母校の立正大学で『災害時の食とトイレ』をテーマとした防災教室を担当しました。企画・運営は社会福祉学部ボランティア活動推進センターと学生スタッフの皆さんです。復興支援ボランティアに関わった学生の要望もあっての開催でした。
- 立正大学で防災教室、災害時の食とトイレを学ぶ |防災教育普及協会
- 社会福祉学部ボランティア活動推進センター |立正大学
本記事では実施の経緯や防災教室での内容、関連資料などについてご紹介します。
広いキャンパスと在学中のつながりが活きる
ボランティアセンターから「実際の試食や炊き出しを含めた防災教室を実施したい」というご依頼を受けて、プログラムについて検討しました。非常食の試食は色々なところで体験できますが、炊き出しについては直火を使用するため、実施できる場面が限られます。
幸い、立正大学熊谷キャンパスは直火を使用することが可能なスペースがありました。何より、筆者自身が在学中にオイルパンを使った初期消火訓練(燃料に着火し、粉末消火器を使って行う訓練。安全管理や実施中の煙、粉末のこともあって通常学内で行う訓練ではありません)を企画・実施しています。
その時に対応していただいた職員の方に、今回の企画もサポートしていただき、実際に火を使った作業や消火訓練を取り入れることができました。余談になるかもしれませんが、復興支援や防災に関わる大学生の皆さんにはぜひ、職員の方々とのコミュニケーションや信頼関係も大事にしていただきたいなと思います。
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テーマは「災害時の食とトイレ」
初日は座学講義と実技です。冒頭に、在学中に経験した被災地支援活動のうち、水俣水害と新潟県中越大震災での事例についてお話しました。被災地での体験談や写真を紹介することはなるべく避けているのですが、今回はOBとしての経験談ということで特別に取り入れました。要点のみご紹介します。
体験談①「元通りにはならない」ことの意味を知る
水俣水害では家族を亡くされた方との出会いがありました。それまで「災害が起きたら現場に行く」ことが重要だと考えていましたが、改めて「大切な人を亡くした方の日常は、どんなにボランティアが頑張っても元通りにはならないのだ」ということ、そして「当たり前の日常を守ることの大切さ」を感じました。大学に戻り、元々立ち上げていた「災害救援ボランティアサークル」を「防災ボランティアサークル」に変えていくきっかけとなりました。その時の経験が、今の防災教育活動や災害ボランティア育成といった「平時の防災力を高める」活動の原動力となっています。
体験談②食事の価値と意味を知る
被災地では近隣から地域の方々も駆けつけ、ボランティア向けの炊き出しをしてくれたこともありました。現地滞在中にはしっかりとした食事も提供され、一人暮らしをしていた当時学生の筆者からすれば、むしろきちんと食べられたくらいです。ただ、新潟県中越大震災でもそうでしたが、昼食などは黄色い箱の某携行食で済ませることも多かったです。
決して食べやすいものではなく、現場の雰囲気や空気の記憶と重なって、現地から戻ってからは黄色い箱の携行食を見ることすらしんどくなりました。10年以上経った今も、同種のものも含めてあまり食べる気にはなれません。「被災地なんだから腹に入れば何でもいい」と思っていましたし、そう思っている方も多いかもしれませんが、災害時だからこそ「温かい、おいしい」と感じられる食事は大切だと感じました。被災された方はもちろんですが、ボランティアも同様です。食事を抜いたり、偏った食生活を続ければ、必ず影響が出ますし、それは作業の集中力や継続力につながってきます。
体験談③”トイレ掃除マネジメント”の必要性を知る
新潟県中越大震災のときは被災地におけるトイレ問題にボランティアの目線で直面しました。それは「仮設トイレは設置されるが、掃除・回収が間に合わない」ということです。正確には「掃除・回収に必要な情報が整理・伝達されていない」ということです。
筆者が担当した『トイレ清掃隊』では、トイレ清掃と同時並行で仮設トイレの設置箇所を地図に落とし込み、各トイレに清掃日時や使用状況などをメモで貼り付け、円滑な汚物回収・清掃作業の手順を整える作業を行いました。『トイレ掃除マネジメント』が必要であることを実感しました。
体験・経験を踏まえてのポイント
上記の体験談を踏まえて、災害時に欠かせない食事とトイレについての講義を行いました。それぞれのポイントについてご紹介します。
災害直後に困ったこと、必要だったこと
東日本大震災や他の災害において、直後に困ったことや必要だったことは概ね共通しています(下記参照)。今回はこのうち食料、飲料水の問題について触れます。
- 着替え(衣類)、靴、長靴(捜索用)※津波、水害時は特に
- 暖房器具(ストーブ、燃料等)、防寒具、毛布 ※冬季は特に
- 照明(ろうそく、懐中電灯・電池)、車のライトなども
- 食料(備蓄の不足、ラストワンマイル問題※後述)
- 飲料水(給水があっても受け取るタンクが必要、給水車が遅れる)
- ミルク、紙おむつ、女性用品、介護用品など
