地域の福祉ネットワークで「感染症と防災」研修会

都内の社会福祉協議会(以下「社協」)さんにお声がけいただいて、地域住民の方々が集まる福祉関係の定例会の研修会を担当しました。テーマが「感染症と防災」ということで、筆者は医療や保健衛生の専門家ではないのですが、経験則からお伝えできることがあれば、とお話させていただきました。

本稿では要点をまとめてご紹介します。

コロナ禍の住民向け研修会、Zoomが活躍

研修会は、2つの会場をZoomでつないで行われました。オンライン開催と会場型開催を併用し、かつ個人でZoomやスマートフォンなどでの視聴が難しい方でも、気軽に参加できるようになっています。

会場音声のハウリング防止など、技術的な課題もいくつか残りましたが、これからの地域住民向け研修会では、選択肢として増えてくる開催方式ではないかと思います。

なお、主催者側・講師側ともに不慣れな場合は映像や音声がうまく出ないなど、トラブルもあるようです。検討される際はリハーサルなどしっかりと準備されることをお勧めします。

研修の内容

研修内容は次のスライドのとおりです(文字が小さくて見づらい場合は画像をクリックして写真を拡大してください)。

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感染症そのものについては筆者は専門外ですのであまり触れていません。自然災害との違いや、避難所・避難行動、在宅避難等について「個人と地域でどのように備えるか」を中心にお話しました。以下に、講義の要点をまとめます。

いま、私たちが考えるべき防災対策

はじめに新型コロナウイルス感染症と自然災害の主な違いについて、人的被害、社会・経済的被害、暮らしへの影響などで整理・比較して説明しました。特に「暮らしへの影響」がポイントになります。

新型コロナウイルス感染症によって、家や建物、道路などが壊れることはありません。つまり、生活空間である家などは変わらず、ライフスタイル(暮らし方)が変わります。一方で自然災害は、家や建物、道路などを壊してしまう力があります。生活空間そのものを変えなければならない場合があります。

自宅が被害を受けて生活できなくなった方のための、応急的な「生活空間」が避難所です。ただ、災害規模が大きくなれば自宅で生活できない方も多くなり、避難所に人が集まることは避けられません。どんなに感染症対策を講じたとしても、衣食住が一体化するような空間に大勢の人が集まる限り、感染リスクは高い状態になってしまいます。

では、どうすればいいのでしょうか。

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2つのポイントがあります。

ひとつは「生活空間の事前確保」です。簡単に言ってしまえば、予め「避難所以外でもしばらく生活ができるような場所を考えておく、備えておく」ということです。

後述する在宅避難が可能であればそれでも良いのですが、海や川、山や崖の近くなど、台風や豪雨で避難の可能性がある地域にお住まいの方は、在宅避難そのものが命の危険につながることもあります。こうした地域にお住まいの方は、車中泊、親戚・知人、民間施設など「生活空間」の選択肢を増やすことが重要になります。

どうしてもそれらが確保できない場合には公設の避難所(小中学校)に行くようにします。

もうひとつのポイントが「情報の収集と伝達」です。デマや差別などは自然災害でも感染症でも変わらず起きているため、自然災害や感染症についての正しい情報を得ること、言動の結果や行動を考えられる「防災リテラシ」を高めることが必要です。

情報不足が続けば、様々な憶測や混乱につながります。避難所等での情報提供や情報収集の方法について考えておくことも重要です。

避難所での感染症対策は資料も活用して

避難所での感染症対策については、全国災害ボランティア支援ネットワーク(JVOAD)による「新型コロナウイルス避難生活お役立ちサポートブック」に詳しく整理されていますので、こちらをご覧ください。

いろいろなところがいろいろな資料を出されていますが、あれこれ見ても結局どうしたら…と悩まれるかもしれません。個人的には現場の意見が集約されてできている上記冊子がベストではないかと思います。

地域の防災リーダーを対象とした実践訓練

最近では各地でコロナ禍における防災訓練、避難所運営訓練なども実施されはじめています。筆者が企画運営・指導に関わった避難所開設・運営訓練について紹介しました。

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避難所の開設・運営では、避難者の自発的な協力が欠かせません。今回紹介した訓練は、参加者が地域の防災リーダー(65歳以上のシニアの方々、自主防災会長や役員など)の方々ということもあり「班に分かれて、指示ボードの内容に従って活動する」という方法で行いました。

作業指示ボードは感染症対策、避難者受付、物資の整理、就寝スペースの確保、トイレ設置、ボランティア対応等を設置しました。筆者は便宜的に講師という立場でしたが、実際はほとんど指導は行わず、時間を管理していた程度です。

また、スライドに記載のとおり当日は専門学校生の協力を得て、LINEオープンチャットによる情報共有も行いました。こちらについてはまた改めて、記事を書ければと思います。

在宅避難では栄養管理と孤立対策を

個人の備えとしては、在宅避難生活、避難所生活に関わらず「不足しがちな栄養素を補う」ということを強調しました。

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非常食があればよい、と思ってしまいがちですが、食事が偏ったり、栄養素が不足することで体調を崩しやすくなりますし、免疫力の低下など感染症のリスクにもつながります。スライドに記載のとおり、野菜ジュースや野菜スープ、果物缶詰などの備蓄も積極的に行うことをお勧めしています。

また、在宅避難ではプライバシーは守られる分、避難所と違って情報が手に入れにくかったり、助けを求めづらくなったりして孤立化してしまうという課題も想定されます。

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地域の中で在宅避難者の安否確認を行うなどの活動も考えられますが、社協・災害ボランティアセンターと連携することで、市内外の災害ボランティアに協力してもらって在宅避難者への支援を行うということもできます。

研修会では、このお話の後に実際に社協の方から災害ボランティアセンターについて紹介していただきました。

まとめ

感染症と防災対策は、これからの時代の備えとしては外せないキーワードです。多くの市区町村が既に感染症対策用品の備蓄を増やす、新たに取り入れるなどで対策を進めています。それでも物理的に避難所が広くなるということはなく、ひとりひとりの備えが重要であることには変わりません。

本稿が、各家庭や個人、そして地域で備える一助となれば幸いです。

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