福祉・防災部局職員を対象に防災ワークショップ、備えの具体化目指す

2020年11月10日から11日にかけて、滋賀県の研修所で行われた避難行動要支援者対策講座を担当させていただきました。研修詳細及び公式の報告については全国市町村国際文化研修所ホームページをご覧ください。

本稿では、同講座の内容や進め方、ポイントなどについてご紹介します。

研修メインテーマから考えたこと

先方から提示された研修のメインテーマは「避難行動要支援者対策~災害弱者をつくらない~」でした。

何が起きるか分からない災害時において、弱者かそうでないかの線引きは難しいように思えます。災害時に何らかの障害等によって、自力で身を守ることが難しい状態を「弱者」とするならば、平時は健康で元気な人でも、ケガをしたり、たまたま病気になっていて「災害弱者」になるかもしれません。

そう考えると「災害弱者をつくらない」というのは大変困難であろうことが分かります。そこで、研修では改めてメインテーマから「(皆さん、あるいは皆さんが関わる市民の方々がイメージする)災害弱者、避難行動要支援者とは、どんな方々か。そして具体的な備えとして何が必要か」という点から、少しずつ紐解いていこうと思いました。

「ちがい」を知るということ

災害時要配慮者、避難行動要支援者については、以前に横浜市民防災センター主催の「防センアカデミー」での取り組みを別記事でもご紹介しています。

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障害や様々な課題を「個性」だから、無理に変えなくてよい、地域で受け容れよう、というのは日々の生活では大切な視点です。一方でどのような表現をしても「障害が障害であること」、「様々な支障が日常的に、そして災害時にあること」は変わりありません。

周囲がどんなに理解し生活を支えても、車椅子の方や寝たきりの方がスッと立って歩いて逃げることはできません。

前述の記事でも触れていますが、ポイントは「どうしてもその人に代わることはできないけれど,自分とその人にどんな”ちがい”があって、支障があるのかがわかれば、関わり方が見えてくる」という点です。その「ちがい」はいろいろな事情や環境で生まれます。「バリアフリー」というのはそうした「ちがい」を無くす、あるいは小さくしていくことなのだと思います。

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その様々な「ちがい」によって、明日は自分が「災害時要配慮者」となるかもしれない。その上で、できる対策とは何だろう。自分にできることは何だろう。と考えることが重要なのだと考えています。

避難行動要支援対策の「2つの視点」

当事者やご家族の方自身による「自助」については、基本的なこと(耐震化や家具転倒防止、出火防止と初期消火、早期避難、適切な備蓄など)が必要な点は変わりません。本稿では「それぞれの当事者の方が、個人や家庭でできることはできる限り取り組んでいる」という前提で考えます。

何から取り組んだらよいか分からない…という方は、国立リハビリテーション研究所の「障害者の災害対策チェックキット」が参考になります。自分の生活を振り返って、必要な備えを考えることが重要ですから、必ずしも障害者の方でなくても活用できます。

個人・家庭でできる限りの対策をとったうえでの、避難行動要支援対策(要支援”者”の対策ではない)は、大きく2つの視点に分けることができます。

ひとつは「災害からどのように生命を守るか」という生存避難の視点です。津波や水害など、迅速な避難行動が求められる災害に対し、自力では迅速な行動が難しいという方々をどう支援するかという点です。

この点は避難行動要支援者名簿の策定・運用といった行政的な支援、地域でのつながりなど住民同士の共助、そして地区防災計画に代表されるような行政と住民とが一体となった具体的な対策などが考えられます。

もうひとつが「被災後の生活をどのように守るか」という生存避難の視点です。避難所や在宅避難等について、様々な課題がある方々をどう支援するかという点です。特に自宅や施設が被害を受けることを想定した備えが必要です。具体的には「福祉避難所」についての理解や対策が考えられます。

視点1:災害から命を守るための避難~地区防災計画を例に~

まず、津波や洪水、土砂災害等で逃げ遅れてしまいそうな方々をとにかくどこかへ移動してもらい(避難所に限らず、公園でもホテルでも車やバスでも何でもよい)命を守る、という視点です。

これは自助・共助、「地域での助け合い」が重要であることは言うまでもありません。ただ、それが特定の個人(本人、家族、支援者、隣近所)の責務になってしまうと、お互いに負担に感じてしまいます。

『その時が来たら(私たちは)どうやって、災害から命を守るのか』ということを、地域全体の課題として、住民と行政が連携して具体的な計画や教育訓練に落とし込んで、継続的に取り組むことが求められます。

