激甚災害発生時の組織対応と災害情報の収集・伝達


「激甚災害(げきじんさいがい)」とは、1962(昭和32)年に成立した 『激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律』 に基づき政令で指定される、国からの財政援助が必要となる災害のことです。分かりやすく言えば「地震や風水害で多くの人や家などが被害を受けたため、対応するためにたくさんのお金が必要な災害」のことと言えるでしょう。「激甚災害」の細かな法律的解釈については言及を避け、本記事では「民間企業(事業所)や労働組合は大規模災害に際してどのように対応するべきか」、「対応に必要となる情報はどのように収集・分析・伝達するか」といった点についてを中心にご紹介します。

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現状と課題の整理

2017年4月に筆者が担当させていただいた労働組合の研修では、ご担当者様から、講義前に手短ですが現状をヒアリングさせていただきました。大まかに整理すると以下の3つになります。

  1. 大規模災害時のマニュアル等が特にないので、どうすればいいか分からない。
  2. 連絡調整に課題があり、組合員の状況を確認する手段がない。
  3. 組合員を支援するための基金をつくったが、いつ、どのように支出すればいいのか。

といった現状・課題をお持ちでした。もしかしたら同様の現状・課題をお持ちのところもあるかもしれません。自然災害が相次いで発生し、対策の必要性は誰もが感じるところです。ですが、組織的な防災対策やBCPの策定・改善などをアレもコレもと進めていこうとすれば、たくさんの経費・労力・時間がかかってしまいます。本記事では、それぞれの課題を読み解きつつ、組織対応や災害情報を中心に無理なく取り組めるポイントについてご紹介します。

課題1『災害時に何をすればよいのか~防火・防災計画とBCP~』

災害時の組織的対応を考えるうえでヒントになる、2つの計画のことについて、まずご紹介します。

社員等の生命を守る「防火・防災計画」

組織対応に限りませんが、災害時の対応において重要なことは『何を最も優先するか』ということです。事業所によっては「防火・防災管理計画」を消防法に基づいて策定していることもあるかと思いますが、防火・防災計画が目的とするのは『被害の軽減、安全確保、二次災害防止』です。社員・従業員、あるいはお客さまの生命を守るということが最優先になります。部門的には管理・管財・総務部門が担当することが多いでしょう。

会社・組織の事業を守る「BCP」

では「防火・防災計画」に則って社員の生命を守れたらそれで大丈夫か、というとそうではありません。災害によって事業を続けられなくなれば社員に給与が払えず、「生命」は守られても「生活」や「人生」を奪われることになります(生命・生活・人生の守り方については下記記事もご参照ください)。

[blogcard url=”https://kenyamiyazaki.com/archives/1524″]

つまり会社組織としては社員の生命を守ると同時に事業も守らなければなりません。その『事業を守るための計画』がBCP(Business continuity planning)です。BCPについて詳しくは下記URL等でご確認ください。

計画とマニュアルの大切さ>

課題として提起された「災害時にどうすればいいか分からない」には、順序としては計画とマニュアルを整理する必要があります。簡単に言えば、計画は事前の備え、マニュアルは計画に基づく事後の対応と言えます。防火・防災計画もBCPも、基本的には自社に関する災害時に求められる最低限の事項ということになりますので、まずはこちらが実行できるようなマニュアルの整備が必要になります。次の課題にもつながってきますが、まず社員の安全や事業の継続を優先した後、関係者・地域・被災地の支援を、という流れになります。

組織で対応しようと思ったら、決定権を持つ人も実行的な立場の人も、異動や退職などでどんどん入れ替わることを想定しなければなりません。ある時点では詳しく分かっている、理解がある人が災害対応を担当していたけれど、その人が異動したらまったくできなくなってしまった。そんな話は学校の防災教育でもよく耳にします。「組織」の対応ではなく「個人」の対応だったということになります。

「組織」は2人以上の構成員がいて、どちらかがリーダーシップをとる必要があります。人数が増えればそれぞれの役割や行動を定めた「共通のルール」も必要になります。災害時のように「次に何をすれば…」と迷う場面ならその2つはさらに重要になります。各種の計画やマニュアルを整備することは、ただ書類を増やすということではありません。災害時の実行力・行動力を高める、具体的な備えと言えます。

課題2『連絡調整の課題~安否確認と災害情報~』

次の課題は「社員・構成員との連絡手段や安否確認」に関することです。災害情報の収集・伝達とコミュニケーションについては、下記の記事で演習プログラムとして詳細に公開していますので、そちらも合わせてご確認いただければ幸いです。本記事では特に重要な部分をピックアップしてご紹介します。

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前述した計画やマニュアルに基づき、組織が対応するにあたって欠かせないのは「(災害)情報」です。どれだけ早く、正確に情報を手に入れ、整理・分析できるかがその後の状況を左右します。情報は被害が大きいほど、受信することも発信することも難しくなります。対応する人材も環境(通信など)も被害を受けるためです。逆に被害が軽微であれば、情報に対応する人材も環境も増えていきます。

2011年3月11日、当時の状況で言えば現場は大変な被害を受けていて、現地の方が被害の全容を確認するのはかなり後になってからでした。一方、関東圏など東北以外ではマスコミやSNSなどで多くの情報がすぐに手に入りました。その反面「◯◯の友人のお父さんが○○で働いていて、○○の爆発事故で毒性の強い雨が降るので気をつけて」といった、流言飛語の類もかなり多くの人に出回ったのではないでしょうか。筆者も小学校から付き合いのある同級生からメールが届き「それは○○の事故についての誤った情報で、事実ではなくて本当に注意するのは…」と訂正した覚えがあります。被災現地でも様々なデマはあったようですが、受発信の環境が限られている以上、その拡散にも制限があります。

