障害のある生徒も生き生きと積極的に取り組む防災教育~都立盲学校の事例~

2016年から都立盲学校で宿泊防災訓練の体験学習プログラムを担当しています。昨年度、本年度と実施した内容から、障害のある児童生徒も積極的に取り組める防災教育のポイントについてご紹介します。

実施概要

プログラムは『首都直下地震の発生に伴い、電気・ガス・水道等のライフラインが全部または一部停止した状況下において、帰宅困難になった』という想定で行われました。都立高校では、特別支援学校も含めて全校で「宿泊防災訓練」を実施していますが、本プログラムも宿泊防災訓練の一部となっています。スケジュールは以下のとおりです。

16:00-16:30 地震安全行動訓練・避難訓練
16:30-17:30 トイレ及びマイスペースづくり(本プログラム)
17:40-19:15 夕食(非常食調理体験)
20:00-21:00 地元企業の方による講演
翌朝
06:00-06:30 起床、清掃
06:30-06:40 朝食(非常食調理体験)
08:00-08:15 まとめ・振り返り
08:30 解散

本年度は普通科2年生の男女8名と専攻科2年の男子3名の計11名に、教員22名の合計33名が参加しました。

使用する資機材について

このプログラムでは、特別な資機材は使いません。いずれも学校、家庭、地域で簡単に手に入れることができるものばかりです。あえて便利なグッズに頼らないのは、なるべく制限された環境で、自分にできること、あるいはできないことに気づいて欲しいという想いからです。

  • 段ボール箱(大・中・小を10個ずつ、合計30個くらい)
  • 45リットルビニール袋(20枚)
  • 新聞紙(朝刊を2週間分くらい)
  • 布ガムテープ(10個くらい)
  • カッター、ハサミ(※普段から使い慣れているもの)

「障害と共に被災後を生き抜く」ために

本プログラムは1時間と限られた時間の中で行うため、学んでもらうことは絞り込む必要がありました。他の記事でも度々紹介していますが『(障害の有無に関わらず)被災後を生き抜くために欠かせない大切なこと』として『トイレ/就寝とプライバシー/食事』の体験をしてもらいました。

トイレ

まず最初に行ったのが、トイレに関する体験です。普段から一日に何度もトイレを利用すること、災害が起きてもトイレには行きたくなるけれど、断水などでいつもどおりに使えないこと、仮設トイレなど”使えるトイレ”は混雑してなかなか入れない場合もあることなどを伝えました。また、仮設トイレでは障害者のための工夫(段差をなくしたり、手すりや点字をつけるなど)ができないことも伝えました。

視覚障害のある生徒にとって「いつものトイレに行けない」ことはとても不安なことだと思います。そこで、まずは「いつものトイレ」を断水しても使えるように『携帯トイレの仕組みと使い方』を紹介しました。筆者が家庭で備えている吸水シート型の携帯トイレ【POINT】を使い、便袋や給水シートに触れてもらった後、実際に500mlのペットボトルに入れた水を全てバシャバシャと入れました。しばらくするとマットが給水するので、それにも触れてもらいました。

体験では段ボールやビニール袋、新聞紙を使った「段ボールトイレづくり」を行いました。最初に完成品を実際に触れることで、イメージをつかんでもらいます。その後、実際に自分たちで段ボール等を使って作業をしてもらいました。先生方には事前に「生徒が具体的に考え、形を具現化するように促してください。アイデアが出ないようだったら助言をお願いします」というアナウンスを事前資料で説明しています。

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先生方が安全面をフォローしながら作業しますが、危険がない限りは、生徒自身のアイデアや作業を重視します。

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女性グループでは、長方形の段ボールの使い方にひと工夫。ビニール袋の大きさが足りない部分を逆に利用して「和式トイレ」型に。

あるグループでは、実際に段ボールトイレを作ったあと、やや大柄な先生が座ったらつぶれてしまいました。その後すぐにみんなで「座る部分が広かったかな」、「三角形にしてみたらどうか」など話し合い、再度作り直しました。すると、今度は同じ先生が座ってもつぶれることなく、拍手が起きていました。

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失敗直後にすぐに改善案を考えて作り直します。限られた時間でも的確に作業を行うことができていました。

POINT 視覚障害者の備蓄・支援用携帯トイレは「シート型」を

携帯トイレには大きく分けて「粉末型」と「シート型」があります。粉末型は、吸水ポリマー/凝固剤とビニール袋(便袋)がセットになったもので、最初から便袋の中に凝固剤が入っていて、開封してすぐに使える場合と、便袋とは別の小袋に凝固剤が入っていて開封して使うものがあります。気をつけなければならないのは、視覚障害者の場合、粉末型の取り扱いが難しい場合があるということです。筆者も経験がありますが、ついうっかり逆さ・横にしたり、入れ間違えて凝固剤を床にばらまいたときのショックは大きいです…。シート型は粉末型よりかさばることも多いですが、取り扱いは簡単です。

視覚障害者の方の備蓄や支援には「シート型」の携帯トイレをおすすめします。もちろん、できるだけ事前に体験して慣れておくことも重要です。

就寝とプライバシー

次に行ったのが就寝とプライバシーに関する体験です。帰宅困難の状態や被災生活は長期間に及ぶ可能性があること、被災直後を乗り切るためには体力が重要で、しっかりと寝るのが重要であることなどを伝えました。ただし、学校の会議室や避難所は慣れない場所であるだけでなく、床が固い、明るい、うるさいなど様々な要因からゆっくり休むのが難しいです。今回は「学校で帰宅困難」になったことを想定しているので、学校にある段ボールなど身近なものだけを使って「自分がゆっくり身体を休められるスペース」をつくってもらいました。

