コロナ禍の大学における学生主導型宿泊訓練~大学と学生をつなぐ災害時のSNS~

2020年10月24日(土)から25日(日)にかけて、法政大学で「防災キャンプ」が開催されました。同キャンプは学生ボランティア団体「チーム・オレンジ」の大学ボランティアセンターと連携して企画・運営したイベントです。筆者は昨年に続き、インストラクターとしてご協力させていただきました。

他大学の学生・教職員の方や、何よりもチーム・オレンジの次の世代に先輩たちの活動をつないでいく一助になればと思い、まとめました。

2020年防災キャンプの大学公式レポートについては法政大学市ヶ谷ボランティアセンターホームページで掲載されています。2019年に実施した防災キャンプのようすは法政フォトジャーナルでも紹介されていますので、本記事と合わせてご覧ください。

また、昨年は他大学でも同様の防災キャンプを行いました。こちらについても併せてレポートを掲載しています。

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実施の経緯

法政大学防災キャンプは、2019年度に第1回が開催されました。警視庁警備部災害対策課が東京臨海広域防災公園と連携して2017年から開催している同様の訓練に学生が参加したのがきっかけです。

同訓練についても筆者がインストラクターで協力し、また法政大学での災害ボランティア講座等も担当していたことから、本件にもご協力させていただくことになりました。

コロナ禍での企画・運営

新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)による影響で、通常の授業もままならず、また厳しい入構制限もある中での企画・運営ということで、大学(ボランティアセンター)と学生チームの皆さんは緊密な連携をとって準備していました。

具体的にはZoomを用いたミーティングを繰り返し行い、調整を進めていました。ミーティングには筆者も参加させてもらい、大学側の対応や学生企画の内容などを確認しました。

コロナ禍における防災キャンプが実現できたのは、学生チームの皆さんが丁寧に企画をまとめ、教職員の皆さまがしっかりと学生の想いを受け止めて真摯に各部署との調整にあたられた結果だと思います。

この「信頼関係」は災害時にも活きてくるでしょう。こうした地道な積み重ねは、表立って評価されることは少ないかもしれませんが、この場では声を大きくしてお伝えしたいです。

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こちらは学生チームが作成したしおりです。COVID-19対策や持ち物チェックシートなどが記載されています。参加には1週間前から「健康状態記録表(学生用)」に毎日記録し、当日持ってくることが必要となります。

災害時のSNS活用

今回の防災キャンプの特徴としては「災害時のSNS利用」を全プログラムを通して実証実験的に行うという点です。学生はもちろん、教職員の方も利用されているので、お互いのコミュニケーションや情報共有を目的として行いました。

大学における災害時のLINE活用(2020)


Twitterを使って、対外的な情報発信の訓練も行いました。Twitterの「#法政cmp」で該当の情報を閲覧することができます。法政大学チーム・オレンジの(@__teamorange)や筆者のアカウント(@kenyamiyazaki)でもタイムライン上に当日の様子が紹介されています。

★ポイント★

今回の訓練では参加者も限定いますのでグループLINEでしたが、不特定多数の学生が参加する場合は個人情報などが気になるかもしれません。その場合はグループLINEに代わり「オープンチャット」という機能を使うことができます。

オープンチャットは簡単に言えば匿名・仮名での参加が可能なグループLINEみたいなものです。詳しくは オープンチャットを利用する|LINEみんなの使い方ガイド をご参照ください。

プログラムの内容

プログラムは「DAY1 発災」と「DAY2 一夜明けて」に分かれています。それぞれの日毎のプログラムについて紹介します。

DAY1 発災

16:00~ 起震車体験
DAY1は、発災してから就寝するまでを想定した訓練です。最初は千代田区危機管理課の起震車を体験しました。ソーシャルディスタンシングを確保するため、1人ずつ体験しました。縦横の強い揺れに「机がもし固定されていなかったら、机ごと飛ばされてた」などのリアルな声があがっていました。

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■16:50~ オリエンテーション
起震車を体験後は「オリエンテーション」として教室に集まり、教職員からの挨拶(写真)、筆者からの簡単なレクチャー、学生によるアイスブレイクなどが行われました。

