都内特別支援学校で福祉避難所運営訓練、教職員による班別初動対応を確認

2024年8月、都内特別支援学校で福祉避難所運営シミュレーション訓練が行われ、訓練全体のサポートや講評などを担当させていただきました。本稿では訓練全体の流れや、教職員による班(役割分担)別業務のポイント等についてご紹介します。

目次

基本的な条件設定

訓練は「防災教育講演会」という枠組みの中で行われ、筆者は講師という形で参加しましたが、講義としてお話したのは冒頭の15分ほどで、それ以降は実践訓練という形で行いました。

条件設定は以下のとおりです(学校名や自治体名は伏せていますが実際は具体名が記載されています)。

・今日は、令和◯年◯月◯日(平日)
・場所は◯◯特別支援学校
・現在時刻は午後3時30分
・正午に大地震発生(最大震度6強)、余震が続いている
・午後2時に児童・生徒の保護者・福祉園職員引き渡し開始
・現時点で、いまだ保護者引き渡しできていない児童・生徒90名。
 小学部30名、中学部30名、高等部30名。学年で集まって学年教員とともに待機している。
・本校にいる教職員は100名。
・午後4時に◯◯市からの福祉避難所開設要請に基づき、福祉避難所を開設することが決定
※福祉避難所…対象は、高齢者、障害者、妊産婦、乳幼児、病弱者等避難所生活において何らかの特別な配慮を必要とする者とし、その家族まで含めて差し支えない。

記載のとおり、平日の午後、小学部~高等部の児童生徒が在籍している時間帯での発災が想定されました。従ってまずは児童生徒の安全確保、保護者への緊急連絡、引き取り準備、滞留のために必要な非常食等備蓄物資の運び出しなどが必要となります。

避難者に関する条件設定(福祉避難所の条件設定)

避難者に関する条件設定は次のとおりです。

・校庭に30人程度の避難者がいるが、続々と避難してきている。
本校が福祉避難所ということを知らずに避難してきている人もいる。
・高齢者、乳幼児、妊婦、外国人、車椅子の方の姿が見える。
・雨が強くなってきているので、避難所を開設次第、順次校舎内に入れる必要がある。

同校は都立高校です。都立高校は「帰宅支援ステーション」という帰宅困難者を一時的に滞留・支援する施設としての役割があります。同校は加えて特別支援学校という特性から市区町村と福祉避難所に関する協定を締結しています。協定に基づき、自治体から要請があった場合は福祉避難所を開設・運営(に協力)します。

「(指定)避難所」の開設主体は市区町村です。従って協定等では学校教職員は「要請に基づき、開設・運営に協力する」という表現になっています。ただ、実際には過去の事例からも市区町村からの要請や職員派遣よりも早く配慮が必要な方、ご家族、地域住民が避難するケースが多いため、訓練ではそうした「計画と実態との誤差」を踏まえた想定が重要になります。

冒頭の条件設定にもあるとおり「福祉避難所として受け入れる対象者」は限定されていますが、そうした事情や計画を知らない地域の方々が避難してくることも想定されます。

従って、外部からの受け入れを行う場合は福祉避難所として受け入れるのか、帰宅支援ステーション等一時的な滞在場所として受け入れるのかを振り分けることが必要になります。この点は後ほど、個々の班による対応でご紹介します。

受付時の振り分け

班編成(役割分担)の概要

同校では詳細なマニュアルが作成されており、訓練も指定された班編成(役割分担)のもとに行いました。

総務班
施設管理班
食料物資班
保健衛生班
情報班
支援渉外班
福祉避難支援班
福祉避難班
児童・生徒班 ※実災害時は1/2の職員が児童・生徒班で対応

班・人数・責任者・担当者・業務内容を大判印刷で掲示

各班業務のポイント

各班業務のポイントを紹介していきます。全ての班がそれぞれの業務を同時進行で行っています。

総務班:情報集約・人員等全体の調整

総務班は訓練全体を担当する方や管理職を中心に、進行管理を中心としたコントローラー役を担いました。それぞれの班ごとに必要となる作業用ボックスや無線機の準備なども行っています。

実際の災害対応では様々な連絡調整をはじめ、多様な役割を担い、業務負担が大きくなりがちなのが総務班です。受付作業などはルールが決まれば誰がやっても同じですが、総務・経理・連絡調整等は「その人でなければ知らない、できない」業務や人的つながりも少なくありません。

演習や訓練では「地味」に思われる総務班の役割ですが、訓練を企画される際はぜひ取り入れていただきたい役割のひとつです。

施設管理班:点検作業と案内表示貼り付け、マンホールトイレ設置で環境整備

施設管理班は校舎やプール等、各種施設・設備の点検作業が最初の役割になります。点検作業をしつつ、予め定められた各部屋での案内表示等を貼り付けます。また、校舎入口付近にあるマンホールに、直結型の仮設トイレを設置します。