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同じサイズの段ボールを切り開き、両端を貼り合わせた「寝袋タイプ」。小柄な女性なら中で着替えができてしまいそうなくらいの収納力がありながら、コンパクトに折りたたむこともできます。素晴らしいアイデアです。

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女子生徒のシート。段ボールの隙間や周囲をとても丁寧にテープで補強し、段ボールとビニールで寝やすい高さの枕を作っていました。

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「ひとりになりたい派」の生徒が作った明るさや目線を隠せるタイプ。完成形では頭部部分の段ボールにシート部分を折り込んで持ち運べ、ちょっとした小物なども入れられるという、画期的なアイデアがありました。

POINT いざという時の「眠り」を確保しよう

眠りには個人差があります。どんなにうるさくても、明るくてもスヤッと眠れる人もいれば、静かで暗くなければ絶対に寝られない、という人もいます。避難所や帰宅支援のための滞在場所では、完全に消灯することやひとりぼっちになることは安全管理上、困難です。ですが、前述のように寝ないと体力が持ちません。

普段の生活の中で「自分が寝られる条件」をチェックしてみましょう。例えば、リビングなどで灯りをつけてテレビ等の音量をやや大きめにした状態で、寝そべってみましょう。そのまま寝られますか。その状態で3~6時間でも寝られたら、かなり「寝やすい」方です。30分くらい粘っても寝られなければ、その日は無理をせずいつもの寝場所に移動してください。翌日以降、次は灯りを消すかテレビを切るか、下に何か敷くかしてみましょう。少しずつ条件を変えて体験していくと「自分が寝られる条件(特に大事なこと、明るさや静けさ、床の固さ)」などが分かります。

後は、その条件に合わせた備蓄や工夫をすることで、いざというときの「眠り」を確保しやすくなります。

食事

食事については別の時間で行われたので直接指導は行っていませんが、導入として、災害が起きてから最初になくなるのは、電気でもガスでも水道でもなく食欲であることを伝えました。ご飯を食べるような気にはならないかもしれませんが、食事をとらなければ体力や免疫力が落ちてしまい、被災生活を乗り切ることができません。アレルギーなどに注意しながら、できるだけ自分の力で行うように、ということもお伝えしました。

目標と作業をシンプルにして「自分のペース」を大切に

上記で示したプログラムは、作業そのものはもちろんですが「なぜそれが必要であるのか」、「自分には何が・どこまでできるのか」を知ってもらうことが重要だと考えています。そのためには、障害のある生徒ひとりひとりが、自らの障害と向き合う必要があります。障害の程度や、作業の得意不得意はひとりひとり異なります。つまり「どのくらいの時間で、どうやるか(やれるか)」はひとりひとり異なるということです。

ベターな作り方、模範例は示しますが視覚障害のある生徒にとっては、視覚情報で完成形を理解することは困難です。筆者の口頭説明や実際に展示物に触れた感覚を頼りに、自分なりの工夫をしながら作業を進めていきます。

筆者がこのプログラムで一番大切にしたのは、時間通りに作業できることでも、「正しく」作業できることでもありません。テキパキでも、ゆっくりでも、細かな点にこだわっても、大ざっぱでもいい。自分の力で、アイデアで、災害時の課題に立ち向かうという経験です。

「勇気を育む」ための防災教育

段ボールトイレや就寝スペースが、実際に役立つかどうかは分かりません。防災について詳しい方の中には「市販されているアウトドアグッズを用意しておけば、そんなことする必要はないし、役に立たない」という方もいます。もちろん、そうした考え方もありますので、備蓄や便利なグッズの紹介や体験も行います。

ただ、災害時には常に想定外の事態が起こり得ます。できるはずのことができなくなった。あるべきものがなくなった。そんな事態が起こるかもしれません。それでも、生き抜かなければならないのが災害というものです。寝袋や大量の便袋を四六時中、持ち歩くことはできません。外出先で何かあったら?もし数が足りなくなってしまったら?課題と解決策だけを合理的に結びつけるだけではどうにもならない場面もあります。

防災教育とは、単に命を守るということだけでなく、想定外の事態にも諦めることなく、また恐れることなく、課題に向き合い解決していく行動につながる「勇気」を育むものでもあると考えています。「勇気」は知識や知恵、自分にもできる!やれる!という経験、そして自信から生まれるものです(ちなみに、知識にも経験にも基づかない、根拠なき行動につながるのは「無謀」だと思います)。

本プログラムにおいても、生徒の体験における過程や成果物を否定しません。実際に、全生徒がトイレにせよ就寝スペースにせよ、必要最低限の目的は達成していますので、肯定し褒めることはあっても、否定する余地はありません。指導者側は防災教育としての正しさ、あるべき姿などに囚われすぎることなく、児童生徒ひとりひとりにとっての成長や、得る経験に目を向けることが大切ではないかと考えています。

視覚障害のある生徒へのメッセージ

最後に、筆者がまとめで伝えたメッセージをご紹介します。

「今日は皆さんにトイレと就寝スペースづくりを体験してもらいました。僕は何をやるべきかは指示しましたが、どうやるべきかは教えませんでした。それでも、皆さんは自分の力で、時には仲間や先生の力を借りて、トイレも就寝スペースも作り上げることができました。素晴らしいことです。皆さんには、災害時のとても重要な課題を、乗り越えるための力があります。今日できたことなら、災害が起きても必ずできるはずです。自信と、勇気をもってください。災害を恐れることなく向き合い、備えてください。」

体験終了後に先生方から「生徒が生き生きとして体験に取り組んでいたのが印象的だった」とコメントもいただきました。

本記事が視覚障害のある方やその保護者・支援者、盲学校等の先生の参考になれば幸いです。

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