民生児童委員対象に防災研修 発災時の障がい者支援や共生社会を防災ゲームで考える

東京都民生児童委員連合会(以下「都民連」)障がい福祉部会主催の防災研修で「発災時の障がい者支援~地域の支え合いで災害に備える」をテーマに講義・演習を担当しました。

日頃から地域で活動されている民生児童委員の皆さんが対象ということで、座学講義だけでなく実際に地域や住民の特性を考えながら防災について考えられる EVAG豪雨災害編 を用いた演習も行いました。なお、EVAGについては 以下の記事 でもレポートを紹介していますので、合わせてご覧ください。

本稿では研修の内容等についてご紹介します。

目次

研修テーマが目指すもの ~誰かと共にある防災~

「地域の支え合いで備える」というのは”いかにも”なテーマではあるのですが、問題は「どのようにしてそれを為すのか」であり、また「誰がそれを為すのか」という点です。

末尾でも触れますが、演習を受けての発表で

  • 「地域の人とのつながりや情報を知っておくことは重要だが、個人情報の関係もあり、細かいことを把握するのは現実的には難しい」
  • 「年配の方や障害をお持ちの方とは縁があるが、若い世代の人とは接点が少ない」

といったご意見がありました。これは後述するEVAG豪雨災害編の特徴でもある「具体的な個人・世帯の生活情報(年齢性別、世帯構成、ペット、障がいを含む身体的特徴など)」を踏まえてのものです。想定されたご意見でもありましたので、次のようなコメントでフォローさせてもらいました。

民生児童委員の方々に期待される役割は大きいですが、個人情報の把握や関わることのできる人たちは限られますし、何より皆さん自身が被災する可能性もあります。災害が起きてから民生児童委員だけで何かをしようと思っても難しいので、平時からこうした研修や教材を通じて「地域の皆さんが一緒に考えるきっかけ」を平時からたくさん作っていただきたいです。

つまり「地域で支え合う」というのは文字通り”支え”合うことであり、民生児童委員”が”何をするかというだけではなく、民生児童委員”と”共に何をするかが重要なのだという考え方です。

ともすれば責任感から「わたし(たち)が何かしなければ…」と考えてしまう方も多いと思います。自分自身や家族が被災することも想定し、一人でも多くの方、特に障がいをお持ちの方や高齢者など、配慮が必要な方が防災について考える、取り組む機会が増えることが重要です。

研修内容①講義 ~被災地支援の教訓から福祉避難所まで~

導入講義の内容を簡単にまとめてご紹介します。まず全体の構成は次のとおりです。

1. 被災地支援の教訓とインクルーシブ防災
2. 発災時における障がい者等の課題
3. 災害時要配慮者支援と福祉避難所
4. 地域の支え合いで災害に備える
5. ワーク① EVAG豪雨災害編(簡易版)
   ワーク② 防災ハンドブック「たいむくん」
6. 全体会(発表)
7. まとめ

このうち1.~4.までが講義部分になります。

冒頭ではこれまでの被災地における支援活動での教訓ということで「災害は誰にでも等しく起きるが、被災の様相はひとそれぞれであり、誰もが備えや支援を必要とする」点についてお話しました。それが次に触れるインクルーシブ防災にもつながります。

インクルーシブ防災、「だれひとり取り残さない防災」というのはミッションとして描くのは素晴らしいと思う反面、具体的な中長期目標としてビジョンを描くのは難しいものです。インクルーシブ防災は何か特別な誰かの、特別な行動によって為されるものではなく、誰も気に留めないような些細な日常的な行動、価値観や文化の積み重ねによって為されるものだと考えています。が、今はその話は置いておきます。

具体例をいくつか紹介しましたが 以下の記事 について触れておきます。

詳しくは記事をご覧いただければと思いますが「助ける側、助けられる側」という考え方を変えてみましょうということです。前項にもつながりますが、民生児童委員だから助ける側で、障がい当事者は助けられる側、という視点を変えてみるということです。