トイレは児童生徒・教職員、帰宅困難者、福祉避難所利用者等、全員にとってまず必要となる設備です。同校ではプールの排水管を調節することでマンホールトイレの排水に使えるそうで、そうした設備のチェックも行われました。

食料物資班:備蓄品を必要とする場所へ搬送・管理

食料物資班は、備蓄倉庫となっている部屋から実際に児童生徒が滞留するスペースや、福祉避難所としての指定スペース等への物資の運び出しを行いました。ユニークだったのは、台車の数が足りなかったので折りたたみ式の稼働机を台車代わりにして運んでいた点です。

講評の際にもお伝えしたのですが「机(キャスター)の耐荷重」を考慮する必要はありますが、活用すれば写真のように多くの資材を女性でも運ぶことができます。ただ、同校では階段を利用して資材を運ばざるを得ない場面もありました。

この点は他の施設でも同様で、物資が備蓄してある場所と使用される場所が異なる場合、搬出や移送の方法を訓練で確認しておくことも大切です。

保健衛生班:校内トイレに携帯トイレセットを設置、運用方法を表示

保健衛生班は主に福祉避難所の利用者が使用する可能性のある校内トイレに、携帯トイレを設置する作業を行いました。仮設トイレは帰宅困難者や一時滞在者などが利用し、校内トイレ+携帯トイレを福祉避難所利用者が使用する、という使い分けです。

この使い分けには大きな利点があり、特別支援学校の校内トイレは車椅子等でも入れるような設計になっています。従って一般的な仮設トイレの使用が困難な方でも、利用がしやすくなっています。

使用方法についても写真の説明では分かりづらいので、別途張り紙がされました。

写真を撮りそびれてしまったのですが、先生方が作成した案内表示のほかに、筆者が手書きの案内表示を追加しました。手すりの高さくらい、具体的には小学生の目線の高さくらいに、ひらがなを中心にした携帯トイレの使い方を掲示しました。

トイレは誰もが使う設備です。福祉避難所利用者のご家族あるいは当事者の年齢、性別を問わず利用できるような工夫を、訓練を通して考えてみるのも良い機会です。

福祉避難支援班:受付設置・案内表示・発電機(ライト)等で避難者対応

福祉避難支援班は、福祉避難所の入口となる玄関ホールでの対応です。受付スペースや案内表示による誘導、発電機等で明かりを確保するなどが役割となります。「情報班」と連携して、掲示板を受付に設置するなどの対応も行われました。

避難者誘導の導線確保や振り分けはもちろんですが、入り口の時点で避難者が知りたい情報を提供できる場所や環境を整えることは重要です。こうした表示がないと、教職員や自治体職員は「◯◯はどうなっているのか」という質問攻めにあってしまいます。「情報は◯◯にまとめています」という回答ができれば、負担を軽減することができます。

福祉避難班:避難スペースでのテント設営、誘導対応

福祉避難班は、福祉避難所利用者を受け入れるためのスペース(体育室)に受付やテントを設営、支援物資が提供できる環境を整えました。

テントについても「入り口をどちら向きにするか」といった細かい点まで確認が行われました。最初は通路側を向いていたのですが「出入りの度に中が見えるのはどうだろうか」という意見があり、入り口の向きを変えてすぐには中が見えないような配慮がされました。

まとめ ~明確な役割分担と具体的想定に基づく訓練の大切さ~

「福祉避難所」の開設・運営訓練は、小中学校等に開設される(指定)避難所の開設・運営とは異なり「その場に避難してきた人が力を合わせて運営する」ということはあまり想定されていません。

受け入れるのは配慮が必要な方であり、直接的な支援(寝たきり、認知症、重度心身障害、医療的ケアが必要な方等)が必要な場合もあります。仮にご家族の方が同行されたとしても、当事者のそばを離れることは難しい状況です。

従って施設職員(学校であれば教職員)、自治体職員、あるいは様々な立場の応援派遣職員が運営を担うことになりますが、本訓練で想定したような初動では施設職員(教職員)による対応が不可欠です。

スムーズに対応が行えるようになるためには、以下がポイントになります。

  • マニュアルを整備し「いつ、誰が、何を、どのように」するのか明確に役割分担すること
  • できる限り具体的な想定で、実動訓練を行うこと。
  • 訓練での課題をマニュアル、次回以降の教育訓練に反映させること。

災害対応の最前線では、制度や仕組み以前に「目前で起きていること」に対して「手の届く範囲にあるもの」で対応する必要があります。まず対応して、後から制度や仕組みに紐づけていくしかありません。

本稿のような初動対応訓練で出てきた課題について自治体職員の方とも共有し「この場合はどうしたらいいのか」という手続きや流れを話し合っておくと、より実戦的な訓練になります。

次年度以降も同校訓練は予定されていますので、これらを踏まえた記事も追ってご紹介できればと思います。

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