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発達障害と防災~「インクルーシブ防災」実現のために~

本記事は2015年度講座の記事となります。2016年度講座の記事については下記をご覧ください。

きっかけ~発達障害児向けの教材開発協力~

2015年9月、東京女子大学で杉並区発達障害児地域支援講座・発達障害児支援講演会第2回「発達障害と防災」を行いました。同講座は、東京女子大学が杉並区の受託事業として実施しているもので、地域における発達障害児・者の育成を目的として行われています。関連のiPadアプリ開発事業に関わらせていただいていることと、杉並区民であることもあって、今回の講演会を担当させていただくことになりました。

インクルーシブ防災の考え方

冒頭、インクルーシブ防災の考え方についてかんたんなゲームで体験的に理解していただく工夫をしました。一例として、発達障害の方は『急激な環境の変化が苦手で、うまく対応できない方が多い』といった特性があります。ですが、それは発達障害の有無に関わらず、誰でも同じであることを体験していただきました。

災害のように『急激な環境の変化』に対応するのは保護者や支援者も周囲の人も、誰でも難しいのです。つまり、急激な変化をどれだけ抑えられるかということは、発達障害児・者だけでなく、みんなにとって、社会にとって共通の課題だということです。そして、インクルーシブな防災とは、『障害者だから』とか『障害者のための』といった区切りから一歩踏み出し『みんなで備える』社会を創っていく、ということなのです。

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インクルーシブ防災を普及していくうえで外せないのが、2015年の3月に仙台市で開催された第3回国連防災世界会議です。同会議では、仙台宣言と仙台防災行動枠組2015-2030が採択されました。障害者だけでなく、女性や若者など、これまでの防災では充分とは言えなかったステークホルダー(関係者)の防災への参画などが打ち出されました。特に障害分野で強く言われたのがインクルーシブな防災、日本語では「誰も排除されない防災」です。僕は「誰も排除されない」という表現がイマイチ分かりにくいので「みんなで備える防災」と表現しています。当たり前のように聞こえますが、当たり前を当たり前に行うことは、簡単なことではありません。

◆ 第3回国連防災正解会議|内閣府(防災担当)

◆ 第3回国連防災世界会議仙台開催実行委員会活動報告書|仙台市

東日本大震災の教訓

NHKの番組や報道で「障害者の死亡率は2倍」という表現を見聞きされた方も多いことと思います。詳しい調査結果や分析については、下記をご参照ください。

◆ 藤井克徳(2012)『東日本大震災と被災障害者|高い死亡率と生活支援を阻んだ背景に何が、当面の課題を中心に』,障害保健福祉研究情報システム

様々な要素が重なった結果であること、そしてインクルーシブな防災の必要性を改めて示していることを、知らなければなりません。死亡率の相対的な高さは、施設入居率や地域でのサポート、そもそもの防災施策の有効性などが大きく関わっています。細かいことはテキストに記載していますが、”みんなの命を守る”ためには、地域全体での備え、障害や性別、年齢、そして家庭環境などを問わない、みんなで備えることが必要です。

問われた個別的な支援の必要性

東日本大震災は、極めて広い範囲に大きな被害が出ました。従って被災された方の数も多くなりました。当然、その中には高齢者の方、障害をお持ちの方もいます。ですが、行政(広く消防や警察、自衛隊等も含む)の対応は原則として公平・平等に行われます。「津波が来るので逃げてください」という声かけはできても、逃げることのできない方をひとりひとり見てまわることはできません。結果として、避難できずに取り残された方々がいました。

たとえ「災害時要配慮者リスト」に登録していたとしても、個人情報の関係でそのリストの通りに助けてもらえるとは限りませんし、高齢や障害に見合った避難行動の支援が受けられるとも限りません。寝たきりであったり、酸素吸入が必要な方のところに、ヘルパーさんや民生児童委員さんが1人来たとしても、どうにもならない可能性があるのです。助けに向かった支援者自身も、介護している方と共に被災し、亡くなられた事例もありました。

そこで問われたのが【個別支援計画】です。それぞれの状態に見合った、避難行動・支援の計画を予め作って起き、支援関係者で共有しておきましょう、という考え方です。その前提となるのが【災害時の自助】の考え方です。