もちろん、肢体不自由や精神障がい等、どうしても支援が必要なことはあります。ただ、ご本人やご家族が全く何もできない、というわけではなくどんな些細なことでも「できること」があります。そこに注目し、支え、活かすことができるのは、日頃からつながりのある民生児童委員の皆さんではないでしょうか。

障がい児・者家庭による在宅避難生活の課題、福祉避難所での課題、それぞれの対応等についてもお話はしましたが、突き詰めていけば上記の点になります。在宅避難であれ福祉避難所での生活であれ、障がい当事者の方、ご家族がどんなことで困るのかを把握し支援する・備える、そのためにお互いに何ができるかを考える、というのがポイントになります。

発災時の障がい者支援に関わった方、あるいは当事者の方であれば「(最大限の努力をしても)起きてから出来ることには限界がある」というのは、痛感されているはずです。だからこそインクルーシブ防災と言われるのであり、その具体化が求められることになります。

研修内容②ワーク ~タイムラインと共生社会の理解~

休憩を挟んで、演習では 知的障がい・発達障がい児向けの防災教材「ぼうさいハンドブック たいむくん」 の紹介と避難行動訓練EVAG豪雨災害編(簡易版)の体験を行いました。たいむくんについてはリンク先(美作大学)からダウンロードできますので、そちらをご覧ください。EVAGについては冒頭にご紹介したとおりです。

EVAGでは様々な個性、特性、暮らし方をする様々な人物が登場します。山あり川ありの自然豊かな都市で暮らす、多様な人たちに台風が接近してきたら、どんな支援が出来るのかを考えてもらいました。

ここでのポイントは都民連でもキーワードとして挙げられている「共生社会」です。定義やポイントは以下のとおり示されています。

共生社会とは、障害のある人とない人が具体的に接し関わりあう中で、全ての人の尊厳が守られる社会。
具体的に接し関わりあう中で、障害のある人とない人が共に知り合うことが共生社会実現にとって重要。(内閣府)

https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h29hakusho/gaiyou/h01.html

インクルーシブ防災と同じく、ビジョンとして描かれるものをどう具体化するかが課題です。今回の研修では、EVAGの登場人物の「多様性(障がいだけでなく年齢や暮らし、国籍も様々)」を踏まえてどう関わるかに焦点を当てました。

例えば何らかの事情で足が不自由だったり、すぐには動けない(障がいだけでなく怪我や体調不良を含む)方がいた場合、注意報や警報が出ているから逃げて!と行っても逃げようがないかもしれません。災害情報と行動は必ずしも一致せず、行動には様々な条件・制約があること、それは「多様性」に紐づくと気づくことが大切です。

文章で全て説明するのは難しいので、ぜひ機会があればEVAGを体験してください。筆者も私物を何セットか持っていますので講習含めて対応いたします。こちら からお気軽にご相談ください。

余談ですが、現在販売されている「EVAG改訂版」のマニュアルには、筆者のコメントも掲載されています。

研修内容③全体会 ~気づきや学びの共有~

最後に全体会として、各班での振り返りの後、発表を行っていただきました。冒頭でも紹介したご意見のほかにも、様々なご意見や感想がありました。

ワークショップのようす
全体会のようす

日頃から地域で活発なコミュニケーションをとられている方々というのもあり、積極的な情報交換をされている班も見受けられました。こうした関わりやつながりも、イザという時に役立つのだと思います。

まとめ

発災時の障がい者支援、あるいは当事者であるご本人やご家族の防災対策は、課題も多いです。地域からするとどう関わればいいのか分からない、当事者からすると迷惑にならないだろうかという不安もあります。民生児童委員はまさにその中間に位置し、共生社会の架け橋ともなる方々です。

東京都内のような大都市圏では、どうしても地域のつながりが薄くなってしまいます。大変な仕事だとは思いますが、それでも地域で活動を続けられているる方々に敬意を表すると共に、本研修が少しでも地域の備えに役立つことを願っています。

ワークショップのようす

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次