県域公民館連合会研修で防災ゲーム活用 地域で取り組む防災のきっかけづくり

県域の公民館連合会主催で、防災ゲーム「クロスロード」、「EVAG豪雨災害編」、「避難所運営ゲーム(HUG)」を活用した研修を担当させていただきました。主に自治体職員向け研修等で実施しているプログラムを応用し、公民館職員の方々が地域住民と共に防災に取り組むきっかけづくりとなるような内容にしました。

本稿では各防災ゲームを公民館で活用する際のポイントなどをご紹介します。

目次

研修全体の流れ:災害対応の順序を意識して

研修全体の流れは以下のとおりです。公民館が避難所として指定されている場合もあるため、主には午後の「避難所運営ゲーム」が中心となります。ただ、各項目でも記載のとおり災害発生(またはその可能性)=避難所ではありません。

公民館職員でも、地域住民でも、自治体職員であっても全て共通しますが、災害またはその可能性に関する「災害情報」と判断があり、具体的な避難(支援)行動があり、そして避難所に到達してようやく避難所の開設・運営といった”順序”があります。

研修及び使用する防災ゲームでその順序が意識できるように構成しました。

1.災害対応サイクルと防災対策の基本
2.コロナ禍における避難所運営の要点
3.災害情報と避難行動
4.災害時要配慮者支援と福祉避難所
5.避難所の開設と運営
6.総合演習「避難所運営ゲーム(HUG)」
7.全体総括

防災ゲームはマーカー部分で活用しましたので、本稿でも該当項目の部分についてご紹介します。

災害情報と避難行動:クロスロードを活用

まず災害情報と避難行動に関する説明での防災ゲーム活用です。ここでは 防災カードゲーム「クロスロード」(内閣府) を使用しました。

クロスロードの様子

クロスロードはごく簡単にいえば「ある特定の条件で起きる課題に対してYESかNOで回答し、その理由を共有する」ものです。YESでもNOでもどちらともとれる設問が多く”ジレンマ”を感じさせる内容が多いため、そこからの学びを主としています。詳しくは、上記の内閣府(防災担当)ホームページリンクからご覧ください。

本稿では使用時の注意点やポイントなどをまとめておきます。

災害情報と収集伝達・コミュニケーションをセットで考える

クロスロードにおける決断や意思決定はすべて何らかの「(災害)情報」の収集伝達及びコミュニケーションに基づいています。ここが大事なポイントです。いきなりYESかNOか、と聞かれるのでその場だけで考えてしまいがちですが、実際にはその場面に至る背景があり、その後も様々な対応が必要とされます。

つまり「連続する災害対応の、ある一場面における意思決定」が問われている、ということです。例えば何か対応をしたいけど人員が足りない、避難しなければいけない場面だがすぐに動けない理由がある、といった場面です。それぞれ前後のシチュエーションがありますが、聞かれているのは「いま、どうすべきか」という点です。

ただし、問いかけには最低限の場面や情報しか描かれていないため、参加者は限られた情報から現状や前後の場面を想定、推察する必要があります。想定や推察は個人の知識や経験、価値観などによって異なってくるため、同じ問題でもYES・NOが分かれる、ジレンマが生まれることになります。

ただYESかNOで決めてください、いろいろな意見がありますね。ではなく「決断には様々な災害情報の収集伝達や、他者とのコミュニケーションが関わってくる」ことをセットで考えることが必要です。

災害情報については以下の教材「DICE」などもご活用ください。

地域の課題、防災を具体的に考えるきっかけとして

例えば土砂災害の危険がある地域で「どうしたらいいでしょうか」とオープンクエスチョンで問いかけたとしても、なかなか具体的な議論はできません。問いかけが抽象的だと、答えも抽象的になってしまいます。

クロスロードでは「YESかNOか」で様々な場面の課題について考えていきます。「私だったらこう考える」、「他の人はこう考えていた」という具体的な回答、根拠に基づくディスカッションを行うことができます。

災害時要配慮者支援と福祉避難所:EVAG豪雨災害編の活用

続いて災害時要配慮者支援と福祉避難所の部分では EVAG豪雨災害編(国土防災技術株式会社) を使用しました。

EVAGは様々な背景(年齢、性別、家庭環境、仕事、近所付き合い等)を持つ仮想の街の住人となり、台風が接近してくる状況でどのように対応するか、時系列で考えていくゲームです。詳しくは上記ホームページよりご確認ください。また、筆者による実践例記事もご参照ください。