インクルーシブ防災の必要性が生まれる背景には『防災は行政が行うもの』という、日本人が持つ根本的な考え方というか、姿勢があります。1995年の阪神・淡路大震災以降に【自助・共助・公助】という考え方は広まっていますが、言葉を知っているだけでは、意識は変わらないものです。東日本大震災での教訓を無駄にしないためにも、本当の意味での【自助】の備えが求められています。

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助けを必要とする全ての人への『合理的な配慮』

個別支援計画と共に、課題となったのは【合理的な配慮】という考え方です。先ほど述べたように、行政による支援は原則として公平・平等です。ですが、発達障害など特別な配慮が必要な方がいます。その配慮に応じて何かをプラスする、あるいはマイナスして、調整することが必要となります。その調整を合理的な配慮と呼びます。つまり、その方の生命や生活を守るうえで必要な配慮であり、合理的に考えて認められる特別な配慮、ということです。

例えば、自閉症的な特性の強い方に、静かで一人になれる空間や時間を提供する工夫、授乳スペースや赤ちゃん、小さな子供が集まれる場所などが挙げられます。全体で見れば平等ではないかもしれませんが、その配慮には合理的な根拠が存在します。その理由と実際の配慮を周囲が、あるいは社会が受け入れ、避難所等で配慮されるようになることもまた、インクルーシブ防災のひとつの形です。

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災害と防災対策の基本-3つのLを守る-

次に、具体的に何をどう備えていくべきかについて考えます。『障害とか支援者とか関係なしに、まず誰もが知るべきこと、やるべきことは何か』を中心に考えなければなりません。それを僕は『3つのLを守る、5つのポイント』と整理しています。3つのLとは生命、生活、人生それぞれのことです。

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それぞれのLは歯車のように噛み合っており、どれかひとつでも欠けてしまったら、ほかの2つに影響します。命を守ることは防災の「目的」ではなく「最低条件」です。その後どうするのか、ということも考えることが必要です。

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前述した5つのポイントとは、発達障害児・者に関わらずあらゆる環境の方にとって必要な、安全行動、災害情報、防災グッズ、災害トイレ、生活再建のことです。それぞれについてのヒントは下記の記事も併せてご覧ください。

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発達障害児・者の災害時のこまりごとと備え

3つのLを守る、5つのポイントをきちんと確認していることを前提として、次に発達障害児・者の災害時の困りごとについて考えていきます。発達障害と防災については、様々な資料が公開されており、かなり詳しく言及されているものもあります。そんな数ある資料の中でご紹介するのは、そして活用させていただくのは、東京女子大学の前川あさみ先生による「発達障害と災害」です。

◆ 災害時の発達障害児・者の支援について(国立障害者リハビリテーションセンター)

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なぜこの冊子をご紹介するかというと、具体的なシチュエーションが記載されていることです。発達障害児・者の防災において、もっとも配慮しなければならないのは、それぞれの個性や特性に合わせた備えが必要だということです。そして、個性や特性は、特定のシチュエーションにおいて強く現れます。つまり「こういう備えをしましょう」という一般論が通じないこともある、ということです。

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家族・支援者は本人と一緒に具体的な想像をしてみよう

それぞれの個性や特性に応じた「この子(人)はこういう場面の時こういう行動をとるかもしれないから、こういう備えをしておこう」という、具体的な想定が重要だということです。具体的な想定をするためには、災害時の時系列を考慮したシミュレーションが有効です。下記の記事から備えに活用できる教材をダウンロードできます。もし、具体的なシチュエーション想定で心配なこと、不安なことがあれば遠慮なくお問い合わせください。

情熱と不屈の精神
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情熱と不屈の精神
https://kenyamiyazaki.com/archive/460
いま、ひとりひとりにできることを。
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すき・きらい、やりたい・やりたくない、などの確認を

「起きてもいないことを想像なんてできない」という場合もありますので、家族・支援者がシミュレーションしたなかで特に課題になりそうなポイントについて「すき・きらい」、「やりたい・やりたくない」などを個別に確認してみましょう。「すき」なモノやコトがあれば、被災後もできるだけ継続できるようにします。「やりたくない」ポイントについては、できるだけそうならないような備え(防災グッズやサービスの利用等)が必要です。

状況別の本人と支援者の備え

リーフレットの事例を参考に、具体的なシチュエーション別の備えを、本人と支援者に分けて考えていただきました。一部テキストから抜粋したものをご紹介します。全文はテキストに掲載しています。

