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特別支援学校2校で夏季研修、福祉避難所対応について演習を実施

2023年7月~8月にかけて、埼玉県内及び都内の特別支援学校さんで教職員向けの夏季研修を担当しました。どちらの学校もこれまでに何度もお伺いし、様々な形で研修や訓練を担当しています。本年度は学校の図面やマニュアルを用いて「福祉避難所」として対応する場合を想定した演習を実施しました。

本稿では当日の内容を中心に、ポイントをまとめてご紹介します。

目次

研修内容

両校ともに研修では避難所運営ゲーム(HUG)を用いました。HUGについては 下記の記事 をご参照ください。

研修プログラムは以下の通りです。

  • 避難所とは
  • (福祉)避難所の開設・運営のポイント
  • 地域防災と多様性への配慮
  • 感染症・体調管理を意識した教育訓練
  • <演習>避難所運営ゲーム(HUG)の実践
  • <解説>HUGを通して学び、考え、行動する
  • まとめ

時間的に限られていましたので、従来の研修でお話している部分から特に特別支援学校、福祉避難所に関連するところ(マーカーを引いた部分)を中心にお話しました。本稿でもこの点についてまとめます。

(福祉)避難所の開設・運営とポイント

特別支援学校が福祉避難所となる(可能性がある)状況について、まず「(指定)避難所」や在宅避難、その他の避難先等について説明しました。すでにこの点について理解されている方は飛ばしてください。はじめて見聞きする方に向けてご説明します。

特別支援学校は「学校」ではありますが、小学校や中学校とは異なり原則「避難所」には指定されていません。もうこの時点で一般の方には意味が分かりにくく混乱を招きやすいのですが…内閣府の図に加筆する形で説明図を作成しましたのでご覧ください。

「避難所」は家屋が被災するなどして生活できなくなった方のために、小中学校体育館等で開設されます。ですが避難所の生活環境は厳しく、高齢・障害・乳幼児等、避難所で避難生活を続けることが困難な方々がいます。そうした方々のために、市区町村は地域防災計画という計画に基づき「福祉避難所」を設け、支援することになっています。

とはいえ、市区町村職員の皆さんが全て福祉的な知識や技術を持っているわけではありませんし、寝たきりなど全介助が必要(要介護度5相当)な方には、適切な設備や機材も必要とされます。通常の施設でそれらを確保することは困難です。

そこで各市区町村にある福祉施設(特別養護老人ホーム等)が、市区町村と協定を締結し、行政からの依頼を受けて要配慮者の方々を受け入れる福祉避難所となる仕組みが整えられています。この協定の締結先として、特別支援学校も含まれていることが多いのです。

避難所ではないのに「福祉避難所」になるってどういうこと?

行政区分と制度設計の関係で分かりにくいのですが、整理しておきますね。

特別支援学校の多くは都道府県立です。災害対応の最前線となる市区町村が直接、管理している施設ではないので、原則として”市区町村の地域防災計画”に基づく指定はされません。これは都道府県立の高校が原則として避難所に指定されていない状況なども同様です。

ですが、前項のとおり市区町村が要配慮者支援を行うには、専門的な知識や技術、設備や機材のある施設・特別支援学校の協力が必要です。計画で指定しない(できない)代わりに施設運営法人や特別支援学校と協定を結び、福祉避難所の開設・運営協力という面で協力を仰ぐことになっています。

そのため「避難所ではないけど福祉避難所になる(かもしれない)」という状況が生まれます。あくまで要配慮者の受け入れが前提であり”避難所”ではありませんから、無条件ですべての避難者を受け入れる必要はありません。ただ、実際に避難されてきた方を断れるか、家族や支援者はどうなのか、といった課題はあります。

地域防災と多様性への配慮

続いて地域防災と多様性への配慮という点から、災害時要配慮者・避難行動要支援者の方々で想定される課題と、それぞれ避難所でどのような支援が必要か等について、高齢・障害・妊産婦・乳幼児・外国人など、個別の課題ごとに説明しました。

避難所であれ福祉避難所であれ、特に「トイレ」については大きな課題であると強調しました。上記スライドで示す通り「仮設トイレに行けないなら、家にいるしかない」という方々の負担を軽減するためには、障害や特性があっても安心して使えるトイレ環境が重要になります。

こちらの写真は学校に備蓄されているトイレ用テントや非常食等を展示している様子です。研修や訓練に合わせて実際に学校で備蓄されている機材等を確認するのは大切なことです。学校のトイレが使用できるよう、携帯トイレを活用することも必要ですが、状況によってはこうしたテントや応急トイレの活用も必要になります。

後述する演習でも「配慮が必要な方々のトイレをどのように対応するか」というのは大きな課題となりましたし、また福祉避難所として機能させるのであれば、現実的な課題でもあります。

<演習>避難所運営ゲーム(HUG)の実践

学校の図面を使って避難者の受け入れについてシミュレーションを行いました。避難所運営ゲームは、一般の避難所(図面上は小学校)を想定した図上演習です。ゲームの登場人物(カード)は一般避難者を中心としながらも、配慮が必要な方々もたくさん登場します。

学校図面を利用したHUGについては下記の記事もご参照ください。

冒頭でも説明したとおり、福祉避難所と避難所の仕組みというのは制度設計上、分かりにくいものです。一般の方からすれば「学校=避難所」であり、特別支援学校であろうと都道府県立学校であろうと、近隣の方が避難されてくることは想定されます。

