2019年9月2日から14日にかけて国内各地を巡る形で実施された『JICAトルコ国別研修「防災教育」コース』の1コマを担当させていただきました。筆者の担当テーマは『学校・家庭・地域における防災教育支援とミニワークショップ』です。本稿では、主催者及び参加者の方の許可を得て、防災教育コース全体の内容や当日の様子、使用した教材等についてご紹介します。
防災教育コース全般について
本研修に参加されたのは、トルコの防災教育関係者の方々です。国民教育省初等教育総局・教員養成総局といった行政職の方、初等学校・中等学校・高等学校・職業技術学校の先生方です。トルコでも地震防災は大きなテーマになっているということで、研修プログラムは国内の震災に関わる地域を巡る形で構成されていました(※研修プログラムのコーディネーターはアジア防災センターさんが担当されています)。
研修は東京から始まり、文科省での学校防災教育施策の講義や東京臨海広域防災公園での体験学習、教員養成大学でのカリキュラム開発について学ばれた後、続いて東北に移動し、震災遺構や小中学校での防災教育授業の見学、宮城教育大学での講義やワークショップで前半の振り返りをされています。
後半は神戸のJICA関西をベースに、阪神・淡路大震災の遺構や人と防災未来センター、学校での授業等を見学し、最後にアクションプランを作成・発表するという流れです。筆者が担当したのは後半初日、9月9日(月)です。
各日程、カリキュラムでテーマや課題がありますが、筆者の担当コマで参加者の方々が期待されていたのは『教員の(防災教育に対する)モチベーションをどのように上げていったらよいか』だと、コーディネーターの方から伺いました。
震災を経験された地域での体験学習や授業などは、時間経過に伴う記憶や経験の風化などはあるとしても、前提として「被災体験(それに準じる体験)」があります。個人差はありますが、モチベーションのあり方も他の地域とは異なると考えられます(あくまで個人的な経験則と主観であり、統計的根拠はありません…)。
全体のプログラムを見ても、東北・神戸での体験学習の合間にポツンと筆者だけが東京から関西へお伺いさせていただいています。研修全体の流れの中で、自分が果たす役割を意識しながら、当日に望みました。
余談~台風15号の混乱を抜けて~
お気付きの方もおられると思いますが9月9日(月)は台風15号の影響が首都圏の交通網を直撃しています。JR私鉄各線は朝の運転は見合わせており、東海道新幹線も運転は再開されていたものの、大幅な(約2時間)遅れという状況です。
「予定された時間内に神戸に行くのは、物理的に無理だな…」と混雑する電車とホームの中で2回くらい思いましたが、結論から言えば若干遅れた程度で、ほぼ予定通りに研修に合流、実施できました。人と防災未来センターへの立ち寄り、昼食時間などでゆとりをもっていたのが功を奏しました。
移動前後の時間で、この度の台風で被害を受けられた方や、支援者・関係者の方の参考になればと思い、参考情報の一覧ページを更新しました。
[blogcard url=”https://kenyamiyazaki.sakura.ne.jp/blog/archives/1969″]当日の内容~学校・家庭・地域の防災教育支援~
研修当日は次のような流れで行いました。
防災教育への動機付け~価値観の違いと大切な”何か”~
まず、冒頭では防災教育の動機付けとして、筆者がなぜ防災教育に取り組むようになった阪神・淡路大震災、その後の様々な被災地での経験についてお話しました。ただし、この「モチベーション」はあくまで個人的な経験則であり、誰もが同じように思うわけではありません、とお伝えしました。
トルコでも日本でも「防災(教育)」に対する理解や意識は個人差がありますし、それが当たり前です。どんなにこちらが大事なことだと言っても、伝わらないこともあるでしょう。
そんな時、どうしたらいいの?ということで、簡単なアイスブレイクも兼ねたワークショップを行いました。自分と他者が大切にしているものの違いを知るためのワークです。詳しくは下記の記事の3.1「みんなのちがいを知るゲーム」をご覧ください。
[blogcard url=”https://kenyamiyazaki.sakura.ne.jp/blog/archives/2019″]児童養護施設での防災教育についても少し触れました。
「さまざまな要因で”地震が起きたらついでに死んでしまいたい”という子どもがいます。積極的に死にたいとは思わないが、生きていたいとも思わない。自分の命、家族、暮らしに希望や価値を見出だせない子どもたちもいます。僕は、彼らにも防災を伝えます。皆さんなら、どう伝えますか。誰かに防災について知ってもらいたいのなら、価値観やモチベーションがどこにあるかを、私たち自身が真剣に考えなければなりません。」
モチベーション、動機のスイッチは人それぞれです。自分と他者の違いを受け入れたうえでアプローチすることが「(誰かの)モチベーションを上げる」ためには必要です。