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ちょっとした工夫をひとつご紹介します。ほとんどの学校(避難所)には当然ですが椅子や机があります。椅子もしくはダンボールを切り抜くなどでも構いませんが、それにお気に入りのタオルケットや毛布などをかけて応急的な「プライベートスペース・ひみつきち」を作ることができます。写真は撮影用に背面を開けていますが、椅子やダンボールのサイズによって上からバサッとかけるだけで子どもなら上半身全部、大人でも肩から上くらいが隠れます。中にはケミカルライト(ポキッとと折ると光る)やLEDライトなど、本人が好む灯りを必要に応じて入れておきます。特にケミカルライトは光量や色が幅広く、優しい明るさなのでオススメです。

◆ 株式会社ルミカ「ルミカライト」

※電源コードを使うもの、熱を発するもの(ろうそくなど)は火災の危険があるため厳禁です。また、まわりが見えなくなるので家族や支援者などが近くにいる時にしてください。

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暗所・閉所が苦手だと使えませんが、もしそうでなければ頭がすっぽり隠れるだけで想像以上に安心感があります。避難所などでどうしても落ち着かないときは、発達障害の有無に関わらずやってみてください。普段から遊びとして行っておくと、災害時でも不安が和らぎます。

ICTを用いた防災教育と支援

講演では実演としてICTを用いた防災教育と支援についてもご紹介させていただきました。関連するiPadアプリを4つ、実際に参加者の方々に体験していただきました。それぞれについて簡単に紹介します。全てAppストアに公開されていますので、iPadをお持ちの方はぜひ体験してみてください。発達障害児を対象としていますが、誰でも役立つ場面のあるアプリです。併せて下記の記事もご参照ください。

まもるリュック

まもるリュックは、災害時に必要な備えについて確認できるアプリです。起動すると、防災リュック・じぶんのこと・できるできないなどの項目が出てきます。それぞれをタップ(ポンとかるくたたく)すると、場面などに応じて入力できます。たとえば「防災リュック」だと、【気持ちが安心できるもの】【災害から命を守るためのもの】などが出てきます。

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まるばつクイズメーカー

まるばつクイズメーカーは、その名のとおりまるばつクイズをつくることができます。児童生徒が学びやすいようにイラストを使ったり、何度も楽しめるように設問やルートをアレンジすることもできます。また、他の人が作ったクイズ(テンプレート)を共有することもできます。「こういうときはこうして欲しい」という具体的なことを、学ばせるときに役立ちます。

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バウンドボックス

バウンドボックスは「同じ作業をずっと繰り返していられる」ゲームです。いつ終わるか分からない待ち時間や、何もできることがないときなど、発達障害児・者に大きなストレスになるような災害時の場面で役立ちます。また、出てくるボックスを防災グッズに変えて学習したり、自分が好きなものの写真だけを使って、好きなものが出てくるのを楽しむこともできます。

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すききらいカメラ

すききらいカメラは、避難所等でも役立つアプリです。予め、すきなものやきらいなものをカメラで撮影しておき、必要に応じて「すき・きらい・わからない」などで示すことができます。自分がやって欲しいこと、してほしくないこと、よくわからないことなどを、うまく言葉で表現できないときに役立ちます。

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インクルーシブ防災実現のために

防災は「それをすることが理想的であることは分かっているけれど、どうすればそれができるか分からない」ものかもしれません。ある人にとっては「(自分には)関係ないことなのだから、なんでそれをしなければいけないのか分からない」かもしれません。またある人にとっては「一応やり始めたけど、他にやりたいことができて途中でやめた」のかもしれません。

それらは発達障害児・者の方が、日々さまざまな場面で感じている「難しさ」と共通します。「みんなで備える」ことができるようになるためには、細かい知識やノウハウ以上に、その前提となる。「守るべきものの価値」について知ることが必要です。本当に守りたいもの、大切にしたいこと、災害で失いたくないものは何かを改めて考えることが求められています。

難しいテーマですが、それができる社会になったとき、私たちの暮らす社会は確実に「誰もが生きやすい」社会に近づいているはずです。そのために、ひとりひとりが行動することが必要ですし、僕自身も率先して発達障害児・者、支援者、そして全ての人たちのために、できることをしていきます。

9月1日防災の日と防災ブック「東京防災」配付開始

【報告】EDUPEDIAとみんなで考える防災教育2015〜防災教育とアクティブ・ラーニング〜

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