また、本研修の学校がそうであったように「最寄りの避難所(小中学校)まで歩いて2km」といった環境であれば「他へ移動してください」というのも心情的に難しいという場合もあります。

かといって無条件で受け入れれば、教職員の負担は大きくなり、結果として配慮が必要な方への支援が滞ってしまうという本末転倒な事態にもなりかねません。

そのあたりのバランスを各校の実情に合わせて考えていくためにも、演習形式で各校のマニュアル等もふまえて確認することは有効だと思います。ゲームについては市販されていますので、関心がありましたら冒頭の関連記事からご確認ください。

マニュアル等がまだ学校で定められていないようでしたら 福祉避難所の確保・運営ガイドライン(内閣府) なども参考にしてください。

振り返りや質疑応答から

研修の振り返りや質疑応答の内容から、ポイントを整理してみます。すぐに回答が出せるものではありませんが、今後のヒントになればと思います。

講義を受けるだけでなく、ゲームのように演習できたのはよかったです。読み上げられる内容がリアルで、すぐにマニュアルを作らないと実際に避難所になったとき大変なことになるかなと感じました。TVでは避難所の様子を何回も見てきたが、今日のカードのような人たちが続々と避難してきたら・・・ と考えると他人事だったことが初めて身近な問題として考えられました。

テレビで見る「避難所」とは条件こそ異なりますが、こちらの先生の特別支援学校は「最寄りの指定避難所(小中学校)は2km先」です。もしHUGで想定するような全壊・半壊の多い地域となれば、身近で敷地や駐車場の広い特別支援学校に”続々と避難”されてくることは想定されます。

避難所運営ゲームをしてみると、実際を想定して多くのルールを決めておかないと多くの人は動かせないということを実感しました。その時に色々作るのでは遅いので事前に何が必要なのかルールなどを決めていく必要があると思いました。

大事なポイントです。筆者は(福祉)避難所のルールについてはまず大きく2つのルールで考えるようアドバイスしています。

(1)「管理運営ルール(一時受け入れのエリア、立ち入り禁止エリア等、不変のルール)」
(2)「生活ルール(食事や就寝場所、消灯時間等、柔軟に変えていくルール)」

1点目は施設として、教職員として避難されてきた方に確実に守っていただきたいルールであり、時期や状況が変わろうとも原則として不変のルールです。まずこれを整理することから始めると良いでしょう。

2点目は、避難者の状況に応じて柔軟に変えていくルールです。たとえば受け入れスペースも最初は体育館かもしれませんが、人数が減ってきたり、より個別対応が必要な場合は特別教室等での対応が必要となるかもしれません。初動期の大まかなルールは定めておき、その後は行政等とも調整しながら変えていくことになります。

さらに各ルールは「公平なルール」か「平等なルール」に分けられますが、そのあたりは下記の記事でイラスト付きでご紹介しています。

福祉避難所に指定されている(特別支援)学校では、最低限あらかじめ準備しておかなければならないことがあるのでしょうか。

先に示すところの「管理運営ルール」として、以下の2点は準備しておく必要があると考えています。

(1) 児童生徒(家族)の安全安心を確保するスペースと物資(及びそれを実行する手順や人員配置)
(2) 要配慮者を受け入れ、対応するためのスペース(物資については備蓄品や不足時の対応を確認)

まず児童生徒が滞留するまたは早期に避難してくることを想定して、児童生徒及び家族が安心して留まれるスペースを決めておき、トイレや食事など対応の方法も確認しておきます。マニュアルが整備されているはずですが、そのとおりできるかどうかは、訓練や演習で確認されておくことをお勧めします。

次に福祉避難所となる場合を想定した「一時受け入れ」のスペースを決めることです。一時、というのは後で移動していただくことも想定して、という意味です。避難されてきた方に必要な配慮の詳細を、受付時に把握することは難しいかもしれません。体育館やエントランスホール、大教室など、ある程度の人数が入るスペースを確保しておき、そこで一時留まってもらってから、必要な配慮に応じて然るべき場所に移動してもらうという流れになります。

他にもいろいろポイントはありましたが、ひとまず上記のような振り返り・質疑応答を行い研修を終えました。

まとめ ~制度や協定と現実的な課題のすり合わせを~

特別支援学校✕福祉避難所、というテーマをご紹介しましたが、筆者が関わった学校でも教職員・管理職の方々からは様々なご意見がありました。分かりやすいのは「福祉避難所は行政の依頼に基づくものなので、行政の指示に従って対応するのが原則」というご意見です。確かに制度設計上はその通りですし、協定書の文面上もあくまで「支援」という位置づけかと思います。

ただ、現実的な課題については繰り返し述べているとおり「福祉避難所か避難所か、一般の方には分かりにくい」、あるいは「分かったとしても納得はできない」ということは想定されます。また児童生徒やその保護者、支援者などが受け入れを希望する可能性もあるでしょう。

そもそも行政側からの要請・指示・依頼、相談などが来るより早く避難者が集まるかもしれません。管理職の方が「要請がないので受け入れられない、移動してもらう」と判断されるかもしれませんし「地域のためにも受け入れよう」と判断されるかもしれません。

いずれも可能性に過ぎませんが、筆者は防災とは常に「最悪の事態」を想定することがスタートラインだと考えています。特別支援学校や福祉避難所に関わる方、あるいは地域の皆さんは、ぜひこの機会に制度設計上の役割・機能と、現実的な課題とのすり合わせを、研修や訓練を通じて考えていただければと思います。

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