<POINT>
相手が児童生徒でも、同じ教員や管理職でも、ただ「防災(教育)は大事なんだ」と押し付けるのではなく、「なぜ」大事なのか、と「何を」やるべきなのかを相手の価値観を踏まえて、繰り返し伝え続けていくことが重要です。
自分で”考える”ことの大切さ~釜石の出来事を例に~
続いて、東日本大震災における釜石市立釜石東中学校での事例から、生徒の言葉と新聞記事を引用し「自分で考える」ことの大切さをお伝えしました。
いわゆる「主体的・対話的で深い学び」にも繋がりますが、釜石の出来事においても「自分で積極的に考えた学習活動」が印象に残っていたという記録があります。
ただ課題や問題を提示して、何かを考えさせればいいというわけではありません。主体的に考えてもらうためには「なぜそれを考える必要があるのか」について理解してもらうことも、併せて必要になります(前項のモチベーションの話とも繋がります)。
<POINT>
災害直後のように、誰も正解が分からないような厳しい場面でも、行動できるようになるためには『自分で考える力』を身につけることが欠かせません。
学校・家庭・地域の防災教育支援~手引きとサポートツール~
研修テーマでもある学校・家庭・地域での防災教育支援については、内閣府(防災担当)と防災教育チャレンジプラン実行委員会による『地域における防災教育実践の手引き』を中心にご紹介しました。
○ 地域における防災教育実践の手引き[PDF]|内閣府(防災担当)
また、教員や地域の方、保護者などが防災教育を実施するのをお手伝いするためのサポートツールについても紹介しました。サポートツールについては下記の記事をご覧ください。
[blogcard url=”https://kenyamiyazaki.sakura.ne.jp/blog/archives/1754″]<POINT>
防災教育を実践するうえでは、学校・家庭・地域のキーパーソンと連携することが重要です。準備・実践・継続の3つのステージで、それぞれ大事な点を『地域における防災教育の実践に関する手引き』で確認してください。
模擬授業~2つの教材をトルコ語アレンジで~
「じゃあ、実際の授業のように防災ゲームを体験してみましょう!」ということで、事前にトルコ語に変換していただいた説明資料、ワークシートを用いて2つの教材を使用しました。
★減災アクションカードゲーム|東北大学
減災アクションカードゲームは、東北大学リーディング大学院「グローバル安全学トップリーダー育成プログラム」受講生有志が開発したゲーム形式の思考促進型防災教育教材です。詳しくは こちら をご覧ください。指導のポイントなども紹介されています。
<POINT>
限られた時間のなかでも、災害から自分や周囲の人の安全を守ることができる行動を選べるかどうか、災害の特性(地震・火災・津波等)に応じて行動のポイントを強調すると効果的です。
★目黒巻|東京大学生産技術研究所目黒研究室
目黒巻は災害時の状況を自分自身の問題としてイメージするトレーニングツールです。 公式ワークシートは こちら でダウンロードできます。
今回はすぐに学校等で使えるように、目黒研究室の方にご協力いただいて作成した「授業版」のトルコ語バージョンを用いました。授業版については下記の記事でご覧ください。
[blogcard url=”https://kenyamiyazaki.sakura.ne.jp/blog/archives/460″]トルコ国内で、水曜日の午後2時に日本でいうところの最大震度7の大きな地震が発生した、という想定で、それぞれシミュレーションをしていただき、自分の行動についてお互いに発表してもらいました。
<POINT>
災害状況をシミュレーションすると、自分や他者の防災や災害対応についての理解を知ることができます。学習の入り口やまとめで使うと効果的です。
まとめ~今日のお話、おぼえていてくれますか~
まとめでは、人間がとても忘れやすい生き物であること、特に自分に無関係だと思うことは、1日経過しただけでほとんど忘れてしまうことについてお話しました。
そして、それは残念ながら災害が相次ぐ日本でも例外ではなく、多くの人にとって阪神・淡路大震災や東日本大震災、そしてその教訓が過去のものとなりつつあることをお話しました。
『皆さんは、今日のお話を、明日になってもおぼえていてくれますか?』
自分の生活、誰かの暮らしを想い、大切な”何か”に気付くこと。
大切なものを守るために、どんな小さなことでも行動を起こすこと。
もし理解や協力が得られなくても、諦めずに続けていくこと。
僕は皆さんならきっとそれができると信じています、とお伝えしてまとめさせていただきました。
最後に代表の方から「私たちは、先生の話を明日になってもきっと忘れません」とコメントと一緒にプレゼントもいただきました。
末尾となりますが、研修に参加された皆様、主催及び研修実施に関わられた皆様にこの場を借りて、良き学びの機会と出会いの場をご提供いただきましたことに感謝申し上げます。