都内の「手をつなぐ親の会」でインクルーシブ防災の勉強会 本人・保護者にできることを考える

2023年1月、世田谷区手をつなぐ親の会主催「高等部・教育部合同勉強会 ”みんなで学ぼう!インクルーシブ 防災”」が開催され、講師を担当させていただきました。当日のプログラムや使用した教材、ポイント、参加者の皆さまからの感想等をご紹介します。当日の様子は会の公式ホームページにも掲載されていますので、合わせてご覧ください。

目次

事前のアンケート調査を踏まえて内容を検討

どのような方々からであっても、ご依頼をいただいた際は「これまでにどのような取り組みをされてきたか」や「どんな課題を感じられているか」などをできるだけ詳しくお聞きするようにしています。

今回はご依頼いただいてから勉強会当日まで時間的な余裕がありましたので、事前に会員の皆さんにアンケート調査をお願いしました。アンケートでは当日参加予定の方々を中心に、様々な疑問やご意見が寄せられました。具体的な課題に対する疑問などもありましたので、質問をテーマごとにグループ化(帰宅困難、避難行動、避難所、防災備蓄、マニュアル等)して整理し、それぞれのテーマについて回答を記載、当日の資料として配布もしていただきました。

事前アンケートの質問を項目ごとに整理し、回答を記載して当日配布

例えば「通常の避難所と福祉避難所では何が違うのか」や「こだわりがあったり、視覚や聴覚が過敏な方はどんな備えをしておけばよいか」といったご質問がありました。おおよそのところは上記の資料で回答(薄い黄色の部分)し、詳しくは勉強会の中で、としました(ワークなどやりたいことも多く、なかなかお伝えしきれませんでしたが…)。

「ひとりひとりが取り組む」を意識するため、防災ハンドブックを活用

募集にあたってのチラシにも少し工夫をさせていただきました。

会ではインクルーシブ防災については「ひとりも取り残さない防災」といった意味でも使われていますが、チラシでは「インクルーシブとは、高齢者や障害者など助けが必要な人も一緒にという意味です。」という説明を付けられています。この”一緒に”という部分を、どう保護者として、家族・お子さんのことも考えながら備えていただくかがポイントになります。

「取り残さない」ためには、周囲の人や地域がどうするかということだけでなく、本人・家族も含めて一緒に、ひとりひとりが備えることが不可欠です。

そこで今回は後述する 防災ハンドブックたいむくん(美作大学HP) を使わせていただくことにしました。同ハンドブックについては 全国手をつなぐ育成会連合会の機関誌「手をつなぐ」2021年9月号 でハザードマップの解説についての記事を投稿させていただいた際、同じ号で紹介されていたものです。

ハザードマップについての説明でもご紹介(著作権の都合上、画像はぼかしています)

2023年1月時点ではためし読み等できませんが、関心のある方は お問い合わせフォーム からお知らせください。

「助ける人、助けられる人」という関係性ではなく、ひとりひとりができることを、できる範囲で取り組む(障害当事者も、周囲の人たちも)にはどうしたらいいかを考えてもらえればという想いもあり、下記のようなご案内になりました。

近年は気候変動によるゲリラ豪雨や台風による水害が多く発生し、世田谷区近郊にも警報や注意報が出たのは記憶に新しいところです。今回は、防災教育や被災地支援経験も豊富で、社会福祉士でもある宮﨑賢哉氏をお招きし、基本的な備えから被災時の対応まで「インクルーシブ防災」について講義やグループワークを取り入れて学びます。また、参加者自身が考えながら、それぞれの暮らしに沿ったオリジナルの「防災ハンドブック」も作ります。

https://oyanokai-setagaya.com/assets/uploads/Inclusiv-Bosai.pdf

プログラムと各内容のポイント

当日のプログラムは前半と後半に分け、前半で基礎講義を行い後半にアイスブレイクとワークショップを行い、最後にまとめという構成で行いました。それぞれの内容のポイントを紹介します。

前半 基礎講義

● 災害ボランティアで学んだ「被災する」ということ
● インクルーシブ防災、災害時要配慮者とは
● 被災事例に基づく基本的な防災対策

基礎講義では、被災の多様性や避難生活等で必要なこと、インクルーシブ防災、具体的な備えのポイントなどをご紹介しました。インクルーシブ防災等については以下の記事でもご紹介していますので、併せてご覧ください。

基本的な防災対策では、防災備蓄等を中心にご紹介しましたが、後述のワークショップに取り組んでいただいた際に台風接近時の対応を検討されたグループの方から、避難情報等の違いが分からない、というご質問がありました。この点については反省点で、もう少し丁寧に大雨や台風時の気象情報、避難情報についてご説明できればよかったなと感じています。以下の記事で注意報や警報等についてご紹介しています。

後半 ワークショップ

● アイスブレイク「”私”が手伝ってほしいこと」
● 一緒に「ぼうさいハンドブックたいむくん」をつくろう!

