対象となる生徒の自主性やリーダーシップに大きな信頼を寄せていること、そのうえでさらに成長できるような場を求めていらっしゃることが伝わってきました。

防災教育を実践する指導者側としては、こうした信頼をどう活かすのかがポイントとなります。今回の中核となるプログラム2「避難所における初動対応訓練」について、次のようにご提案しました。

「先生のお話から、生徒たちの姿勢がよく分かりました。僕も彼らを信頼します。体験時の作業は思い切って、全て彼らに任せましょう。ただ、より効果的にリーダーシップとフォロワーシップを発揮できるようなコツは伝えます。」

4クラス130名の生徒はそれぞれクラス内で5~6名の班が編成され、それぞれに班長がいます。他学年の教室を含め広く散らばるため、筆者や担当の先生が全ての作業を同時に見て、指導することはできません。そこで、実際の体験が始まる前に各班の班長を集め、次の「決まりごと」を伝えました。

  • 次の時間で行うべき具体的な作業(食事、トイレ、就寝スペース作り等)は班長にだけ伝える。どのような順番で何をするかは班長、班員で話し合って決めるが、時間は厳守すること。
  • 資機材は班長を中心に、班員で協力して持ち出すこと。足りない・余ったときの貸し借りなどは、班長同士で交渉して決めること。
  • 不明な点は必ず班長経由で指導員、教員に質問する(班員は班長に伝える)こと。

手早く伝え、質問・意見がないかを確認してから体験を始めたところ、班長を中心に積極的に行動し、また班長間でコミュニケーションをとりながら活動を進める姿が見られました。

 
途中、先生方から「ダンボールトイレやベッドには”正解”があるのですか」と質問されました。とても良い質問です。その先生も生徒から聞かれたのかもしれません。次のように回答しました。

「適切な材料や時間、技術があれば正しい・効果的な手順があり、それが正解と言えるかもしれません。ただ、それは単に”手段”の話です。重要なのはダンボールトイレやベッドを作るという”手段”ではなく、本当にこれでうんちやおしっこができるか?横になって寝られるか?という”目的”を意識した活動です。」

「極端な話、目的が達成できるならルールの範囲でどんな手段を選んでもいい。彼らに必要なのは、限られた資材や時間のなかで、目的を達成する手段を考えることです。失敗したらそれでも構いません。彼らなら、なぜ失敗したかを振り返ることで、より深い学びにつなげられると思うからです。」

「手段と目的の整理」は、防災教育や災害対応で常々意識していることですが、ご質問いただいた先生にもご理解いただけたようでした。

ICTの有効活用

生徒は1人1台、タブレット端末を持ってそれぞれのプログラムに参加しています。講義資料も、レポートも、体験中の写真なども全て各自のタブレット端末から確認しています。

これらが活きるのが最後のプログラム4.プレゼンテーションの作成です。

各班でこれまでの体験を振り返りながら、Googleスライドでプレゼンテーション資料を作ります。班長のタブレット端末が主な作業端末となるのですが、それぞれが作成した資料はGoogle Driveで共有され、教職員がリアルタイムで閲覧できるようになっています。

筆者も見せてもらいましたが、それぞれ文言を考えたり、写真をインターネットから取ってきたりと本格的なスライドを作成していました。もともとプレゼンテーションの授業も実施済みということもあり、スムーズに作業は進められていたと思います。

写真はイメージです

まとめ ~いずれ時代のスタンダードに~

防災教育における主体性・自主性やICTの活用については、まだまだ課題も多いところかと思います。実施したくても環境的・予算的に難しいという現実的な課題が山積みかもしれません。

ただ、遠くない未来に、こうしたプログラムは時代のスタンダードになっていくのではないかと思います。防災教育のプログラムや指導方法は様々な形で共有されていきますし、ICTの活用などはコロナ禍も相まって加速度的に進んでいくことが予想されます。

防災教育の指導者側も常に考え方や知識・技術をアップデートして、向き合っていく必要があるのだろうと改めて感じました。

 

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