避難所に至るには「避難行動」があってこそ

後述する避難所運営ゲーム(HUG)は、避難者が集まってきたという想定からスタートしますが、流れとしては地震や風水害といった災害が発生、または発生の可能性の情報を把握した住民等が避難行動をとった結果、集まってきます。

各避難者は避難行動をとるという「決断」、意思決定をしたうえで避難所にたどり着くのですが、その判断や行動が知識・経験、価値観などの環境や条件に左右されることは前述したとおりです。

EVAG体験の様子

EVAGは「台風が接近しており、河川の氾濫や土砂災害の危険が高まっている」という場面からスタートしますが、登場人物にはいろいろな制約があります。子供だけで自宅にいたり、ペットがいたり、ケガや病気をしていたり…避難行動をとりたくても取りづらい方がいます。

課題があってもなお避難しようとするのか、避難できないと判断したら自宅等でどう過ごすのか。あるいは避難所に行けたとして、その後どうするのか。ここが大事なポイントになります。

避難所運営ゲームでは様々な条件の方を受け入れることになりますが、その人たちがどのような決断をして、どのような背景で避難所まで来たのか。EVAGで地域住民の暮らしの多様性を意識したうえで避難所運営ゲームに取り組むことで、より具体的なイメージにつながります。

総合演習で「避難所運営ゲーム(HUG)」を活用

最後にHUGの実践です。 避難所運営ゲーム(静岡県) は地域住民が避難所運営のあり方を考えていくツールとして広く普及しています。詳細は静岡県のサイト、または筆者による説明記事等をご参照ください。

「公民館で避難者を受け入れたなら」を想像しながら

HUGは学校を想定した図面で行いますが、本研修は公民館職員の方々を対象としているため「もし公民館で避難者を受け入れたなら」という想定のもとで実践してもらいました。

図面こそ小学校ですが、避難してくる方々の多様性は学校でも公民館でも変わりません。

HUG実践の様子

実践ヒント!

HUGの図面は一般的な小学校体育館(バスケットボールのオールコート1面分)をA3用紙×4枚のA1サイズで表現しています。教室はA4用紙で1枚分です。HUGで配置するカードはこの図面の縮尺に合わせると縦1.5m、横1.0mのサイズになるよう調整されています。公民館の会議室などは教室の大きさが目安になりますし、ホールや大会議室は体育館を目安に図面を考えるとわかりやすいです。

公民館としての「管理運営ルール」を住民と共有するきっかけに

これまでにも本ブログで何度か説明していますが、建物における「管理運営ルール」はある程度、事前に定めることができます。具体的にはどの場所をどう使うか、どの部屋を立ち入り禁止にするか、などの”原則として変わることのない”ルールです。これに対して「生活ルール」は、状況により避難者自身や運営者で柔軟に変えるルールです。

HUGをきっかけとして、公民館の「管理運営ルール」を一緒に考えたり、あるいはあらかじめ定めたものをHUGの実践を通して周知していくなどもできます。

まとめ: “その時”の対応を住民と共に考えるために

避難所としての指定有無に関わらず、安全な場所にある公民館であれば近隣住民が避難してくることは十分に想定されます。近くに小中学校があったにしても、公民館のほうがいい、という方もおられるでしょう。

また、多くの公民館は市区町村教育委員会所管で運営されているかと思いますので、学校等と同じ管轄で避難所開設・運営に協力を、ということは十分に想定されます。

「”起きる前”に想定して考えておくか、”その時”になってから考えるか。」選択肢はどちらかしかありません。

必ずしも想定したとおりにはいかないかもしれませんが、平時の防災対策はもちろん、避難行動や避難所運営などについての方針やルールを決めておく、話し合っておくだけでも、”その時”の負担を減らすことができるはずです。

様々な防災ゲームが、公民館と地域の方々が共に防災を考えていくきっかけになればと思います。

おまけ:ほかにもいろいろな防災ゲームがあります

下記の記事 や note で防災ゲームの一覧を紹介しています。対象や実施環境に応じた防災ゲームを活用してください。

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