プリントだけで防災教育シリーズ『災害時のコミュニケーションを学ぼう』

この教材は 内閣府(防災担当)ホームページでも紹介されている災害対応カードゲーム「クロスロード」 を参考に、中学校の先生と一緒に作成したものです。

教材セットには指導者用説明資料として、筆者が災害救援ボランティアとして被災現場で活動した際の教訓を基にした災害情報収集・伝達とコミュニケーションに関する説明用のスライドを同梱しています。ワークブック、振り返りシートもセットになっていますので、適宜ご活用ください。

注意事項(対象や事前指導について)

本教材、及び災害対応カードゲーム「クロスロード」について、個人的には中高生以上、かつある程度学習が進んだ段階での利用をおすすめしています。

小学校以下の防災教育の場面では、その時点で考えられる状況別の正解、正しい知識や理解を身につけることを優先したほうがよいと思います。中高生以上であっても、関連する知識を身につけてからのほうがスムーズです。

筆者が都立高校の授業で使用する場合も、自然災害全般、国や地方自治体による防災対策の仕組みなどを授業で扱ったうえで、本教材やクロスロードを使用しています。

災害時の判断とコミュニケーションを学ぼう

生徒、保護者、地域住民、教職員など、立場や環境に関わらず私たちは災害が発生したときは様々な情報をふまえて判断し、誰かとコミュニケーションをとります。本教材では、そうした判断や他者とのコミュニケーションで大事なポイントについてゲーム型式で学べます。

“正解がたくさんある”問いと向き合うために

防災教育や災害対応の難しさは「正解がたくさんある」が、どれかを選ばなければならない時があるという点です。

僕はよくお菓子の「きのこの山」と「たけのこの里」を例に出します。どちらが好きか聞くと、意見が分かれます。「どちらが好きか」で全体に意見を聞くと「きのこ派」「たけのこ派」に分かれます。でも、きのこの山が好きだから、たけのこの里が嫌いというわけではありませんし、逆も同じです。

チョコのボリューム感やクッキー部分の食感、形など「好きの理由」は様々です。これはいずれも「正解」と言えます。人の数だけ正解があります。

  • 人には人それぞれの価値観、考え方がある。
  • 自分とは違う意見だから”間違っている”わけではない。

この点を伝えてから、次のステップに進みます。

何かを「選択しなければならない」ときは

お菓子の話なら「お互いにどこが好き」で終わってもよいのですのが、授業のテーマは「災害時の判断やコミュニケーション」です。なので、生徒にも理解しやすい代表的な例を挙げてみます。

「体育館が避難所になっているとき、救援物資のお弁当が届きました。でも、お弁当の数が足りません。避難所の運営は、避難されている人たち自身が行っています。ある人は、傷んでしまうから足りなくてもすぐ配ろうと言いました。ある人は足りないと取り合いになって大変だから、足りないうちは配らないほうがいいと言いました。どうしたらいいと思いますか。」

いろいろな意見が出てきますが、こうした場面では最終的に関係者でよく話し合い「配る」か「配らない」かを選択する必要があります。中高生が避難所運営の意思決定に関わる場面は限られるため、リーダーに委ねる(誰かに決めてもらう)ことも考えられますが、それもひとつの選択です。

  • 何か解決をしなければならないときは、具体的な行動(自分はどうするか)を決めなければならないときがある。

この点を伝えてから、最後のステップ、行動(YES/NOの選択)のヒントについて紹介します。

判断や行動の結果を想像して”決める”

この教材では、正答のない問いを他者と話し合いながら考え、結論を導くという過程を経験してもらいます。

その結論はどんな結果につながるのかを、班の中や個人で「想像=シミュレーション」してもらいます。自分(たち)の行動の結果を想像しながら、問いに取り組むという過程を経験することが、学習成果につながります。

だからこそ最初のステップで紹介したように、事前に「想像ができる」知識や理解が重要になります。

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(授業での生徒による発表の様子)

教材セットについて

教材セットについては、現在利用方法も含めてご案内させていただくため、個別に対応しております。お手数ですがご希望の方は お問合せフォーム よりご連絡ください。

▼教材セットに含まれるもの)
・ワークブック
・学習振り返りシート
・指導者用参考資料スライド
・はじめにお読みください

活用方法

  1. 班ごとにワークシートをランダムで配布して話し合い中心に行う。
  2. ひとりひとりにワークシートを配布して、自分の考えをまとめてもらう。
  3. 夏休み前などに配付して、テーマに関して過去の災害事例などから調べ学習をしてもらう。
  4. 宿題として配付して、家族や友人などから意見を聞く。
  5. 全校集会の場でスライドや講話のなかで活用する。

事例紹介「ある小学校での議論」

筆者が何度か研修等でご一緒した、東日本大震災発災(当時)時、校長先生だった方は冒頭の「答えが分からない問題」に直面されたそうです。校長先生ご自身は関東圏の出身で「校舎の上に逃げる」ことを考えており、マニュアルもそのようにしていたそうですが、地元出身の先生たちは「高台への避難」を強く意見したそうです。

そこで「最終的な判断は校長が行う」と決めたすぐ後に、東日本大震災が起きました。校長先生は、あまりの揺れの大きさから、自分のこれまでの考えやマニュアルを捨て「高台へ逃げる」ことを選択しました。そして、その決断に先生や生徒も従いました。結果として帰宅していた生徒と、教員1名が犠牲となってしまいましたが、それ以外の生徒や教員は助かりました。

事前の備えにおいてもコミュニケーションは大切です。でも、その場になったら状況を判断して考える力、それを他の人に伝えて理解してもらう力が、いかに大切であることが分かるエピソードです。

プリントだけで防災教育シリーズについて

『プリントだけで防災教育シリーズ』は、様々な防災教育実践やサポートをさせていただく過程で得た教訓をもとに開発した、データを印刷するだけで使える教材シリーズです。公開する教材は必ず実践経験を踏まえており、プリントに従って作業すれば一定の学習成果があることを確認していますが、全ての学校・地域・生徒において学習成果を保証するものではありません。

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