2018年5月12日(日)、法政大学Team Tama Acition Project の皆さんによるDIG(Disaster Imagination Game:ディグ。災害図上訓練の手法のひとつ)学習会が行われ、講師を担当させていただきました。なお、本稿に関する講義資料については「SlideShare」で公開しています。
関連資料の閲覧・ダウンロード
- 講義スライドはこちら 大学・学生と地域が連携した災害図上訓練DIGの進め方~豪雨災害編~ from Kenya Miyazaki
- 講義スライド配布用はこちらをクリック でダウンロードできます。
- 講義スライド内で紹介している気象庁の資料についてはこちら 気象庁ワークショップ なお、講義スライドは本稿内でも閲覧可能です。
DIGとは
「DIG」とはDisaster Imagination Gameの略称で「ディグ」と読みます。災害図上訓練という手法のひとつであり、大きな地図をみんなで囲んで、地域特性や災害危険箇所を視覚化(色塗りなど)しながら、その地域で起きる被害や対策について考えるというものです。前半部分の『地図を色塗りしていく』という作業工程が注目されて色塗り=DIGという印象があるようですが、DIGのポイントは真ん中のI、つまり Imagination[想像力] につなげることにあります。みんなで地図を書き込むことで、その地域の特徴(大きな道路の通り方、河川の位置、学校や公共機関の配置など)が視覚的に共有されます。この情報共有が「災害危険箇所や被害を考える」というステップにつながります。
DIGの具体的な進め方については、講義スライドをご参照ください。
“想像力“で“想定外“に立ち向かう
ハザードマップや防災マップがあるのに、なぜわざわざ災害図上訓練を行う必要があるのでしょうか。それは「想定外」に立ち向かうためであると筆者は考えています。ハザードマップは科学的根拠に基づく「想定」です。行政の防災対策の根拠にもなりますが、様々な条件によって、その想定を超える被害が発生する場合があります。私たちが命を、財産を守るためにはそうした「想定外」にも対応しなければなりません。そのための武器が「想像力」です。科学的な根拠はないかもしれませんが、地域目線で「想定では○○だけど、もし△△になったら…どうする!?」という想像力、イメージトレーニングが想定外に立ち向かう力になります。
大学・学生と地域が連携するきっかけに
大学・学生が地域と連携して防災に取り組むためには、お互いのことを知り合うことが重要です。学生は地域にどんな特徴があり、どのような方々がいて、どんなことが課題となっているか(なりそうか)を知ることが必要です。逆に地域の側からすると、大学や学生が災害時や、防災活動に協力してくれるのかを知りたいところです。そういった点で、地域のことを知り、学生の意見や考えを知ることができるDIGという手段を用いるのは効果的です。地図を書き込む作業では地域のことをより深く知る機会にもなりますし、住民の方にいろいろ教えてもらえることもあるでしょう。災害危険箇所や被害想定を考える作業では、もしその地域で被害が出た場合に、大学生だったらどのようなことができるか(したいと思っているか)を伝える機会にもなります。
効果を高める3つのキーワード
もし地域の方と一緒にDIGを行いたい!と考えている学生団体や、大学ボランティアセンター等のご担当者様が本稿をご覧になられていることも多いと思います。
より良いイベント、学習会のために「基礎知識」、「現場実踏」、「継続実施」をキーワードとしてご紹介します。
基礎知識
学生にとって特に難しいのが「災害危険箇所」や「被害想定」の段階です。なぜ難しいかというと、そもそも地震や風水害によってどのような被害が起こり得るのか、どのような場所が危険になるのか、どのように防げばよいのかといった前提となる知識が不足していることが多いためです。DIGを行う前に、テーマに応じた基礎学習はしっかりしておくことがポイントです。その地域のハザードマップや防災マップを読み込み、基本的な用語は理解しておきます。もし住民の方から聞かれた時にさっと「こうなんですよ」と伝えられると、頼もしく感じてもらえるはずです。
現場実踏
基礎知識の習得と合わせて行うとよいのが現場実踏です。実際にDIGを行う地域を自分たちで歩いてみて、特徴的な部分を写真などで記録しておくとよいでしょう。ハザードマップや防災マップを持って、気になるところにチェックポイントを置いて見ていくのがオススメです。事前の現場実踏があることで、住民の皆さんと考える際に、同じイメージを共有しやすくなり、話も弾みます。現場実踏には参加できないけれど、当日は参加できる、という学生さんもいるでしょうから、写真をシェアしておくとよいです。
継続実施
DIGを実施することは学生さんにとって貴重な機会になると思いますが、地域の方々にとって貴重なのは「若い大学生が、地域の防災について一緒に考える機会を作ってくれたこと」です。その機会を、たまたま関心のある学生や職員がいるときだけに留めてしまうのはもったいないです。一度実施することができたのなら、できるかぎり継続実施できるよう活動していただきたいと思います。最初からあまりハードルの高いプログラム(時間が長かったり、エリアが広いなど)にしてしまうと、続けるのが大変です。慌てずにじっくりと地域の方々と一緒に取り組む機会をつくり、育てていくことが重要です。
まとめ~これからの社会で大学・学生が防災で果たす役割~
人口推計等でも言われているとおり、これからは人口減社会となっていきます。特に地方都市ではコミュニティ、あるいは地方自治体という形さえ維持していくことが難しくなるかもしれません。そうした社会の中で、大学は20代前半の若者が集まる重要な「コミュニティ」です。学生の安全管理や施設利用など課題はあるかもしれませんが、平時の防災活動や災害時の支援活動が、大学や学生が果たす役割として期待されることは間違いありません。
近年防災や災害支援に関心を持って活動する学生さんが増えているというのが筆者の実感ですので、ぜひ積極的に地域と関わる活動に取り組んで欲しいです。
本稿がその一助となれば幸いです。