2022年11月から12月にかけて、東京臨海広域防災公園・BumB東京スポーツ文化館の2つの施設が連携する形で「都市型サバイバル講座」が実施されました。講座情報や「都市型サバイバル」や「私たちのまち東京で助け合う」などのキーワードについての説明は 下記の記事 もご参照ください。
本稿では講座の流れや主な内容、受講生の方々からのご意見やご質問及び回答などを踏まえてご紹介します。受講生の皆さんにはフォローアップ/振り返りの資料も兼ねてご案内しています。
主な講座のプログラムとポイント(1日目)
講座のタイムテーブルに沿って、各プログラムとそのポイントについて紹介します。
自己紹介・アイスブレイク
はじめに自己紹介・アイスブレイクを行いました。目的は受講生の皆さん同士でのコミュニケーションをスムーズにしていくためのきっかけづくりですが、講座全体の趣旨にもつながる大切な”きっかけ”でもあります。
本講座の趣旨として「共助」の力を高めていくという点があります。共助、助け合いの前提にあるのは、他者とのコミュニケーションです。支援が必要な人がいたら声をかける、あるいは支援が必要なときに助けを呼ぶ、どちらも多くの場合は見ず知らずの人と力を合わせて対応しなければなりません。
東京という人口が密集した都市の”サバイバル”においては「見知らぬ人だからコミュニケーションをとらず、何もしない」人が多くなるか、「見知らぬ人であってもコミュニケーションをとり、何かしようとする」人が多くなるか、は大きな違いです。
仮に前者だとすると、被災後の状況は次のような悪循環が生まれてしまいます。
①誰も助けてくれない ②自分で何とかする ③他を助ける余裕がない ④誰も助けられない ⑤①へ戻る…
もし後者になったとすると、状況は変わってきます。
①誰かが助けてくれた ②一緒に何とかできた ③他を助ける余裕ができる ④誰かを手伝える ⑤①へつながる!
大前提として平時の備えによる「自助」が必要です。そのうえで「自分(家族)以外の誰かのために何かしようという意思・行動があるかどうか」が共助の力だと考えています。
今回の受講生の皆さんは都内各所から参加されています。隣近所での付き合いがあるというわけではありません。それでもアイスブレイクを通じて初対面の方と話し合う、一緒に作業をするといった経験を積み重ねることが、災害時の助け合い・共助につながります。
東京直下72時間ツアー見学
アイスブレイクのあとは 東京臨海広域防災公園そなエリア東京(公式サイト) のツアーを体験しました。スタッフの方に同行していただき、様々な説明を受けることができるガイド付き見学コースです。各コースの詳細、費用等につきましては こちら(そなエリア東京) のページをご覧ください。
ツアーでは施設内のジオラマをタブレット端末を使いながら確認したり、避難所等に関する展示物、各種資料や公園設備について学ぶことができます。通常ツアーでしたらどなたでも無料で体験できますので、関心のある方はぜひ!
受講生アンケートでは、ツアー内で視聴できるアニメ「東京マグニチュード8.0」のインパクトが強かったというご意見もありました。ツアーで視聴できるのは15分程度にまとめられた特別版ですが、全編については本記事執筆時点(2022年12月)は、Amazonプライムでも視聴できます(1話無料、以降有料)。
72時間を生き抜くヒントと近所・互助
続いて、東京臨海広域防災公園スタッフの方から、72時間を生き抜くヒントについてお話いただきました。ツアーに関連したお話だけでなく、今回の講座に合わせてスタッフの方ご自身の経験なども踏まえたお話をいただき、受講生の方からも具体的な備えにつながった・家族と共有したい、といったコメントが寄せられる内容でした。
レクチャールームを使用した学習についても、上記のツアーと合わせて管理センター等にお問い合わせいただければ対応していただける場合があります。筆者のほうでもよくご協力させていただいている(関連記事参照)ので、ツアーの内容をより深めたい、という方はお気軽に公園管理センターまたは お問い合わせフォーム からお知らせください。
都市型サバイバルと帰宅困難
続いて、筆者からは都市型サバイバルの基本的な考え方と帰宅困難者問題、その対策や対応、家庭での備え等についてお話しました。短い時間でだいぶ駆け足になってしまいましたので、受講生の方々には資料をお配りし、お時間があるときにゆっくりご覧いただければと思います。下記の関連記事等でもポイントは伝えていますので、合わせてご覧ください。
都市型サバイバルにおける帰宅困難問題
特に強調してお話したのが「帰宅困難者」の問題です。都市型サバイバルの最大の課題といってもよいかもしれません。家か避難所であれば何らかの形でトイレや食事・水分、休憩・睡眠場所にアクセスできる可能性は高くなります。ですが、帰宅困難になってあちこちを歩き回っている状況では、そうした生活に不可欠な環境・物資へのアクセスが難しくなります。
