所属団体で『防災ゲームDay』というイベントを2016年、2017年と開催しました。2017年のレポートも団体ホームページでアップしていますので、ご覧いただければ幸いです。本記事では、防災ゲームDayを企画・開催した想いをまとめさせていただきました。
◯ 防災ゲームDay2017inそなエリア東京開催レポート – 一般社団法人防災教育普及協会
子どものお出かけ先で、こんのひとみさん作の『いつもいっしょに』という本に出会いました。本稿とも関係しますので、あらすじをご紹介します。
ひとりぼっちでいたくまのところに、やってきたうさぎ。くまはごはんをつくったり、いっしょにねたり、あそんだり。うさぎがいることで、いつもの生活がとても楽しくなりました。
でも、うさぎはいつもニコニコするだけで、何も話してくれません。不安になったくまはつい大きな声を出してしまいます。ウサギはポロポロ泣いてしまいました。
翌朝くまが起きるとうさぎはいませんでした。くまはまたひとりぼっちです。「うさぎがいてくれるだけで楽しかったのに、なんであんなことを言ってしまったんだろう…」くまはたくさん泣きました。
自分の泣き声で目を覚ましたくまの横にはうさぎが眠っていました。「ゆめだったんだ…!」くまはうさぎを、ぎゅっと抱きしめました。あつい涙がポロポロとおちました。
子どもから大人まで、みんなに大切なことが伝わる、とてもよいお話です。絵もかわいらしくて素敵なので、ぜひ絵本でご覧になってください。では、本論に入ります。
防災ゲームを使ってみようと思う方へ
下記の記事で紹介しているように、防災ゲーム(以下、本記事ではゲームに「教材」や「プログラム」も含みます)にはたくさんの種類があります。
[blogcard url=”https://note.com/kenyamiyazaki/n/nb18f31977995?magazine_key=mce01256793fe”]どれも楽しく、また実践的に防災について学ぶことができるものばかりですが、これから防災ゲームを使ってみようと思っている方へぜひ、考えていただきたいことがあります。
“誰のために”と”何のために”を忘れずに
防災ゲームのメリットは、特別な知識や技術がなくともすぐに使えるという点です。逆に言えば「何も知らなくても、考えなくても」できてしまうということです。他の記事でも繰り返し書いていますが「手段と目的を混同しない」ことが重要です。防災ゲームは手段であって、目的ではありません。誰のために、何のために防災ゲームを使うのか、本当にそれが適切な選択なのか、他に方法はないのか、といった点について考えておくようにします。
家族に作る手料理に例えるなら「自分が食べたいものを作る」のではなく「家族の健康や好みを考えて作る」ということですね。
高いもの=良いものとは限らない
防災ゲームには市販されているものも多いです。かなり高めの価格設定のゲームもあります。価格が高いほど、ゲームで使う用品のクオリティは高くなります。気をつけなければならないのは「高いもの=良いもの」とは限らないという点です。しっかりと作り込まれているゲームほど、適切に扱うためには相応の知識や技術、経験が必要になる場合があります。
予算があるからと高価な防災ゲームを大量に購入したものの、うまく使いこなせずにお蔵入り…なんてことにならないようにしなければなりません。逆に「予算がないから、教材が買えないからできない」というものでもありません。その防災ゲームが伝えようとしていること、コンセプトさえ理解すれば、必ずしも高価な教材を購入する必要はないはずです。手間と時間はかかるかもしれませんが、やりようはあります。
家族に作る手料理に例えるなら「高い食材ばかり使うだけで美味しくはならない」ということです。家族が喜んでくれるかどうかは、食材の値段が決めるものではありません(まぁ、何でもいいから高級食材が食べたいという方もいらっしゃるかもですが…それはそれとして)。”誰のために”を真剣に考えれば、スーパーの特売品や冷蔵庫の余り物だって、素晴らしい料理に変えられます。
(廃材と持ち寄りクレヨンで作った避難所パーテーション。モノは使いよう。)
「失敗」を恐れないで
誰にだって「はじめて」はあります。防災ゲームの取り扱いにせよ、家族に作る手料理にせよ、最初から完璧にやろうと思っても難しいです。何度やっていても時には失敗してしまうこと、うまくできないことだってあります。大事なことはその失敗を教訓として、次に活かしていくことです。失敗を恐れてばかりいては、いつまでたっても実行することはできません。
誰のために、何のためにをよく考えること。防災ゲームの「値段」や「評価」ではなく「伝えたいこと」を見極めること。それらを踏まえて、失敗を恐れずに挑戦すること。この3点を防災ゲームを使いたいと思っている方にはぜひ、知っていただきたいです。
防災ゲームを作りたい、使って欲しいという方へ