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レクチャーでは

  • 災害時の判断を適切に、素早く行うためのヒント
  • プロアクティブの原則
  • コロナ禍の防災対策と避難行動~生存避難と生活避難~
  • 首都直下地震の被害想定とイメージ映像
  • 帰宅困難者対策のポイント
  • 災害時のSNS利用

についてお話させていただきました。特に

『自分が何のために、誰のために、何をすべきなのかに気付くこと、忘れずにいること。自分にしかできないこと、自分がやらなければならないことを意識することが、判断を早くするための第一歩』

という点を強調させていただきました。学生として、いち個人として、大切な何かに気付くことは、防災や災害対応には欠かせないと考えています。

■18:00~ AED講習・倉庫見学
班に分かれて、AED講習や倉庫見学を行いました。AED講習については筆者が担当しました。倉庫見学については大学職員の方から、実際の備蓄倉庫を展示・紹介していただきました。

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■19:00~ 仕切り・寝床づくり、食事作り
参加者は建物1階にある「メディアラウンジ」と5階にある「連結室」に分かれて仕切りや寝床をつくりました。仕切りは机とプラダン、寝床は市販の段ボールベッド、空の段ボール、中身(冊子)が入ったままの重たい段ボール、パイプイスの4種類を使って行いました。

空の段ボールを組み合わせて行うベッドづくりは、5人で20分ほどかかってしまいましたが、一度経験していれば、次回以降はもっとスムーズに作成できるのではないかと思います。何事も、体験が大事です。

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食事はアルファ化米やカップ麺などを「水でもどす」という方法でつくり、各自で食事をとりました(各自で、というのが重要。マスクを外している食事中は会話はせず、情報交換はLINEグループや黒板を通じて行う)。

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■21:30~ 防災グッズづくり、クロスロード
食後は、防災グッズ(新聞紙スリッパ、キッチンペーパーマスク、ペットボトルランタン)づくりが行われました。

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続いて22:00からは防災カードゲーム「クロスロード」で学生チームが作成した問題を用いてディスカッションをしながら防災や災害対応について考えました。

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■23:00~ 就寝
23:00頃を目安に就寝となりました。筆者もイスを6つならべて段ボールを敷いて、その上で寝ました。もう何度も同様の体験を繰り返しているので、寝ること自体はそれほど苦にはなりませんでした。

DAY2 一夜明けて

DAY2は、一夜明けて8:00からのプログラムになります。筆者は前日に使用した資機材を事務所に戻すため、早朝の千代田区を訓練用人形2体、AEDトレーナー2台を抱えて散歩?しました。少し肌寒かったですが、天気もよく気持ちよく歩くことができました。

パイプイスベッドももう体が慣れてきましたので、一泊くらいなら苦にはなりません。ただ、疲れを感じた部分があるとすれば「スマートフォンの見過ぎ(による首や肩への負担)」でした。後述する災害時のLINE活用の関係で、かなり頻繁にスマホを見ることになりました。

慣れない方は長時間、集中してスマホを見続けるのはかなりつらい作業です。災害時のSNS利用を実践、ないし訓練される方は、スマホの見過ぎにはくれぐれもご注意ください。首や肩、目の負担を避けるためにも、何人かでフォローしあったり、パソコンをうまく使うなどの工夫が必要です。

短期間なら良いですが、長期に渡る場合は慎重に運用しなければならないだろうなと改めて感じました。

■8:00~ 朝食、携帯トイレ体験
朝食は各自で昨晩の残りを食べました。昨晩に引き続き画面にグループLINEを表示して情報共有していたのですが、缶詰パンで有名な「パン・アキモト」の創業者、秋元義彦さんは法政大学のOBという情報もありました。

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携帯トイレは大学に備蓄してあるものを実際に設営し、水などを入れて凝固の状態を確認しました。

■9:00~ 災害時のSNS講習、なまずの学校
災害時のSNS講習は、まず学生チームから災害時のSNS利用に関する講義や、大学の安否確認システム等について説明があり、実際にシステムに入力してもらいました。

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その後、筆者からこれまでの災害におけるSNSの利活用(平成28年熊本地震や、令和2年7月豪雨での実践例など)方法を紹介しました。また、今回の訓練で使用している公式アカウントとグループLINEの運用例や、応答メッセージの体験などをしてもらいました。

大学における災害時のLINE活用訓練(法政大2020)