すでに市区町村独自で様々な対策を講じられている場合もあります。例えば杉並区では「地域の助け合いネットワーク(地域の手)」という取り組みが進められています。

こうした各自治体の取り組みは何らかの形であるかと思いますが、より住民主体の取り組みを広げようという試みもあります。その一例が「地区防災計画」です。

地区防災計画については内閣府のホームページで次のように紹介されています。

従来、防災計画としては国レベルの総合的かつ長期的な計画である防災基本計画と、地方レベルの都道府県及び市町村の地域防災計画を定め、それぞれのレベルで防災活動を実施してきました。

しかし、東日本大震災において、自助、共助及び公助が連携することによって大規模広域災害後の災害対策がうまく働くことが強く認識されました。その教訓を踏まえて、平成25年の災害対策基本法では、自助及び共助に関する規定がいくつか追加されました。

その際、地域コミュニティにおける共助による防災活動の推進の観点から、市町村内の一定の地区の居住者及び事業者(地区居住者等)が行う自発的な防災活動に関する地区防災計画制度が新たに創設されました(平成26年4月1日施行)。

地区防災計画に関しては『地区防災計画モデル事業報告―平成 26~28 年度の成果と課題―』作成にあたり、懇談会委員としてご協力させていただきました(報告書p.90に名簿記載)。

報告書では、様々な地域・想定災害・取り組み主体による地区防災計画の策定事例が掲載されていますので、行政の方、地域の方で要配慮者支援に取り組みたいという方の参考になればと思います。

もちろん、要配慮者支援に限らず様々な取り組みが報告されています。一般の方には少し難しいかもしれませんが、防災リーダーの方、行政職員の方などは報告書をご一読いただければ幸いです。

ワークショップ:避難行動訓練EVAG豪雨災害編

様々なちがいのある方々の命を台風・豪雨からどう守るのかを考えてもらうのに役立つのが、これまでも本ブログで何度も取り上げている防災教育教材「避難行動訓練EVAG」です。本プログラムでは講義の後、こちらの教材を1時間程度使って体験していただきました。教材の詳細は国土防災技術株式会社ホームページからご確認ください。

視点2:被災後の生活を守るための避難~福祉避難所~

次に命を守ったあとに出てくる課題、つまり避難生活においてどう支援するかという視点です。具体的には福祉避難所と言われる、配慮が必要な方々を受け入れる避難所が挙げられます。

福祉避難所がどのようなものかについては、内閣府(防災担当)のガイドラインで概要を確認できます。より具体的には、お住いの市区町村+福祉避難所で検索していただき、お住まいの地域でどのように対策をされているかをご確認いただければと思います。

視点1は行政及び住民、当事者の視点とすれば、視点2は福祉事業者(社会福祉法人など)の視点です。

高齢、障害等により日常的に支援が必要な方は、何らかの福祉サービスを利用することで日々生活されています。このサービスが途絶えることによって、支援が必要になるというのが基本的な考え方です。

このため日常的に支援が必要な方の選択肢は2つに絞り込まれます。「福祉サービスを早く再開してもらう」あるいは「応急的に福祉サービスを受けられる場所に行く」のどちらかです。

このどちらも、福祉事情者の方の協力や事前の対策なくしては困難です。福祉避難所の対策等については、別記事で改めてご紹介できればと思います。

ワークショップ:時系列で対策を具体化する

今回の研修は全3日間で、筆者は最後の全体まとめワークショップも担当させていただきました。そのときに用いたワークシートをダウンロードできるようにしておきました。タイトルをクリックするとプレビューできます。

具体的なアクションとして落とし込んでもらうことを強調して、話し合いながらまとめてもらいました。発表では筆者が発言内容を記録し、全体のつながりが分かるように整理してまとめとしました。

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まとめ~ちがいを越えて考え備える機会を~

冒頭にご紹介した「ちがい」というのは障害等の当事者とその他の方、という「ちがい」だけではありません。

障害等の当事者の対策と、その他の方々の対策の「ちがい」。
個人の対策と、行政の対策の「ちがい」。
行政の対策と、福祉事業者の対策の「ちがい」。
行政・福祉事業者の対策と、地域住民の対策の「ちがい」。

これらもすべて含んでいます。筆者は偶然ですが、1ヶ月間の間でこれら全ての方々を対象とした研修を担当させていただき、改めてその「ちがい」を痛感しました。

本稿をご覧になって関心をお持ちいただいている方々には、人数等は少なくても、立場の違いのある方が一緒になって考えられる機会を作っていただければと思います。

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