後半は前述した教材「ぼうさいハンドブックたいむくん」を使ったアイスブレイクと、ワークショップを行いました。

まずアイスブレイクでは「こまりごと」を示すためのスペースを使用しました。インクルーシブ防災の説明にもありますがみんなで”一緒に”備えるためには、ひとりひとりにどのような「こまりごと」があるのかを知る、気付くことが大切です。

助けを求める、支援を受ける、上手に頼る力=「受援力」も意識しながら

保護者の視点、あるいは子どもの視点から「災害時に何が困りそうか」「どんなことで支援や周囲の理解を必要としそうか」を考え、他の人に伝えるという練習も兼ねたアイスブレイクです。

続いて災害特性に応じて時系列で対応を考えるワークショップを行いました。各班にそれぞれテーマ(台風、水害、大地震、津波、火災)を設定し、それぞれのテーマについて本人(子ども)にできることやしてほしいこと、保護者としてやることの2つの軸で話し合ってもらいました。

「本人にできることやしてほしいこと」を考えることがとても重要で、それがインクルーシブ防災にもつながってきます。

「本人にできること」も一緒に考えることが重要

+災害ボランティアセンターと連携も

今回の勉強会には せたがや災害ボランティアセンター の方々にもご参加いただきました。災害ボランティアセンターについての説明は下記の記事をご覧ください。

避難所での生活支援や、在宅避難時での様々な困りごとなど、状況によって災害ボランティアの方々(個人だけでなく団体も含めて)が力になってくれます。そのためにも「災害ボランティアセンター」という仕組みがあること、困りごとを抱え込まず、助けを求められる場所があることを知っていただくことも大切です。

短い時間ではありますが、センターのスタッフの方から災害ボランティアセンターやボランティアの取り組みについてもご紹介いただき、ワークショップにもご参加いただきました。

参加された方々の感想(一部)

参加された方々の感想等についてもご提供いただきましたので、一部抜粋してご紹介します。

災害について考える良いきっかけになりました 公助だけを求めるのではなく私達もどう備えるべきか日頃から考えておかなければいけないなあと思いました

自宅で備蓄品を蓄えることや家具転倒防止は意識していますが、日頃から障害児を持つ親が子供と一緒に考えて、自分たちで行動できることがたくさんあるということを知ることができ、将来への安心感にもつながりました。

参加者さん同士での話し合いの時間をもう少し増やして欲しかったです

今回はグループワークがあったので、グループワークの発表時間含めて、もう少し時間があったらと感じました。

とても勉強になりました。配慮が必要な子がいる保護者は日頃から、地域や周囲と連携して、災害・震災の対応にあたることの大切さを痛感しました。

肯定的なご意見では、備えについての意識や、行動について考える良い機会になったという内容をいただきました。課題としては「もっとお互いに話し合う時間が欲しかった」、「他の人の取り組み(備え)を知りたかった」といったご意見をいただきました。

時間としては全体で90分で、持ち時間は75分ほどとなりました。その中で講義・休憩も含めましたので、かなり忙しかったかなと思います。講義の部分をカットすると、今度は具体的な備えの部分が足りなくなってしまいます。しいていえば、導入の部分(心構え的な内容)はカットしても良かったかなというのが反省点です。

全体で2時間ほどあると余裕を持ってできるかもしれません。もし今後、同様の研修を検討される方がおられましたら、参考になれば幸いです。

まとめ ~防災がもっと「わたしにもできる」ことになるように~

インクルーシブ防災には、参加者の方の感想にあるように「自分たちで行動できることがたくさんある」ということに気がついていただくことが大切です。

避難行動のこと、避難所のこと、難しい問題ばかりのように思えてしまいますが、ひとつひとつ丁寧に紐解いていけば「わたしにもできる」ことはたくさんあります。できないこと、難しいことから目を背けることはできませんが「できること・簡単なこと」に、いろいろな人がもって目を向けられると良いですね。

そのあたりをきちんと伝えていくのが、防災教育や普及啓発に関わる者の役割であり、責務なのだと思います。

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