※写真のタイトルに誤字がありました(「を」が多い)。

応答メッセージは参加者の方が公式アカウントに向けて発信したメッセージに対応するようにしていますが、全てのメッセージは対応できません。そこで

1)想定されるキーワードで応答メッセージを作成
2)参加者にお知らせしてメッセージをランダムで入れてもらう
3)対応できなかったキーワードをピックアップする
4)対応キーワードを追加して2)から繰り返し

という方法をとりました。たとえば、事前に学生や教職員、帰宅困難者、保護者やOBOGから想定される問い合わせ等をある程度とりまとめておき、基本的な質問については自動応答できるようにしておくことで、職員への問い合わせや電話対応、メール対応等の負担が大きく軽減されます。

続いて行われた「なまずの学校」はNPO法人プラス・アーツによる紙芝居型の防災教材です。出された設問に対して、班ごとにアイテムカードを選んでそのポイントを競うのですが、アイテムカードは完全にランダムになっています。有利な設問もあれば不利な設問もあり、模範解答に該当しないアイテムカードへの採点は筆者が担当しました。

『設問が本来求める趣旨とは異なるものであっても、その場面への対応を諦めずに考えて実行するなら採点対象』

としました。なまずの学校についてはプラス・アーツの公式サイトから購入することができます。

 

■11:00~ 振り返り
最後のプログラムである振り返りも、LINEグループにノートを作成し、それぞれがコメントをするという形で行われました。

食事がおいしかった、段ボールベッドをつくるのが大変だった、固くてあまり寝られなかったなど、実際に体験してみなければ分からない感想がたくさんありました。

また「法政大学がきちんと対策をしていることが分かり、安心な大学だと思った」という感想は、とても大事です。

大学が学生に滞留を指示したとしても、その大学に対する信頼や安心感がなければ「早く帰ったほうが安全ではないか」と考える学生がいるかもしれません。どんなに早く、正確な情報発信、災害対応を心がけても、学生や帰宅困難者の人数が多ければ、どうしても時間はかかってしまいます。そのタイムラグ(情報や対応が見えてこない時期)でなお、大学に留まろう、なんとかここで乗り越えよう、と考えるには上記の感想のような安心感が必要です。

こうした「安心感」や「信頼」につながる訓練や体験が広がっていけば、それは他の学生や教職員にも拡がっていきますし、教職員だけでは行き届かない支援への学生による協力なども考えられます。

まとめ~大学の災害対応とSNS~

2回目となる法政大学防災キャンプは、コロナ禍という難しい状況で参加者数も限られていましたが、内容はさらに密度のあるものとなっていました。冒頭に記したように、これは学生チームによる企画と、教職員の方々の調整の賜物です。

LINEを活用することで、そうした事前の信頼関係に基づき、訓練中も学生と教職員がフラットにコミュニケーションをとることができるようになりました。これは実際の場面にも活きる「つながり」です。

ただ、無制限にできることでもありませんし、一方通行の情報発信のほうが効率的な面もあります。一斉配信に役立つ「LINE公式アカウント」は制限付きなら無料で使うこともできます。配信できるメッセージが1,000通までで、今回の訓練では一晩で357通のメッセージを配信しました。

LIE公式アカウントの作り方、使い方についてはLINE公式アカウントの開設をご覧ください。

20名足らずの「友だち(登録者)」とのやりとりでこれくらいですから、多数の帰宅困難者、滞留学生や教職員を想定すると、工夫しなければ一晩もたないかもしれません。

どんなにツールにも良い点もあれば悪い点もあります。LINEやスマホを使用されていない方もいますし、スマホのバッテリーを消耗するという課題もあります。これまで同様の情報発信(公式サイトや案内掲示、構内放送など)も必要なことには変わりません。

それでも「良い点」のある選択肢を増やすことは、災害への備えにとって重要ではないでしょうか。LINEは多くの学生・教職員が日常的に利用しているツールで、災害時に改めて使用方法の説明をする必要がないという点は、情報が錯綜する災害時において極めて大きなメリットです。

今後は、本訓練の成果と課題を踏まえて、他大学でも災害時のSNS訓練などができればと思います。もし本記事をご覧になって関心のある方はお気軽にお声がけください。

防災キャンプイメージ

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