- 仮設トイレ、簡易トイレ
- 医薬品(病院でも不足、納品が遅れる)
- 車、ガソリン
- 睡眠、お風呂、授乳などプライバシーと生活環境の確保
- 心のケア
炊き出しの状況と課題
災害食の専門家である奥田和子氏による調査では、平成28年熊本地震における炊き出しでは昼食・夕食に麺類が提供されることが最も多く、次いで夕食にご飯ものが提供されることが多くなっています。ご飯・麺類だけで全体のおよそ30%となっています。麺類の提供が多いことはいろいろな要因が考えられますが、ひとつは『炊き出しは提供直前に煮沸以上の加熱調理をすること』という基本原則、もうひとつが『老若男女が食べやすい』ということがあると思います。
一方で野菜系のおかずは全体のおよそ3%に留まっており、炊き出しで野菜を摂取することは極めて難しいということです。これは、前述の要因と比較すれば分かりやすいのですが『まとまった量を加熱調理することが難しい』、『好き嫌いが多い』といった点が影響していると思われます。
炊き出しで難しいとはいえ、栄養価的には野菜が必要であることは間違いありません。麺類やご飯などと一緒に野菜をとれるような調理や、フリーズドライなどを有効に活用することが必要となります。
詳しくは、奥田氏の著書をご覧ください。
備蓄と救援物資の課題と備え(別記事含む)
災害時の食事やトイレに関係する「備蓄」は自治体が用意しているものや、全国からの「救援物資」で何とかなるのではないか、と思われるかもしれません。ただ、どちらにも課題が残されています。
まず自治体で用意している「備蓄」については、都道府県・市区町村ともに一定数を用意されていますが、その品目や内訳については自治体によってかなりの差があります。特にミルクやおむつ、女性や介護をされている方に必要なもの、ペットに関するものは、過去のいずれの災害においても不足しがちです。
「救援物資」についてはTwitterやfacebookといったSNSの普及によって、行政・自治体レベルだけでなく個人や団体間での支援も迅速に行われるようになりましたが、それでも課題となるが「ラストワンマイル問題」です。大量の救援物資があったとしても、それを運ぶための道路、車両・ドライバー、受け手側の荷降ろし・荷捌きの人員や保管場所などの課題で「あと一歩」のところで被災された方に届かないという事態が被災地で起きています。
人と防災未来センターの研修資料で詳細を確認できます。
● 物流事業者からみた災害ロジスティクス|人と防災未来センター
こうした状況を踏まえた災害時の備蓄・在宅避難、及びトイレの備えについては、別記事を作成・紹介していますので、そちらをご覧いただければ幸いです。
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初日実技「ダンボールトイレを作ってみよう」
講義の後、ダンボールトイレの作り方と携帯トイレの使い方について実際に作業をしてもらいました。作業そのものは珍しい取り組みではありませんが、実際に作業をしてみると普段つかっているトイレの形状、便器・便座の大きさ、機能について考えるきっかけとして取り組んでもらいました。
災害用トイレについては下記のサイトが非常に参考になりますので、ぜひ一度ご覧ください。各種トイレの備え方や携帯トイレなども紹介されています。
- 災害用トイレガイド | 日本トイレ研究所
2日目実践①「身近にあるもので炊き出し訓練」
2日目はキャンパス内のオープンスペースで炊き出し訓練を行いました。空き缶コンロでの煮沸や専用のビニール袋を使った炊飯などを体験してもらいました。なお、同訓練には筆者の家族も参加させてもらいました。3歳の長男は、参加者が作ってくれたそうめんをきれいに食べきりました。ご飯はいつも食べているのと違ったようであまり箸は進まなかったようです。こうしたことからも「炊き出し」で麺類が多いことの理由が見えてきます。
- 【寒さ対策】 温かくて明るくて調理もできる ~空き缶コンロ~|NHKそなえる防災
- 炊飯袋(参考)
2日目実践②「初期消火訓練」
最後に、大学職員の方にご指導いただき、水消火器による初期消火訓練が行われました。
まとめ「当たり前の日常の大切さ感じて」
空き缶コンロで煮沸をしたり、ご飯を炊いたりするのは決して楽な作業ではありません。日常生活なら、炊飯器にご飯と水を入れてスイッチをいれるだけです。蛇口をひねればどこでもキレイな水が出てきますし、コンセントにつなげばいつでも充電できます。
「当たり前の日常」のあり方は人それぞれですが、災害以外の様々な要因でも「当たり前の日常」が突然失われることがあります。ですが、私たちは災害等に「備える」ことができます。訓練や講習会に参加したり、家庭や友人どうしで話し合ったり、災害時を想定した食事やトイレを試してみてもかまいません(特に「携帯トイレ」は一度使っておくことをオススメします。訓練時は専用の凝固剤を使った市販のものを使い、しっかり縛って可燃ゴミとして出します。災害時は自治体の指示に従って処理してください。)
あえて不便な経験をしてみることで日常の大切さを感じていただくことが、防災につながります。