仮に避難所へ行けたとしても「帰宅困難者」への支援と「住民」への支援は異なってきます(帰宅困難者に備蓄等を配布してしまったら、住民避難者分が足りなくなる恐れがあるため)。従って帰宅困難者は、原則として自らの力で(あるいは学校・企業等の備えで)サバイバルしなければなりません。
東日本大震災の際は、数日以内にほとんどの公共交通機関が再開しましたので、帰宅困難によって大変な思いをされた方もいらっしゃるとは思いますが、多くの方は「生きるか死ぬか」、「人間としての尊厳が傷つく」という状況にまでは至らなかったかもしれません。
ですが、今後想定される首都直下地震では、食事や水があってもトイレが見つからない・あっても行列で何時間も待たなければいけない、寝る場所・休む場所がないといった可能性はあり得ます。
都市型サバイバルでは、そのリスクがあることを念頭に置いて備える・行動することが必要です。
主な講座のプログラムとポイント(2日目)
2日目は会場が変わり、夢の島にあるBumB東京スポーツ文化館での演習・実技です。
課題発表・意見交換
1日目終了時にアナウンスした課題は、本ブログでも掲載している教材「災害状況を想像する力を身につけよう」への記入と、気付きなどをまとめてくることです。
記入した内容について皆さんで発表してもらい、それぞれの課題や疑問、気付きなどについて発表していただきました。
「どこで被災するかわからない」、「行動の判断基準やタイミング」、「誰かを手伝いたいときにどうすれば」といった点が多く挙げられていました。皆さんからの発表を受けて、東京臨海広域防災公園スタッフの方と筆者から簡単にコメントをしました。以下に筆者のコメントをまとめておきます。
どこで被災するかは分からなくても「その日はどこにいるか」は事前に分かります。帰宅困難になりそうな遠方(概ね自宅等から20km以上の場所)に行く場合は、周囲の公共施設や帰宅ルートを少しだけ意識してみましょう。
自宅にいるか避難所にいるかの判断で一番シンプルなのは「トイレ・食事/水分・休憩/睡眠」が確保できなくなったら避難所へ、です。逆に言えばそれらが確保できなくなる前に何らかのアクションを起こす必要があります。
自分や家族に余裕があるなら直後は「隣近所を確認する」、「避難所で手伝う」、2~3日したら「社会福祉協議会(以下「社協」)等で災害ボランティアとして活動する」が想定できます。
東京で助け合う「災害ボランティア」
前項でも触れましたが「災害ボランティア」活動について筆者からお話しました。社協での災害ボランティア講座でお話している内容を圧縮したものになります。詳しくは本ブログ タグ:災害ボランティア 等の関連記事やnoteの記事をご参照ください。
都市型サバイバル実技・演習
最後のプログラムは実技・演習です。実施した内容は次のとおりです。
○ 心肺蘇生法(胸骨圧迫): 帰宅困難者の集中による群衆雪崩等発生時の初動として
○ 徒手・布等を使った応急搬送 : 傷病者を安全な場所まで運ぶ
○ ダンボールを使用したベッドづくり : 傷病者を安静にする、避難所等で支援する
○ ダンボールを使用した応急トイレづくり : トイレ不足時の応急的な対応
○ 災害時の食と栄養を考える : 手元の食材カードで栄養と日持ちを考えた料理づくり
(おまけ ○ 布ガムテープをコンパクトに収納しておく方法 : 備蓄品や持ち歩き用に)
それぞれ特筆した内容ではないかもしれませんが「災害時の食と栄養を考える」プログラムはあまり他の講座ではないものかと思います。食材や日用品が記載されたカードから受講生の家庭にあるものを抜き出してもらい、その中から電気ガス水道が使えない状態での食事を考えてもらうという内容です。
多くの食材があっても、その後一週間以上買い物ができないという想定で考えてもらいます。冷蔵庫が使えませんから、冷凍食品や生鮮食品は早めに使う必要があります。また、炭水化物(お米やパスタ等)ばかりでは栄養が偏ってしまいます。
…
初期での市民レベルでの応急手当・搬送、その後の避難所でのトイレや就寝場所に関する活動、そして生活を支える食、都市型サバイバルで欠かせないであろう点について体験していただきました。
講座の最後には、主催者から参加者の皆さんに「修了証」が渡されました。たった1枚の紙ですが、自分が学んだこと、体験したこと、考えたことを意識できる大事な修了証です。写真をとったり、ファイルに入れておけば、何かでそれを見たときに、きっと講座のことを思い出せることでしょう。
おまけ コンパクトな布ガムテープづくり
資材の片付けをご協力いただいた皆さまにはお礼を兼ねてちょっとした「お土産」を作っていただきました。ご家庭でもすぐにできて、日常でも何かと便利な「コンパクト布ガムテープ」です。カバンやリュックに油性ペンと一緒に入れておくと、いろいろな使い方ができますよ!