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課題の話に戻りますが、安否確認などの連絡調整は、固定電話・携帯・スマホ・メール・無線機などあらゆる手段を使って講じる必要があります。企業や労働組合で一番普及しているのは「安否確認メール」ではないでしょうか。システムを導入していない場合は、他の手段による「連絡網」型式(支店や支社、エリア毎に個々の情報を集め、本社が統括する)が一般的かと思います。

注意すべきことは集めた情報の取扱です。特に「報告・回答がない、もしくは遅れている」支店や支社、エリアの情報には気をつける必要があります。そこは、特に被害が大きい可能性が高いからです。単にシステムの利用方法や、やるべきことが分かっていないだけかもしれません。どちらにせよ被害の拡大につながる可能性があります。本社や災害対応の責任者的には、速やかに把握して対応すべき支店・支社・エリアということになります。

課題3『基金による構成員・社員支援方法~公的生活再建支援制度との関係~』

3つ目の課題は「独自の基金をつくったが、構成員や社員を支援するにあたって具体的にどういう基準で行ったらよいのか」という点です。学校や地域にはない、まさに民間企業や労働組合ならではの課題です。

公的支援制度を理解する

まずはじめに、被災した方を支援するための公的な支援制度があることを知っておく必要があります。自然災害によって被災された方を支援するために『被災者生活再建支援法』という法律があります。この法律に基づき『被災者生活再建支援制度』があります。詳しくは下記のURLからご確認ください。

この法律・制度にとって重要なのが『り災証明書』という書類です。この書類は、被災された方の被害の程度を証明するもので、以下の図ような流れで手続きが進みます。応急危険度判定や建物被害認定調査、データベース登録にはかなりの時間が必要になる場合があります(半年以上など)。被害の程度、被災家屋・世帯が多ければ多いほど、調査が行き渡るまで時間がかかるわけですから、首都圏での災害などでは相当な時間が必要になると思われます。

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なぜり災証明書が必要かというと、様々な公的支援サービスや減免を受けるための「根拠」になるからです。逆に言えば、仮に大変な被害を受けていたとしても、証明書がなければ制限を受ける場面も出てくるということです。ある程度柔軟な対応はありますが、例えば「写真一枚見せればお金がもらえる」ような制度だったら、多くの人が「つぶれた家の写真」を見せてお金をもらいたいと考えます。生活再建のための財源にも限りがありますから、本当に必要な人にお金が届かなくなってしまいます。

また、下図のように「被災」とは家屋や人など様々な行政支援の部署や内容に関係してきます。被災者自身が各部署に行く度に、被害の状況を説明していたのではお互いに大変です。そこで、建物被害認定調査やり災証明書のデータを市区町村役所等で共有し「被災者台帳」を作成することで、円滑な支援ができる仕組みになっています(運用面については市区町村によって差はあるかもしれません)。

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民間支援は「スキマ」を埋めるために

労働組合等で積み立てた「基金」の運用方法について、筆者が提案させていただいたのは2つの考え方です。基金の総額にもよりますが、前者は支払い件数が非常に多くなる可能性があり、事務も相当量になることを想定しなければなりません。ただ、構成員にとっては極めて現実的な支援です。後者は件数は限られるかもしれませんが、必要性は極めて高くなります。深刻な被害を受けた構成員にとっては、重要な支援です。どちらをどう運用するかは、課題1で示したような組織的対応、計画・マニュアルに基づいて事前に定めておくことが必要になります。

り災証明書が発行される前の”応急的な支援”

前述したように公的支援は「公平」であることが前提です。公的支援制度に基づく支援金が振り込まれるのは、いずれにせよかなりの時間が経ってからになります。ですが、それまでも生活をやりくりしなければなりません。その部分を補うのが「応急的な支援」です。労働組合・企業等で、基金の運用ルールを独自に定めておき(例:家屋被害を証明できる写真添付と個別の申請用紙等)、それに基づいて支援金を支払うという方法です。構成員の身元が明確である以上、虚偽の申請などは想定しないというスタンスで行う方式ですが、あまり高額な支払いはできないでしょう。あくまで「当面の生活支援」的な役割になります。

り災証明書の発行を受けた”本格的な支援”

家屋が全壊してしまった場合、修繕・建て替え・転居など、多額の負担がどうしても必要になる場合は、基金の上限額にもよりますが高額な支払いに対応することも検討します。その場合は、額が額だけに申請内容を精査しなければなりません。その際、最も根拠になるのが「り災証明書」です。

まとめ

2011年以降、防災対策や災害支援についての計画やマニュアルなどを定めたり検討している企業・労働組合さんも多いかと思います。筆者が専門としている学校や地域の防災教育よりも、ずっと進んでいる面(特に大企業や大きな組合など)もありますが、逆に「なかなか手がつけられていない」というところも多いように感じます。まずは防火・防災計画をしっかりと見直し、具体的な部分をマニュアル化していく、訓練の方法を再検討するなどに取り組むだけでも、発災時の被害の拡大はかなり防げるはずです。社員への防災教育訓練等のアドバイスは無料で承っています。お気軽にご相談ください。

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