2018年、2019年と横浜市民防災センター様からのご依頼で『防センアカデミー』を担当させていただいています。テーマは『要援護者支援』ですが、本稿では、2019年8月に実施した講座の内容を中心に、ご依頼いただいた経緯や、どんなプログラムを実施しているかなどをご紹介します。
★次回は2019年12月12日(木)9:30-12:00です。
「要援護者支援」はむずかしい!?
防センアカデミーでは、これまでも要援護者支援をテーマとした講座で具体的な取り組み事例など、実践的な内容を紹介されていたそうです。一方で、参加される方の地域や個人レベルでの実施が難しいと感じられることも多かったようです。
たしかに要援護者支援と聞くと、例えば津波の危険地域で、介護が必要な方をどうやって避難させるか、といった難しい課題がイメージされます。
そうした難題の解決策も何らかの形で講じなけれなりません。ただ、全ての「要援護者支援」が”むずかしい”ことなのか、というとそうでもないと思うのです。
「困難は分割せよ」ルロイ修道士の言葉から
「困難は分割せよ」とは、井上ひさしさんの「握手」というお話の登場人物、ルロイ修道士の言葉です。難しい課題にそのままぶつかるのではなく、細かく分割し、できることから向き合うという意味です。講座でも、冒頭に紹介しています。
要援護者支援という課題はどのように分割できるでしょうか。法律や制度設計の視点。福祉の専門家やネットワークの視点。施設やサービス提供者の視点。地域の防災活動の視点。いろいろな視点から分割することができますが、いちばん身近な視点は「自分がどう受け止め、関わっていくか」という個人の視点です。
そこでテーマのサブタイトルを「イザのいう時に助け合う〜みんなで考える要援護者支援〜とし、要援護者支援を自分に関係のあることに感じてもらえるよう、ひとつ30分程度で体験できる防災ゲームやプログラムを行うことにしました。
3つのゲーム・プログラム
実施した3つのゲーム・プログラムは次のとおりです。
みんなの”ちがい”を知るゲーム
こちらのゲームは、みえ防災市民会議による被災疑似体験ワーク『SaTa-Sen』をベースにして、アイスブレイクも兼ねて行いました。
- A4の白紙に自分の名前と「今の生活(くらし)でいちばん大切にしている人・物・○○(趣味など何でもよい)」を1つと、その理由を書く。
- 書いたA4の用紙を他の人に見せながら、自己紹介をする。
- 地域で想定される災害のイメージ写真を見てもらう。
- もし、大きな災害が起きて、紙に書いた「大切な何か」が失われたり、二度とできなくなってしまったらどんな気持ちになるか、どんな支援や声かけをしてほしいかを想像し、班の中で話し合ってもらう。
このゲームのポイント!
『 くらしの中で大切にしたいものは、みんな”ちがい”、みんなにあります。自分で何でもできる人にも、日頃から障がい等で誰かの支援が欠かせない人にも。高齢者、障害者、外国人など、ひとくくりにせず、その人が何を大切にしているか、そして何で困っているかに向き合うことが、要援護者支援のはじめの一歩です。 』
環境や条件の”ちがい”を知るゲーム
こちらのゲームは、一般的な障がい者疑似体験ツール等と、横浜市民防災センターの模擬体験施設を併用したプログラムです。
★注意★アイマスク、イヤーパッド、車椅子、妊婦体験キット等を使用しますが、これらはあくまで一時的な疑似体験であり、日常生活での状況を体験できるわけではありません。もし類似のプログラムを行う場合は、その点をしっかりと強調してください。
- 参加者を1チーム3~4人くらいに分ける。
- 2チーム(A/Bなど)で1組として、Aが疑似体験キットを着用し、Bは家族や支援者という立場で一緒に模擬体験エリアに入る。
- 模擬体験エリア(一般的な2階建て家屋のリビングルームを想定した部屋、写真)で着席し、会話したりして日頃の生活をイメージする。
- 何らかの災害(地震+火事、床上浸水、土砂災害)が発生するので、適切な安全行動をとる。
- 他の参加者や指導員は、外部モニターで部屋の様子を確認し、終了後に参加者へのコメントをする。
このゲームのポイント!
『 妊婦さんがすばやく机の下に入る、すぐに出てくるのが難しい、視覚障害や聴覚障害があると、周囲の状況を把握しづらい、車椅子の人は狭い玄関等から出にくい。なんとなくイメージしていることも、一時的とはいえ実際に体験するとより具体的な課題として感じられます。その体験が自分にできることを考えるきっかけとなります。』
ひとりひとりにできることの”ちがい”を知るゲーム
最後のゲーム(ワークショップ)は、多くの人にとってイメージしやすい災害時のトイレをテーマに「自分にできること」を具体的に考えます。教材は本ブログでもご紹介している『災害時のトイレアクションを学ぼう』を使用しました。
[blogcard url=”https://kenyamiyazaki.sakura.ne.jp/blog/archives/922″]- ワークシートを配布する。
- 5枚のカード(支援を必要とする方々)から1枚を選ぶ。
- 2.の方々が災害時のトイレで困ることをなるべくたくさん書き出す。
- 3.に基づいて、自分にできること=災害時のトイレアクションを考える。
- 班の中でお互いに発表する。
このゲームのポイント!
『 普段から配慮が必要な方も、そうでない方も、災害時のトイレは共通の課題になります。このワークでは、もし目の前に困っている人がいたらどうすのかを想像し、どんな小さなことでも良いので、具体的な行動(アクション)を考えてもらいました。あとは、実行するだけです。』
まとめ~知る・気付く・考える・行動する
本研修には小学生とその保護者も2組参加してくれました。どちらの小学生も3つのプログラムを実際に体験し、自分の言葉で意見を述べてくれました。
災害時の要援護者支援を「私には難しい」という問題から「私にもできることがある」ことへと変えていくために【知る=どんな課題があるかを学ぶ】、【気付く=誰もが要援護者となり得ること、個人の問題ではなく環境の問題であることを体験的に理解する】、【考える=どんなに小さなことでも良いので、課題の解決策を考える】、【行動する=考えたことを実行する】という4つのステップでお伝えしました。
各プログラムは個別に行うこともできますので、学校・家庭・地域の防災教育等でご活用いただければ幸いです。使用した資料・教材やスライド等をご希望の方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。