受講生からの質問・回答(一部)
宿題としてお願いした「災害状況を想像する力を身につけよう」を記入して気が付いたことや疑問などをまとめてもらい、ましたが、時間の都合上、すべての質問にお答えすることができませんでした。本稿でごく一部になってしまいますが、主な点について回答します(詳細は主催者の方を経由して、個別にお返しします)。
- 家屋や家具の下敷きになっている人がいたら、周りの人と協力して助けたいとは思うのですが「クラッシュシンドローム(注:日本救急医学会雑誌 挫滅症候群 J-stage)」になっていると聞いたことがあります。どうしたらいいでしょうか。
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発生直後に救助ができればクラッシュシンドロームの可能性は下がります。時間が経過(数時間~)している場合は、まずは処置ができる救助隊や医療関係者の助けを待つことになります。火災等で救助を待てない状況であれば、最寄りの医療機関まで搬送する手立てを整えて救助し、移送して処置をすることが必要になります。いずれの場合もいつから、どんな状況であったのかを記録する、写真や動画で保存するなどで医療関係者に伝えることで適切な処置につながります。
- 日用品などを売っているお店は、商品を無料で配布してくれることはあるのでしょうか。お財布を忘れてしまったら日用品は手に入らないでしょうか。
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自営業店舗等、個人の判断で提供できる場合はあるかもしれません。だとしてもそれは善意という名のもと、大きな負担を強いるものです。停電で現金しか使えない可能性もあるでしょう。財布がない/現金がない場合、かつ自分や自宅に備えがない場合は、民間店舗ではなく避難所、帰宅支援ステーション(都の備蓄を有する施設)等を頼ることになります。
- (上記のような疑問)について、居住地の自治体でどんな対応をしているのか調べてみましたが、分かりませんでした。
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救助に関しては各自治体で自主防災組織を支援し、町中の防災倉庫に救助資機材が配置されていたりします。帰宅支援は東京都では「帰宅支援ステーション(都立施設、都立高校、コンビニ等)」を定めて帰宅困難者の支援を行うこととしています。
- 家を出ていく(倒壊や二次災害の可能性等があるとして)としたら何を持っていけばいいか。
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大量の水や食料品を持ち出すことは困難です。ご自身の生活で欠かせないもの(例:各種貴重品、スマホのバッテリー、コンタクトレンズ、薬等)を中心に、最低限の飲料水や携帯トイレ等、リュックに収まる程度のものを持ち出すことになります。資料でも配布しましたが 防災・減災グッズチェックリスト(人と防災未来センター) を参考に、1次の備え=平時から持ち歩く、2次の備え=すぐに持ち出す、3次の備え=後で取り出す、で考えてみてください。
まとめ ~ひとりひとりの力が、都市型災害のあり方を変える~
本講座で筆者が一番伝えたかったのはこの点です。「アイスブレイク」の項目でも記載したとおり、日頃から活動ができれば一番ですが、都市部で誰もがそのような活動ができるわけではありません。でも、日頃から活動していないから何もできないのか、というとそうではないはずです。
その時、その瞬間、その場にいる人とだけであっても助け合うことができたなら、状況は大きく変わるはずです。そんな方々が一人でも増えてくださることを願っていますし、受講生の方々はきっと行動してくださるものと信じています。
本稿ではじめてこの取り組みを知った方は(都市部在住の方に限らず)、ひとつの視点としてご参考になれば幸いです。