次は防災ゲームの製作者、あるいはファシリテーターとして活動されている方にぜひ知っておいていただきたいことをまとめてみます。
作り込みと自由度のバランスを考える
コンピューターゲーム(プレイステーションやXbox、パソコンで遊ぶゲーム等)には初期の「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」に代表される「プレイヤーも敵も弱いところから始まり、シナリオの進行に従って次に行く場所が指定され、プレイヤーの成長と共に敵も強くなって最後にボスを倒してクリアする」という『リニア(直線的)型』のゲームスタイルがあります。一方で、近年のゲーム機器の性能の向上に伴い『オープンワールド型』というゲームスタイルも増えています。簡単に言えば、プレイヤーがゲーム中の広大なマップを自由に動き回って遊ぶことができるゲームのことです。メインシナリオはありますが、クリアするシナリオの順番に制限がなかったり、ゲーム序盤からいきなり強敵に挑戦することができるゲームもあります。
どちらが良い悪いということではなく、防災ゲームにおいても「シナリオに沿って進める」ことを重視するのか「自分で考える」ことを重視するのかは、ゲームデザインやファシリテートの中心になる、ということです。
大雑把に言えば、前者はプレイヤー全員が同じ到達点に行くことを目指します。学びの到達点は平均的になります。後者は個々のプレイヤーがそれぞれ何らかの気付き、学びを得ることを目指します。学びの到達点は最低限は平均化するものの、個人差は大きいです(大きくしている)。
どちらも一長一短はあると思います。シナリオ重視にすれば、学ぶことは明確になる代わりに考えや発言はシナリオによってある程度制限せざるを得なくなります。自由度重視にすれば、シナリオによる制限が少なく自由に考え発言できる代わりに、何をすればよいかが分からずに学ぶことが漠然となってしまう場合があります。
作り込みと自由度のバランスをどのように取って作成、指導していくかが、効果的な防災ゲームづくりと実践のポイントです。
世に出す以上は使い方も評価も相手次第
特にシナリオ重視の『リニア型』防災ゲーム(趣旨が明確で●●を学ぶためのゲーム、といったタイプのもの)について、作者の意図とは異なる使い方がされる場合もあります。ただ、防災ゲームを世に出して、誰もが使えるようにした以上、それをどう使うか、どう評価するかは相手次第です。作者がどうしても「自分の意図したとおりに使われないとイヤだ」というなら、自分でやるか、思い通りに教えてくれる人を育てていくかしかありません。
作者が意図しているやり方とは異なる方法で防災ゲームが使われることを否定するのではなく、意図しない方法で使われることも想定したうえで、学べることに大幅なブレは起きないように設計していくことのほうが重要ではないでしょうか。
料理のレシピに書かれた分量と手順は、その料理にとっての「最適解」なのかもしれません。ですが、味付けや固さ柔らかさの好みなどは、「食べる人」によって個人差があります。そのバランスはレシピの作者ではなく、レシピを見て「作る人」が食べて欲しい人のことを考えて調整するものです。
謎かけの「ココロ」は…
知識や技術、必要なお金や時間、それは大した問題ではありません。防災ゲームも家族に作る手料理も「良い結果」を導くためには、誰のためにするのか、何のためにするのか。自分はどうしたくて、相手はどうして欲しいのか。相手を想う気持ちのほうが重要だと考えています。
知識や技術が足りなければ失敗するかもしれません。ですが防災教育にしても家族に作る手料理にしても”継続”することが肝心です。
諦めずに継続していくために必要なものは「続けよう」という気持ちです。そして続けようと思わせてくれる相手の存在です。
冒頭のくまにとってうさぎがそうであったように、皆さんにとって身近で大切な「うさぎ」は誰でしょうか。くまはうさぎが何かしてくれたから楽しかったのでしょうか。うさぎがくまと一緒にいたのは、くまが料理上手だったからでしょうか。
防災教育の対象も、手料理を作りたいと想う相手(もちろん、家族だけではありません)も「明日の朝起きたらいなくなっていた」となるかもしれません。それが事故や災害、人の命というものです。今日防災について伝えられたから、今晩の夕食を作ることができたから、明日も同じようにできるとは限らないのです。相手を想えばこそどちらも”継続”が大事というのは、そうした意味も含んでいます。
防災ゲームとかけて、家族に作る手料理と解く。そのココロは…
『上手い下手より 相手を想う 気持ちが大事』。
細かいことは気にせずに、やってみたらいいんです。やらなきゃいつまでたっても上手くはなりません。大切な誰かのために何かをしよう、その気持ちを大切にしながら続けていれば、きっと「良い結果」につながるはずです。ぜひ、防災ゲームを使った実践に取り組んでみてください。